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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
129/176

-128-訳と、理由と、取り調べと。

「こっちを向いてください」

「…………」


 放課後、例の屋敷にて。


 私は思いのままに「気になったこと」をぶちまけてみた。


 どうして、言語が違うのに読書ができるのか。

 どうして、お金に関する知識をくれなかったのか。

 どうして、頑なまでに出自をごまかす必要性があるのか。


 オーディンは、そのすべての質問に対して視線をそらした。別に難しいことは聞いていない。神界の、ひいてはここヴァルハラを収める軍神様にはいささか簡単な質問だったとすら思う。


「もう一度だけ言います。こっちを」

「わかった。すべて話そう」


 言い終わる前に居住いを正したのは正解だと思う。なぜなら、私がさりげなくかかげた右手には煌々と輝く火球が発生していたのだから。

 無論、ぶつけたりはしない。あくまで脅し用だ……ホントだよ?


「それでは、質問に答えていこう。

 ①神界はそういうところ。

 ②ヴェルダンディの発案。困ってる顔が見たかったとか。

 ③説明面倒じゃん?

 ……こんな感じだ」

「何一つ納得いかない……」


 なぜか神界の文字が読める件に関しては「そういうことだから」という定義で返され、金銭に関してはあのド腐れネット廃神の思いつき。

 加えて頑張ってバレないようにしていた偽装工作も、ただ「説明が面倒」って……


「いやな、既に神界中に情報は行き渡ってるんだ。ギャラルホルンは下界ですら聞こえるし、それは神界も例に漏れない。そして敵が判明してて、その目的も明らか……よくよく考えたら、なんで隠してるんだ、君」

「あんたの指示だよ!」


 自分で説明しながら整理がついたオーディンが、はて?と首を傾げる。も、燃やしたい……


「まぁしかし、我々と密接な関係があるというのは話さない方が身のためだな」

「どうして?」

「『屋敷に連れていけ』と人が集まるだろう?」

「あー」


 それは面倒だ。非常に面倒だ。ヒルデなんかはそれを知った途端にトランクにノート10冊と筆を何本も入れ、貢物としてなんか高価な酒やらなんやら詰め込んで持ってきそうだ。

 あの子は勉強熱心すぎて怖い部分がある。渡された教科書は、書き込みで字が読めなくなっていた……これでは本末転倒な気がするが、「書いた方が覚える」と言われたら「そうですか」と返すしかなかった。

 もちろん教科書はいただいた。解読すればなんとか読めないこともないし、幸いにも書き込み分は消せたので。


「……ベルのことは黙ってた方がいいですね」

「当たり前だ。あいつは神本人だから……下手するとまたこの間の不良グループのような輩に絡まれかねん」

「だよね……あ、話は変わるんだけど私のエインヘリヤル」

「ああ、ヨルムンガンドから話は聞いている。英雄の魂ではなかったそうだが……」


 元魔獣だからね。英雄でも何でもない、むしろその英雄に討伐される側の生き物だったからね。


「一応紹介するね。アース」

『おはよう藍波』

「今放課後だよ……さっきまで学校だったじゃん……」


 のっけから印象最悪である。まるで寝てたかのような振る舞い……欠伸+伸びをしている……に頭痛を覚え、眉間に二本指を当てる。


「ほう……こいつが君のエインヘリヤルか」

「ええ……半分くらいは不本意ですけど」

『なんてこと言うんだ!』


 だって事実だし。まだ色々と根に持ってたりする。


「自己紹介を」

『なんか釈然としないけど……まあいいか。僕は下界で巨獣なんてものをやっていたアースと申します。前の名はアストロスですが、この姿になってからはアースという名をもらったので』

「ふむ、あの象か……小さくなったものだな」

『最適化した結果です。やろうと思えば戻れますが……』

「「やめんか!」」


 敬語で物騒なことを口走るアースを押さえつけ、海老反り状態で《捕縛》を施す。あってよかった【朧月】。


「顔合わせ程度はしといた方がいいかなと」

「心遣い感謝する。しっかり手綱を握っておけよ」

「もちろん」


 これを自由にした時の被害が計り知れない。前世の巨体に加えて人並みの思考を持ってしまった今、ヴァルハラ中を文字通り潰されてしまうだろう。


『君は僕をなんだと思ってるの!?』

「人類悪」

『……やば、否定出来ない』


 前世で暴れ回っていた──というよりただひたすら歩いてただけなのだが──アストロスは、まさに人類悪とあうに相応しいだろう。結果として打ち倒されたわけだし、許してやってもいいとは思うが。

 否定の術がないアースが涙し、吊り下げられた【朧月】製のロープの下に水たまりを作っていた。


「ともあれ、質問には答えたな。では解散っ!」

「……なにか隠してますね」

「いや全く」

「そういえばウルドさんは?手続き終わったって言ってたよね?」

「…………」


 あっ、あからさまに目を背けた……これはワケありだな。問い質さねば。


「フギンさん」

「はい」

「フリッグさんを」

「かしこまりました」

「うぉいフギン!?」


 フギンさんはネズミに変身して部屋から抜け出して言った……哀れ、オーディン。


 程なくして窓からやってきた、花萌葱(はなもえぎ)色のレオタード姿のフリッグさん。


「で、私が呼ばれたのは?」

「なんか隠し事してるっぽいんで」

「なるほど」


 スパァン!


「キリキリ吐きなさい?(ニッコリ)」


 何故か手にある黒塗りの鞭を叩きつけ、有無を言わさぬ笑を向ければ、オーディンの口は簡単に割れた。


「……ウルドがな、下界に降りていった」

「「……他には?」」

「あのな!これ結構重大事件だぞ!」


 何となく普通な気がして首をかしげてしまったが、神様がそう簡単に下界に降りていいものではないらしい。なかなか会えないからこその神……的な?


「行き先はわかっているから大丈夫だし、預かり先も問題ない。というか『ミズガルズ』のところだ」

「あー。あそこならヴェルさんとも面識あるし、リリィもカッシュくんもいるからね。滅多なことがなければ安全か」


 ということは既にウルドさんは復帰してたのか。敵としてあった時は顔を見る余裕がなかったので、ゆっくりと話してみたかったんだけど。


「フリッグさん、ご足労ありがとうございました」

「いいえ。オーディンが隠し事をするから良くないの。気にする事はないわ」


 うん。やっぱりフリッグさんは大人というか、例えるなら不◯子ちゃんなんだよな……頼りになる姉貴分といった風貌だ。

 伴侶であるオーディンは冷や汗を滝のように流しているが。


 他に聞くことは特にないので、今日は寮に帰ることにする。神界のお金も少しもらったし、公共施設以外の店でも買い物ができるようになったのは嬉しい誤算だった。


 レギンなんかは外出理由問いただしてきそうだし、風呂に入る時にでも話しておこうかなぁ……

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