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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
128/176

-127-勘と、理論と、自己流と。

 午後、エインヘリヤルに関する実習。


「昨日までにライドが成功した人は僅か数名……ですので、本日もライドに挑戦してもらおうと思います」


 現れたスクルド先生がそう宣言し、ライドができなかった生徒はやる気をみなぎらせていた。


「昨日ライドを習得した生徒は、コツや体感などを教えてあげてください。イメージが出来るだけでも、かなり違ってきますから」


 なるほど。ということは、私やレギン、ヒルデの役回りはこっちか。

 ヒルデなんかは教え上手っていうイメージだけど、レギンは心配だなぁ……


 額に絆創膏を貼ったミストを初めとした二学年の生徒達を見ることになった私は、取り敢えずライドを見せてみることにした。


「ライドする上で重要なのが、エインヘリヤルを物質として考えないこと。空気や水なんかと同じ認識で「取り込む」と、自然とライドができるはず」


 脇で欠伸をしているアースの尻尾を引っ張りながら説明──ジークフリートの言葉そのまんまだが──をし、実際にライドを……


「ねぇアース。やる気あるの?」

『今は気分じゃない』

「きつねうどんにしてやんよ」

『あれは油揚げだろう?』


 周りはぽかんとしている。私は一つ咳払いをすると、アースの耳を掴んで引き寄せながら小声で指示する。


「頼むから真面目にやってよ。さっきまで元気だったじゃん」

『いやね、一回送還されて昼寝してたんだ。だからぽわぽわしてて』

「ライド」

『ちょっ、ああああああ!』


 アースを掴んだまま、無理やりライドしてやった。吹き出る炎が全身を覆い、狐耳と二本の尻尾が生える。


 昨日見たスクルド先生のライドは、エインヘリヤルと触れ合っていなかった。ホログラフだからアテにならなかった部分もあるが、今日試してみようと思ったのだ。

 結果として、別にぶつかり合わずともライド出来ることが判明した。


『き、急にライドしないでくれ!ビックリしたじゃないか』

「でもちゃんと出来るにはできたね」

『僕が合わせたからね!感謝してくれよ全く』

「へーいへい。……とまぁ、こんな感じです」

「「「「わかるかぁ!」」」」


 あれぇ?おっかしいなぁ……。


 ◇


 ──Sideレギンレイヴ──


「違う違う!こうやってこう!んで、バァーン!」

「こ、こう?やって……バァーン?」

「惜しい!バァーン!」

「ば、バァーン!」


 うーん、どうして分かってくれないんだろ。エインヘリヤルを「取り込む」作業はもはやイメージするしかないというのに。

 どうもみんな頭で理論付けて考えようとするからうまくいかないんだよなぁ……勢いが大事、勢いが。


「せーのっ!バァーン!!!」

「あっ!出来た!」

「よっしゃ!皆の者、彼女に続けぇ!」

「「「おーーー!」」」


 ふふん。私の教え方は世界一わかりやすいのだ。ついにライド成功者もでてきたし、大口叩いてた藍波の方も見に行きますか……って、まさかのゼロ人!


「ぷぷぷ〜!教え方が悪いんじゃないですか先生?」

「うわ面倒なのが来た。今忙しいから、あっちいってなさい。しっしっ」


 相変わらず冷たいというか、神経を逆なでしてくるというか。突っかかりたくなるんだよね、彼女は。


「落ちこぼれティーチャーはゆっくりやってるといいさ。私の方はすぐにみんなマスターしてくれるからね!」

「言ってろ脳筋が」

「なにおぅ!?」


 い、いかん、これじゃああっちの思うつぼだ……ヨルム先生の視線も気になるし、今日のところは引き揚げてやらぁ!


 ◇


 ──Sideブリュンヒルデ──


「いいですか。まず、エインヘリヤルというのは自分の神性を元にして生み出されています。要するに、体の一部です。それを一旦外に出して強化し、また体内に戻せば──ほら、ライド状態です。鎧の形や羽の有無はエインヘリヤルによって異なりますが、やることは皆同じはずです」

「……うーん、全然わからん」

「もっと簡単にできますか?」


 深く理解しようともしない癖に、教える側の人間にもっと噛み砕けとせがんでくる。少しくらい努力をしてほしいものです。


「と言われても……これが一番噛み砕いた状態ですね。あとは各自のエインヘリヤルと息を合わせるだけなので何とも」


 性格の問題もあるだろうし、私もそこまで踏み込むつもりはない。というかそれは無理な話。


「やっぱりレギンに教わればよかったかな……」

「今からでも遅くないよね?」

「うん……悪いけど、あっちの班に混ぜてもらおうか」


 私が理論の解説に戻ると、数人の生徒が離脱して別の班へと行ってしまった。私としても、やる気のない人を教えている余裕はないので構わないのだが、なんとなく心に棘が残っている気がする。


『君も苦労人だね』

「アーサー……私、やっぱり堅いかしら」

『まぁ、そう言わざるを得ないね。だが、それもまた個性であり、君の譲れないものでもあるわけだ』

「そう、だけど……」

『なにも、他人を理解しろとは言わない。でも、きっと歩み寄ることは出来るはずだよ』


 過去に名を馳せた英雄だけあって、やはり含蓄のあるようなことを言ってくれる。否定はせず、付け足すことでさらなる効果を得ようとする姿勢……見習わなければ。


「……そうですね。わからない部分があれば、その時点で質問をしてください。「ここがこう分からない」というのを教えていただければ、私としても教えやすいですし」

「えっと、じゃぁ……」


 私の提案に、一人の生徒が質問を飛ばしてくる。その質問を順に紐解き、事象が起こる過程と理論を頭に叩き込んでいく。


「なるほど……頭では理解出来たよ!」

「では少し試してみてください。まだわからない部分がある人は……」


 頭で理解した方が、きっと安定した結果がのぞめる。今日出来たからと言って、明日出来る確証はないのだから。事実、その場の勢いで出来たものは、大抵翌日になってできなくなっている。


「……あっ!出来たよヒルデ!」

「っ!やりましたね!その感覚をよく覚えておいてください」

「うん!」


 よかった……私のやり方は、間違いじゃなかった……!


 その後も次々と成功者を出し、反復練習をさせた。感覚を忘れないよう、何度も入念に。明日も、明後日もできるように。


『うむ。その志、見事。槍が強くなるわけだ……』


 肩に乗った鷹が、そう呟いた。


 ◇


 ──Side藍波──


 レギンのちょっかいを受け、私の班の面々はやる気をみなぎらせていた。


「ほかの班の人達、結構成功してるよ!」

「ほんとだ……私達も急がなきゃ」


 うん。この流れはよくない。


「はいストップ。なにも急ぐ必要はないと思うよ。ヒルデほど詳しい理論はわからないし、レギンみたいにバカにはなれないけど……最後は積み重ねが実を結ぶ。何度も失敗して、何が悪かったのかを振り返る。その点を直して次の試行に移る。これが大事だと思うんだ」


 ついでに、彼女たちは焦っている。周りに置いていかれているような気がして、気持ちが早まっているのだ。

 そんな状態で訓練をしても結果はよくならない。適度にリラックスして、適度に追い込む。要はマイペースだ。


「エインヘリヤルともよく話してみて。彼らはやり方を熟知してるはずだから、イメージの仕方とか、きっと教えてくれるはずだよ」

「あの……意思疎通のできないエインヘリヤルはどうしたら」


 おずおずと言った感じで質問をしてきたのは、契約の時にゾンビを引き当ててしまった子だ。私の知るゾンビには流暢に会話をする奴がいたが、あれは極めてレアなケースなのだろう。


「別に自分のエインヘリヤルにこだわる必要はないんだよ?私もミストのエインヘリヤル……ジークフリートに聞いたんだし」

「わかりました!教官殿!」

「き、教官殿って……」


 ビシッと敬礼をして、ゾンビの元へ戻っていく。ゾンビはなにやら呻いているが、意思疎通は無理そうだ……ん?んんん!?


 ゾンビが懐からスケッチブックを取り出し、サラサラと何かを書いて……あっ!その手があったか!

 てか字ィうめぇなあのゾンビ。習字とか書いたら高値で売れそうだ。


 じゃなくて。


『俺を恐れるな。無理な話かもしれないが、まずはそこからだ』

「わ、わかった」


 あのペアは問題なさそうだな。それにしてもゾンビって多彩だな……唯一の人形だからかな……?

 それにあのゾンビ、腐食臭なんかは全くしないのだ。見てくれがグロいだけで、スケッチブックに字を書き込む姿は何とも無害そうな……『まずは互いのことから知ろう。好きな食べ物はなんですか?』って小学生か!


「教官!こんな感じですか?」

「誰が教官だって、おお……できてるよ!」

「マジすか!いよっしゃぁ!」


 肩から大口径のランチャーを2門生やした生徒に賞賛を送り、そのまま練習を続けさせる。ヒルデの班でもやっている、一旦解いてもう1度ライドする練習をし、確実性を求めていく。


「ミストはどう?」

「うーん、もう少しな気がするんだけど……」

『あとは思い切りだけだな。調整は上手いんだが、後一歩が踏み出せんようだ』


 ライドを途中で失敗すると、エインヘリヤルが体からはじき出される。それはくしゃみなんかと同じで、エインヘリヤルを「異物」として認識しているからだと思う。

 ……そう考えると、アースってだいぶ馴染むんだよな……やはり【雪月花】の中にいたからかな?


「頑張ってみる」

『その意気だ』


 あの二人はきっと仲良くなれるだろう。問題なさそうかな。

 他の生徒もエインヘリヤルとの交流を深め、仲良くなろうとする者が多数見受けられた。エインヘリヤルはこういった場数を踏んでいるので、何かと支援してくれるみたいだ。


 だが、魔獣組はそうもいかないようで……


「ああっ、へちま!どこいくの!?」

『プギィィ!』

「まってぇぇぇ」


 猪型の魔獣をエインヘリヤルとした子が、必死になって追い回している。というか、「へちま」って名前なのかな……?


 なんやかんやあって、それぞれの班で数人の成功者がではじめたあたりで今日の授業は終了となった。

 エインヘリヤルは校則で自主トレーニングができないので、帰ってから出来ることといえばひたすら座学である。ヒルデ班の人達は捗るだろうけど、レギン班はご愁傷様ってことで。

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