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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
124/176

-123-契約と、英雄と、魂と。

「はいみなさん落ち着いて。スクルドは現在行方不明ですが、これは過去の投影……ホログラムのようなものです。ウルド神によって、卒業当時のスクルドを残してもらっています」

「ヨルム先生、ご説明ありがとうございます。先生のいうとおり、私はエインヘリヤルの授業限定の講師とでも思ってください。録画なので少し会話にズレがあるかもしれせんが、大抵のことは答えられますので、質問も受け付けます」


 なるほど……恐らく、このヴァルキリー養成校始まって随一の成績優秀者だったのだろう。ホログラムを残してまで技術継承をする……さすがだな。


「はいはい!先生は今どこにいるんですか!」

「それが答えられたら苦労しません」

「ですよね!」


 早速レギンがアホ丸出しで質問するが、スクルド先生は真顔で返していた。ヒルデからも視線を浴び、逃げるように引っ込んでいくレギン。何やってんだか。


「それでは、見本を見せていきます。……来て」


 両目を伏せて集中した後、粒子が集まってスクルド先生の頭の脇に小柄なフクロウが姿を現す。


『……召喚に応じ顕現した』

「久しぶりイスカンダル。元気だった?」

『ああ。そちらは大変そうだな』


 イスカンダルという名は、日本にいた頃よく聞く名だった。とある宇宙戦艦の向かう先だったり、征服王だったり……恐らく後者が正解だろうけども。


『学生諸君。我々英雄と呼ばれる魂は、味方につけばたしかに強い。だが、ヨルムの説明にもあったように、扱い方を誤れば……死あるのみだ』


 イスカンダルはその小さな体から濃密な殺気を放った。耐性の低い生徒なんかは腰を抜かしていたが、Aクラスの面々は涼しい顔だ。むしろ目を輝かせているのが大半といったところ。


『……フン、流石はAクラスと言ったところか。我の殺気に微塵もなびかぬとは』


 え、待って。クラス分けの仕方って、実力順なの?


「そりゃあそうでしょうイスカンダル様?Aクラスはエインヘリヤル適性がトップクラスの精鋭なんですから」


 ……なんてこった。


 ◇


 スクルド先生から改めて諸注意を受けている間に、ヨルム先生が何やら水晶玉のようなものを持ってきた。水晶玉は綺麗に透き通っており、中心で煙のようなものが渦巻いているのが見て取れる。


「これが英雄の魂……エインヘリヤルとの契約水晶です。手を触れ、自分がどう在りたいか念じてください。

 例えば、一撃すべてを覆す逆転の力。すべてを癒す治癒の力。大切なものを守る守護の力。

 願いの強さによって、高名な英雄が力を貸してくれることでしょう」

『ただ、選ぶのはあくまで英雄たちだ。願った力とは正反対の者が出てくる可能性もある』


 おお……どことなくガチャっぽいが、信じるものは救われる感じのシステムなのだろうか。物欲センサーなんぞ願いの力でぶち壊せ。確率の壁を越えてゆけ。


「では、Aクラスから……」

「いえ、ここはFクラスから行きましょう。序盤で良い英雄を引き当ててしまっていると、プレッシャーにもなりますし」

「わかりました。では1人ずつこちらに手を添えて……」


 わー。Aクラスが最後になったー。

 クラスはA~Jまであるのだが、何故かGクラス以降は別日になっていた。

 私としては遅くなっても構わないのだが、ほかのメンツは……


「私の英雄ぅぅ!」

「やめなさいレギン。はしたない」

「ヒルデは嫌じゃないの!?」

「英雄を侮らない。強い願いはきっと届く」

「……そういうもんか」


 騒いでいたのはレギンくらいだった。ほかのクラスメイトは緊張からか水晶を眺めたりイスカンダルを観察したり……


 一時間くらいして、ようやく私たちの順番がやってきた。F~Bクラスの契約を見ていてわかったことは、必ずしも英雄の魂がついてくる訳では無いらしい。

 1番可愛そうだったのが、ゾンビ。召喚した途端に阿鼻叫喚となり、召喚者は気絶していた。

 こんなふうに、魔獣の類まで現れるのか……使役には問題ないらしいけど、強さは魔獣依存なので当てにならない。


 そして、魔獣召喚以外……要は英雄の召喚時には、何故かすべて動物の姿だった。理由は後に説明するとのことなので、ワクワクが止まらない。


 そんなこんなで、Aクラスの番。


「っしゃー!はりきって召喚するよ!」

「英雄達に鼻で笑われそうだよね」

「何か言った?」

「いんや?ほら、さっさと契約してらっしゃいよ首席さん?」

「なんか棘のある態度だな……まあいっか」


 Aクラスは首席、次席、番号順という手合いで契約していくので、転入生である私は一番最後だ。いい人残ってるといいな……


「……私は、打倒する力を望みます。剣一本で、どこまでも切り拓けるだけの力が……欲しいっ!」


 首席のレギンが念じれば、水晶はそれに応えて淡く輝きはじめる。


「──ん?光が強……」


 今までの契約は、水晶が少し光る程度だったのだが、レギンの契約は光量が段違いに大きい。修練場全体を包み込むほどの輝きに、思わず目を覆ってしまう。


 そして──


『……ほう。まさか、俺が呼ばれるとは』

「……はじめまして。レギンレイヴです。貴方が私のエインヘリヤル……ですね?」

『うむ。俺こそが貴様のエインヘリヤル……ヘラクレスだ』

「ヘラクレスッ!?」


 ヨルム先生が卒倒しそうになっている。無理もないだろう……こんな問題児が、こんなにも高名な英雄を引き当てたのだから。


 ヘラクレスと名乗った鳥……あれは(はやぶさ)だろうか。彼はレギンの周りを一周し、彼女の方に留まった。


『よろしく頼むぞ』

「うん!」


 すっげぇ……マジモンの英雄引き当ててやがる……カブトムシではなく、オリュンポスな方の……

 これは負けてられないな。


「次、ヒルデ」

「はい」


 ゆっくりと前に歩み出たヒルデは、水晶に手を添えながら願いを口にする。


「……私は、すべてを貫き通す力。それ以上も、それ以外も求めない」


 なんとも上から目線な願いだが、願ってる時点でそれを突っ込むのは無粋か。

 ヒルデの水晶もまた、レギン程ではないが強く光り輝き、光が収まれば、そこには雄々しき一羽の鷹が。


『召喚に応じ参上した。我が名はアーサー。君の一番槍となろう』

「……光栄です」


 げぇぇ……ヒルデもなんか凄いの引き当ててるぅ……

 アーサー王は、その逸話からどうしても剣であるエクスカリバーに目が向きがちだが、裏切り者モルドレッドとの決闘時に槍を使っている。

 主兵装が槍のヒルデには似合いのエインヘリヤルだろう。


 それにしても、二人とも猛禽か……いいなぁ。かっこいいなぁ。


「……では最後。七海藍波」

「……おっと。はい!」


 レギンとヒルデのエインヘリヤルを羨んでいるうちに、私の番になったようだ。

 こうして順番が回ってくると緊張するなぁ……


 皆と同じように契約水晶の前に立ち、目を閉じて手を添える。

 そして、私の願いは──


「……誰にも負けない力。どんなに倒されようと、それでもと前を向いて起き上がれる力を」


 実際、私は実力面では相当な域に至っているという自負がある。【朧月】のおかげもあるが、変幻自在の戦闘スタイルに持ち前の瞬発力。今は敵となった彼による地獄の特訓で培った判断能力。

 こちらに来てからは万能回復の妖術を覚えたり、《幻牢》を初めとしたからめ手もある。


 でも、それでも足りないものがあった。

 忘れるはずもない、あの神殿でのこと。


 なす術なく、やるしかなかった彼のこと。


 終わったあとで気付いた、とても簡単なこと。


 私は、精神が弱かった。


「もう、あんな思いをしなくてもいいように」


 惨めだった。立ち上がれなかった自分が許せなかった。叩いてくれた少年がいなければ、私は未だに這いつくばっていた。


 私を中心に荒れ狂う妖力に気付かぬまま、私はありったけの願いを口にする。


「……絶望に負けない強さを、ここに」


 光が、学園中を照らした。



 ◇



 同時刻、二学年学生寮にて。


 大事に折りたたまれた、見た目は防御力皆無なそれから青白い光が飛び出した。それはまるで、そうすることを自ら望むように、あるいは引き寄せられるように、一直線に飛んでいった。


 壁をすり抜け、空を駆け、生活する住人の目にも止まらず──強い光を放っている、それを送った、彼女の元へ。



 ◇


 レギンやヒルデより光が強い気がするのは、単に水晶に近いだけではなさそうだ。

 目を覆うにも、片手では限度がある。それに、指の隙間から差し込む光が目の奥まで届き、様々な色を見せてくる。

 しかし、それは不快な光ではなかった。むしろ、暖かいような……


『……目をあけられる?ああ、ちょっと強すぎたね……よっと』


 謎の声に耳を済ませると、あれだけ強かった光が収まって……目の前に、薄桃の狐が浮いていた。見たことも会ったこともない……筈なのに、私には誰だかはっきりとわかる。


『僕の名前は……いや、あの名前は既に捨てたさ。君が名付けてくれたまえ』


 宙を嬉しそうに跳ねる狐。そして名付けをせがんでくる彼に、私は新たな名を与えることにした。

 でも、その前に気になることがひとつ。


「ねぇ、どうして狐になってるの?」

『え?嫌だった?』

「いや、別にそういう訳じゃないけどさ。そもそも、どういう繋がりで?」

『うーん、一言で言うなら、【雪月花】だね』

「あー。なるほど、よくわかった」


 つまり彼は、あれから魂をここまで飛ばしてきたと。狐になってるのはどういう理屈かわからないけど、それは追って話を聞こう。


『それで、名前は決まった?』

「安直かもだけど……アースで」

『了承した。僕はアース。これから君に仕えよう』


 元巨獣・アストロスは、そう言って宙返りをした。


 ◇


「あいたた……まだ目がチカチカする……」

「私も。藍波、彼はなんの英雄?」


 レギンとヒルデが、それぞれのエインヘリヤルを連れて挨拶に来た。

 私が下界から来たことは内緒なので、説明に困るのだが……


『僕は不退転の象徴。新たな名をアースという。よろしくね!』


 なんともフレンドリーな象だったものがレギンとヒルデに挨拶してくれていた。


「……英雄、という訳では無いみたいね」

『そうだね。僕は魔獣が元だから』

「あれだけの強い光で魔獣?訳が分からん……」


 首席と次席が考察を重ねる中、エインヘリヤル同士の話し合いが始まっていた。


『っ!?お主、やはりあの……』

『ん?あっ!君は確か、僕が潰しかけたお城の人だね?久しぶり〜』

『随分と様変わりしたものだな……』

『アーサー殿、こちらは?』

『ああ、彼は……』


 アースよ。前世で何をやっていたのか、あとで詳しくお話を聞こうじゃないか。

 エインヘリヤル同士で出自がバレても大した問題は無いだろう。アーサーもヘラクレスも口は固そうだし。


「はーい皆さん。契約したエインヘリヤルとお話をしたいのはよく分かりますが、これから説明に入りたいと思います。スクルド」

「はい。まず、皆さん疑問に思っているであろうエインヘリヤルの姿形です。彼らは揃って動物を象っていると思いますが、それはこのように──」


 スクルド先生とイスカンダルが共に輝いたかと思えば、そこには背中から羽を生やし、イスカンダルの羽毛と同じように赤い鎧を身にまとったスクルド先生が立っていた。


「エインヘリヤルを使役する上で、最も最高率の技術──『ライド』です。身体能力が強化され、翼が生える人は空が飛べます」


 そう言ってスクルド先生は翼をうち、宙へと舞い上がった。そのまま少し武器を振ってから降りてくる。


「このように、私の場合は空中戦闘も意のままです。鳥類は空中戦に、獣類は陸上戦に、魚類は水中戦に特化しています」


 ライドを解き、イスカンダルと分離したスクルド先生はそう述べて、レギンを指名した。


「では、少しやってみましょうか。エインヘリヤルがリードしてくれるので、それを拒まずにライドしてみてください。……ないとは思いたいのですが、希に悪意あるエインヘリヤルもいますので、権限を渡しすぎると……」

「シーカー化するんですね?でもヘラクレス、全部いっても大丈夫でしょ?」

『問題はない。だが、お前は人を信用しすぎだ。1/10あればライドはできるからな』


 ヘラクレスが飛び立ち、レギンの頭上を一回りしてから直角に堕ちてきた。


『今だ!』

「っ!ライド!」


 次の瞬間には、レギンに翼が生え、白地に黒の模様がついた鎧姿となっていた。


『ふむ。流石は首席。一発でライドしてみせたか。どれ、少し飛んでみよ』

「う、うん」


 レギンは翼に力を入れて──天井に突き刺さっていた。


「レギィィーン!」

「ごっふ……ヘルメットがなければ即死だった……」


 ヘラクレスと分離しながら堕ちてきたレギンがそう零し、鎧の頑丈さを認識する。


「はじめは加減がわからないと思います。ですので、エインヘリヤルにコツを教わりながらゆっくりやってみて下さい」

「は、はいぃ……」


 担架で運ばれていくレギンを尻目に訓練が始まり、私はミストと組むことになった。


「よろしく、ミスト」

「う、うん……えっと、私のエインヘリヤルのジークフリートです」

『よろしく』

『ジークフリート?どこかで聞いた名だ……あっ!?僕が踏み潰しむぐぅ』

「この子は私のエインヘリヤル、アースね。ちょっとした付き合いがあって……」


 前世の記憶をぶちまけようとしたアースを止め、ミストの足元にいる小さな黒竜……ジークフリートにも挨拶をする。


「ジークフリートって竜殺しなんじゃないの?」

『それを言われると俺も弱い……どういう訳かこの姿なのだ……』


 竜墜のジークフリート。ファフニールを討ち取ったとして語り継がれる英雄だ。そのドラゴンスレイヤーがドラゴンに身をやつしているとは皮肉以外のなにものでもないだろう。


「じ、じゃあライドの練習……だよね?」

「うん……アース、やり方分かる?」

『分かるからこの姿になったのさ。ほら行くよ』

「えっちょ!ら、ライド!」


 アースが突撃してきたので慌ててライドと叫んでみたが、結果は私が突き飛ばされるだけだった。


『もう……ちゃんとライドしなきゃ』

「こんなんで出来るかぁ!」

『もっと心を開くんだ!僕を受け入れへぶぅ!』

「ゆっくり、ね?」

『はい……』


 また突撃してきそうな勢いだったので、顔を挟んで落ち着かせる。アースは尻尾をたれさせて反省したようだ。


「え、エインヘリヤルって偉いんじゃないの……?」

『モノによるが……あれは特殊な関係なんだろう。真に受けるなよ?』

「は、はい!」

『……お前が望むなら、あのように砕けても構わんぞ?』

「えっ、あ……考えておきます」

『そうか』


 残念そうな小竜はパタパタと翼をはためかせ、ミストの目線の高さまで浮き上がった。


『よし、では早速練習だ。見た目が変わることから体表のみに意識が行きがちだが、我々は身体の中にも影響をもたらす。普通はそれを自衛してしまう訳だが、その免疫作用を一時的に弱めてほしい』

「えぇ……そんなのわかんないよ……」

『やってくうちになれるさ。行くぞ』

「うんっ!」


 ゴチンッと響かなくも痛々しい音とともにミストとジークフリートが激突し、ミストは目を回してしまっていた。

 ヘロヘロ〜と倒れるミストを介抱していると、余裕の表情のジークフリートが、


『むぅ……別に頭じゃなくてもよかったか……』


 なんて気絶損!ミストが可愛そうだ……

 

「後で謝ってあげてね」

『そのつもりだ。それより、お前達はやらなくてもいいのか?』

「もちろんやるよ。アースがへそ曲げてるだけで」

『だいたい、君が合わせないから僕は……』

『うむ。目も当てられないほど面倒な奴だな。もう一度死ねばいいのに』


 先程止めた会話の内容からして、ジークフリートはアストロスに踏み潰されたのだろう。それがこのような再会となって複雑な気分のようだ。


「まぁ……トドメを刺した私が言うのもあれだけど、この子はなかなかしぶといと思うよ?」

『しつこい、の間違いじゃないのか?』

「こうして見てるとそんな気がしてくるよ」


 小竜と談笑していると、それに気付いたアースが口を挟んできた。


『藍波!僕というもの(エインヘリヤル)がありながら、他の男と話すなんて!』

「ええい誤解を招くようなことを言うな!そんでアースは性別とかあるの!?」

『気分はオスだ!』

「律儀に答えんでよろしい!」

『行くよ!』

「かかって来やがれ!」

『「うおぉぉぉぉぉ!!」』

『……似たもの同士、か』


 またしても失敗した私達の後ろで、ジークフリートが一人ため息をついていた。

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