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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
118/176

-117-弁明と、毒蛇と、無意識と。

「あら〜。皆さん、どこへ行ってたんですか?」

「「「「トイレです」」」」


 廊下を疾走しながら決めた言い訳を、全員が口を揃えて発言する。レギンが言うに、トイレは仕方がないからいい!との事だった。


「あら〜。随分と仲良しになったみたいですね〜?それで?本当はどこに?」


 しつけぇなこの先生!嘘をついてるのがバレバレだ!


「トイレの場所を教えて、ちょろっと探検してたの。それで放送が聞こえたから戻ってきたの」

「ふぅ〜ん?そうなんですか……私てっきり、修練場で放送を聞いて、ダッシュしてきたと思っていたんですが」


 完答しやがった!絶対に確信犯だろこの人!


「ハハ……そんなわけないじゃないですか。ねぇ?」

「ダヨネー、ソンナワケナイヨネー」


 ダメだ、レギンが使い物にならなくなった。こうなったら私が一肌脱ぐしか──


「ちなみに、放送は修練場のみONにしたんですが……どこのトイレに行ってたんですか?」


 ピシッ


 な、なんか今空気が割れた気が……


「えぇい!ままよ!」

「ちょっとなにやってんのレギン!?」


 耐えかねた阿呆が先生を拘束せんと飛び出していく。何がなんでもトイレ案内をしていたということにしたいらしい。

 私としては素直に謝った方が穏便にものが進むと思うのでやめて欲しかったのだが……


「レギン、減点です」

「ア゛ッ!?」

「レギーン!」


 レギンにまとわりつかれた先生は、その口を大きく開いて……レギンを食べた。

 口の開き方が人間のそれではなく、完全に顎関節が外れていた。人1人を丸呑みにできるほどに開かれた(あぎと)は、まるでヘビのよう。


「ギャァァァ!溶ける!とけるぅぅ!」

「レギィィィン!!」


 やべぇ引っ張ってもビクともしねぇ。

 それどころかズルズルと飲み込まれていってる!?


「先生!流石にレギンが液体に!」

「ほ?ほへはほぅひはんへふは?」

「今絶対『それがどうしたんですか?』って言いましたよね!?」


 先生は「仕方ないですね」という顔をしてからレギンをペッした。ガムを吐き捨てるようにペッとしたので、レギンはドシャァ……と胴体着陸をする。


「レギン!レギィン!」

「ん……はは、ばぁちゃん、今そっちに」

「それ三途の川ァ!行っちゃだめぇ!」

「ふぐぅェア!?」


 死人に会いに行こうとしたレギンの腹に掌底を落とし、無理やり現世に帰還させる。


「こ、これはこれで……死っ」

「ああ待ってレギン!意識を保って!」


 少々強くしすぎた。戻ってきた衝撃でまた他界しかけている。

 どうしたら……あっ、《全快》があるやん。


「ちょっと動かないで」

「うぅーん、うぅーん……」


 レギンがうなされ始めた。いよいよまずいぞ。

 先の戦闘で、《全快》が問題なく使えることが判明したので遠慮なく行使する。

 見た目に傷はないのだが、どうやら所々腐食していたらしい。……え!?腐食!?


「……先生、何をしたんですか?」

「食べただけですよ?」


 なんだろう。すごく嫌な予感がする。


「そういえば、先生って名前なんて言うんですか?」


 よせばいいのに、私は余計なことを聞いた。薄々気付いていたからこそ聞けたのかもしれない。


「私ですか?そういえば名乗ってませんでしたね。私はヨルム。ヨルムンガンドのヨルムです」

「ほら見ろとんでもないのが出てきた!」


 私はもう自重などせずに叫んでしまった。頭を抱えて、天を仰いで。初めに誓った「お淑やかに」というスローガンはユグドラシルの天辺へ。


 ヨルムンガンド。

 北欧神話に綴られる、巨大な毒蛇。よくゲームなんかで出てきたので概要は知ってる。

 その中の一つでは貪食キャラだった。自分の尻尾はおろか、目に付くもの全てを食べていくタイプの。さっきのレギン捕食事件もその一環だろう。もし止めてなかったらと思うと……ゾッとする。


「ハッ!?ここは……」

「おかえりレギン!」


 先生の正体を知って絶望しかけていると、レギンがおかえりなすった。

 咄嗟に抱き起こし、定まった瞳孔を確認して一安心。

 ホッと息を吐いてから思わず抱きしめてしまった。


「えっ!?」

「もう……ほんとに死ぬかと……」


 知り合ったばかりとはいえ、彼女とは一戦を交えてそれなりの仲になったと思っている。そんな彼女が死にかけていたとなると、どうしてもあの場面がフラッシュバックする。


「心配させないでよ」

「う、うん……ごめんね?それでその……藍波?これはちょっと……困る」


 やけに素直になったレギンと、妙に静かな周り。そこには二人しかいないんだというような静寂が満ちていた。


「困るのは私の方だよ!せっかく出来たクラスメイトをこんなことで失うところだった」

「えぅ……」


 レギンの漏らしたのは、きっと感動とか安堵感からのものだろう。抱きしめる私の肩に、冷たい雫が零れ落ちる感覚がする。


「もう大丈夫だから」

「…………」


 もはや何も言わなくなってしまったレギン。その顔を拝んでやろうと、私は拘束を解除する。


 その瞬間──熟れたイチゴのように真っ赤に染まったレギンと目が合った。


「へっ!?ふにゃぁ……?」


 そして、謎の言語が発せられる。

 そこでふと我に返った私は、首をくるりと回してみた。


 みんな見てた。


 私の顔もレギンに負けず劣らず真っ赤に染まり……


 そこから先は、覚えてない。

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