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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
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-115-刻限と、養成校と、巻き込まれと。

 バタバタし始めた屋敷内で、どうしたらいいのか分からない私。最後の砦であるオーディンすらも隠しきれない焦りを感じているらしい。用意された円卓に腰掛けながら、一人天を仰いでいた。


「ヘイムダル……何を見たというのだ……」


 さっきから一人でブツブツと思考を巡らしている。それは確かに北欧の主神を務めるに相応しい顔つきだった。


「オーディン様。招集完了でございます」

「わかった。皆、入れ」


 ハルクの王城も豪華で素敵だったが、この部屋はまた違った趣がある。なんというか……アンティークなのだ。

 そんなアンティークな部屋にゾロゾロと入ってくる、見ただけでそれと分かる神々。


「ヘイムダル、まずは君から報告を」

「ほっほ、まだ席にもついとらんのに報告か……」


 入室するなり報告を命じられる白髭のおじさんは、「まぁ、わかっとったがの……」と雰囲気を切り替えた。


「ギャラルホルンは聞こえたな?ならば意味はそのまま。アレが動き始め、終末が近い」

「……刻限は?」

「3年。3年後の本日……大戦(黄昏)が始まる」


 ヘイムダルさんの報告を、入室しながら聞き、順々に座っていく。円卓は次第に埋まり、それぞれが報告の内容をもう一度吟味し……


「まじか」

「またあれやるのぉ……?」

「大変面倒である」

「帰っていいかい?」


 …………。


「皆の言いたいことは良くわかる。だがな、わがまま言ってる場合ではないだろう?」

「だがオーディン。前回の大戦で失ったものの事を考えると、こうなるのも仕方あるまいて」

「まぁ、な。しかし、それでもやらねばならぬのが我々だろう?」


 わぁい。どんどん話が進んでいく。私は今オーディンの隣に座っている訳なんだけど、全く相手にされない。


「ムニン」

「ここに」


 オーディンが一声発せば、音もなく隣に降り立つ人影。


「下界、具体的には『天の楔』といったか。あれに報告を。簡潔でいい」

「かしこまりました」


 ムニンさんというらしい、フギンさんによく似た女性は、一羽の鴉となって窓から飛び出して行った。


「……ご苦労、ヘイムダル。他の者で、このことに関する報告があるものは?」

「ヘルから伝言です。本日付けでウルド神の復帰が確定。しかし、ヘル自信の仕事が残っているらしく、彼女は冥界に残るそうです」

「そうか。了解した」


 座っていた神の一柱がそう発言する。

 ……やってくれたか、ヘル!仕事が早くて助かる!


「……それでは、これより第二次神界大戦──神々の黄昏(ラグナロク)対策会議を始める」


 オーディンは立ち上がりつつ、その重い名を口にした。


 ◇


 藍波、なんでちゃっかりオーディン様の脇に座ってるのさ。その割に、周りの神に相手されてないのって、なんだか可哀想な気が……


「発言よろしいか、オーディン」

「どうしたフレイ」

「オーディンのとなり……その少女は誰だ?見たところ戦乙女(ヴァルキリー)ではないようだが」


 ナイスフレイ。流石に涙目になり始めていた藍波がぱあっと微笑んでいる。くそぅ、眩しい!


「そういえば紹介がまだだったな。彼女は……なんて言えばいい?」

「普通に紹介してよ!」

「えぇ……彼女は七海藍波。下界で、生身の状態で【神性】を宿していた娘だ」


 あんにゃろ、オーディン様になんて口を!


「どうもはじめまして。付け加えると、地球から引きずり落とされたフォールンで……皆さんの仇敵、ディザスターの弟子でもありました」

「おおい藍波!?そんな暴露はしなくてもいいんだよ!?」

「いやだって、知らなかったとはいえ事実だし。黙っててあとからバレる方が怖いじゃん?」

「いやそうだけど……」


 ヴァルハラの重鎮が揃うこの場でそんな大暴露をした日には、その存在を抹消されかねないんだよ!?


「まあ安心しろ。その辺も織り込み済みだ」

「まじかよオーディン様すげぇ」

「ヘイムダルなんかは知ってただろう?」

「んぇっ?あぁ……まぁ……」

「……千里眼、何に使ってた?まさか女湯の覗きとか」

「そそそそんなわけなかろう?わしかて神じゃ!女子の裸体にいちいち興奮などせぬ!」

「560年間の減俸っと」

「マジすんませんした」


 ヘイムダル……またやらかしたのか……一応女性のボクや、同席しているフレイの妹フレイヤ、オーディン様の奥様であるフリッグ様なんかはドン引きの眼差しだ。


「それで、私の呼ばれた理由として、力をつけるってことだったんですけど」

「ああ。まずはヴァルキリーの養成校に通ってほしい。丁度新学期が始まる」

「突然の学園!?」


 おぉ、神の御前でいい反応するなぁ……流石というか、アホというか。


「欠員も出たことだし、その枠に入れば問題なかろう。3年制の課程だが、君の実力を鑑みて、2年に編入させようと思うがどうかな?」


 ぶっちゃけ藍波の実力なら3年生も目じゃないけどね。


「わかりました。謹んで修行します!」

「頼んだぞ」

「ただいま戻りました」


 窓から一羽の鴉、ムニンが入ってきて、その姿を人に変える。


「一応の伝達は完了しました。また来ると約束してしまったので、会議の詳細が決まり次第下界へ参ります」

「了解した。では会議を進めるとしようか」


 なんだか久々だなぁ……4000年ぶりだからな……あ、眠い。


「ヴェルダンディ、せめてバレない努力をしてくれ」

「ハッ!?ね、寝てた?」

「バッチリ。ヨダレ垂らしてた」


 いつの間にか席を立っていたフレイが苦笑いしながらボクを指さす。ボクの膝の上にはヨダレで出来た水たまりが。


「うげぇ……」

「ほら、これで拭いときな」

「……ありがとう藍波」


 畜生、遥かに年下の藍波にハンカチ渡された……年長者の威厳はどこへ行った!


「元から無いでしょ、そんなの」

「なんてことを!」


 だんだんとエスパー化が進んでいる藍波に戦慄しながらも、受け取ったハンカチで汚い水たまりを拭き取る。後で洗って返さねば。


「……というわけで、全会一致でヴァルキリー養成校にヴェルダンディも通わせることになったからよろしくな」



 ………………………は?

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