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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー4章ー〈暗雲〉
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-108-思考と、務めと、忌み名と。

「後手な時点で罠は無理だし……もう肉弾戦でいっか」


 私の思考は簡単である。罠を張り巡らせてハメ倒すか、単純なゴリ押しか。ふたつにひとつ。両方とるのはありえない、というか無理だ。


『ヴェルさん、無事?』

『──ら、は……て』


 戦闘中、ずっとヴェルさんに念話を試みているのだが、ノイズが入って全く聞き取れない。普段こんなことがなかったばかりに、少し混乱する。


「仕方ない……まずは目の前のことから」


 少し離れた場所で静かに佇むシドだったモノ。その左胸には痛々しく刻み込まれた()が脈動を続けている。


 ネクロ・シドがその場で剣を横に薙ぐ。その動きにコンマ1秒で反応し、耳をたたみながら頭を下げる。

 何の気なしに放たれたようなそれは、私の頭上2センチを切り裂いて飛んでいった。


「ちょっ!毛が舞ってるんですけど!絶対少し切られたよね!?髪は女の命なのに!」


 私のちょっとした茶化しにも無反応なまま、彼は正面に闇色に美しい剣を構えた。


「もう……少しはリアクションしてよ……」


 存在自体がネタのような人物だった。常に明るく、それでいて、たまに含蓄のあるようなことを言う。

 故郷を焼かれ、千年の時をたった一人の空間で過ごし、出会い頭に結婚を迫った。


 こんなに面白い人はいなかった。これからも面白い人だと思っていた。

 だというのに、今の彼は既にここにいない様子だ。


「……互いに、辛いだけだね。これじゃあ」


 歯を噛み、決意を固める。


 ──私が、シドを解放する。つまり、殺す。


 ◆


 静かな空間だった。そこに耳をすませば聞こえる、僅かに金属を打ち合う音。

 時に鋭く、時に重く。まるで打ち合う者同士の心の現れのように。

 幾筋もの火花。薄暗い広間を照らし、その者達の顔を浮かび上がらせる。


 その者、涙をこらえるように歪められた顔から犬歯をむき出しにし、火花を散らす。


 対して、無を掘り起こしたように、どこも見ぬ瞳を携えた者。瞳は濁れど、筋は落ちず。


 苦痛か。いや、快楽か。

 私の口の端は、自然と上がっていく。


 これだから人というのは……


 剣戟が激しさを増していく。次第に火花の数も増える。パッ、パッと瞬く度、両者の顔が良く見える……


 ──そろそろ、いいだろう。


 私は、散り行く花に手を伸ばす。


 もう、枯れなくてもいいのだ。

 もう、踏まれなくていいのだ。

 もう、悲哀に涙しなくてもいいのだ。


 私は、森羅万象(全て)を改新する。


 より良い世界に、導くため。


 それが、私の務め故。


 ◆


 もう何度、こうして剣を打ち合わせただろうか。

 私の【朧月】は「剣」ではないので、正確には違うのだが。


 彼は9回殺せと言った。9回殺せば倒せると。

 確かに倒し方はわかった。だが、肝心の攻略法が掴めない。


 こちらに転移してから使っていない手など ごまんとあるので、片っ端から試しているのだが……

 その尽く、ギリギリのところで距離を取られるか、致命傷を避けられるかとなってしまい、未だ決定打がない。

 加えて戦闘センスは以前のまま。単品の2度目は通じない。


「万事休すか」


 大気を震わせる横薙ぎを、鼻先の紙一重で躱して反撃。至近距離からの《風刃》付きの蹴りは、明らかにおかしい方向に曲がった腕に阻まれる。


 切り飛ばされた腕は再生し、そして絶え間なく繰り出される斬撃。そろそろ避け続けるのも限界が……


「いつまでノロノロやっている」

「師範!」

「……お前ではない。いや、どちらでもよいか」


 師範の言うことがさっぱり分からない。元々口数が多い人ではないので、少ない言葉の内から意図を読み取る練習をしてきたというのに……


「おい。今、どのくらいだ」


 突然虚空に話し始める師範に、疑問符を浮かべる。


「師範……?」

『──ただいま、約98%です。まもなく完了いたします』


 暗闇に響く声。先程、シドに撃ち込まれたエネルギー弾の発射時にも聞こえた声。


「そうか。ではもう不要だな」

『──不要、不要です。要らないのなら壊して捨てないと』

「フン、では私は行くとしよう。まだ作業があるからな」


 どう捉えたって敵である「声」と対話をする師範。疑問は疑惑に変わり、そして次の言葉で確信へと変わる。


「藍波。我が弟子にして一番の功績者よ。お前は、今、ここで──死ね」

『──やっと繋がった!藍波!そこから逃げてくれ!』


 いつだって優く、誰よりも弟子思いだった師範から放たれた衝撃の言葉。念話で誰かが逃げるように促すが、脳と体がうまく噛み合わない。


 彼は、今なんて言った?


 それだけが、私の頭の中を埋めつくしている。

 功労者?いやいやそんな。だって私はまだ……


『藍波っ!』

「──っ」

『気をしっかり持って。ボクがいる!』


【朧月】によって目を覚まされる。どうやら正気を失いかけていたらしい。


『……それにしても、よくもやってくれたな老いぼれが』

「フン、誰かと思えば引きこもりの娘か。変わり果てた姿だな」

『どっかでコソコソ動いてるんだろうなとは思っていたけど、まさかこんな形で出会うとはね。運命を呪うよ、全く』

「運命神の貴様がか?それは皮肉な話だな」

「待って待って。どうして師範は……ヴェルさんのことを?」


 先程から頭の処理が追いつかない。既に回路は焼ききれる寸前だというのに、まだ問題を重ねようというのか。


「……まだ私を師範と呼ぶか。哀れな娘だな」

『もう一辺言ってみろ!絶対許さないからな!

 たとえアンタが……ボクひとりじゃ到底叶わない化け物であろうとも。再封印くらいには追い込まさせてもらう』

「大きく出たな、運命神よ。私を再封印だと?笑わせる。結局自分も封印されるザマじゃないか?」

『あ~、もうあったまきた。封印なんてケチなことしないで、存在ごと消し飛ばしてやるよ!


 覚悟しろ、ディザスター(・・・・・・)ッ!!』


 叫ばれたその名は、およそ世界の癌だった。


 ◆


 昔昔、世界をお創りになった方がいました。


 その名は、創世神ディミアルゴス。

 慈愛に満ち、分け隔てなく与え、親しまれていました。

 しかし、神と人とでは住む世界が違いすぎたのです。


 永き年月の果て、人はかの方への信仰を忘れ、それどころか蔑み始めました。


『あの神は我らを見捨てたのだ』

『もう神の手など借りぬ』

『私達は自立した!』


 かの方は、初めて「悲しみ」と「憎しみ」を感じました。そして、決意しました。


作り直そうと。こんな醜い生命体など、消してしまおうと。



 その後、本来神聖であるはずのその方は、形を歪めてしまいました。


 もはや、それそのもの。


 かの方は、災厄となった!


 そう。彼が、奴こそが。


 星滅神(せいめつしん)・ディザスターだ。

本家の神話と少し(かなり~違う部分が多々あるかと思います。半分以上、名前のみを借りている形です。神話好きの方はご理解ください……

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