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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー4章ー〈暗雲〉
105/176

-104-捜索と、地下と、芽吹きと。

グロ表現通り越してホラー気質すらある回です。夜の閲覧はご注意を。

「カグヤっ!」

「兄さん!」


 カグヤの後ろから忍び寄っていた魔獣を真っ二つにする。ヘドロのような体液が飛び散り、異様な空気が漂う。


「これは一体……」

「わかりません……先程から村の皆さんも見えませんし……」


 出発直前まで緑豊かだった村は、焼け野原になってしまっていた。その中、弓を構えてひたすら迫る魔獣を倒し続けていたのがカグヤだった。


「村の人がいない……?探そう」

「……はい」


 嫌な予感が、当たらなければいいのだが。


 ◇


「だめだ……全く人の気配がしない……」


 半刻程村を歩き回ったが、生存者はおろか死体まで見つからなかった。


「それどころか、どこか瘴気のようなものが……コホッ、コホッ……」

「大丈夫か?……それにしても、瘴気か……」


 確かに、村を覆うように良くないモノが立ち込めているのはわかる。だが、その原因と解決法、これによる弊害がなんなのかもわからない。


「仕方ない。一旦ここを離れよう。もしかしたら避難してるのかもしれない」

「……そうです、ね」


 僕は来た道を戻るべく、後ろを向いた。


「──兄さん、ごめんなさい!」

「カグヤ?──ッ!?」


 首筋に強い衝撃。抵抗虚しく、僕の意識は暗い闇へと叩き落とされた。


 ◆


 計画は順調。だが、なかなかしぶといのがいるらしい。


 私の放った魔獣は尽く倒され、それでいて奴の矢は切れることを知らないようだ。


 ……おもしろくない。これは由々しき事態である。こなところで立ち止まるわけにはいかない。


 計画は絶対。成し遂げられなければ、運命が狂う。せっかく──む、新手か。


 ほう……こいつもまた厄介な者のようだ。だが、どこまで耐えられるかな?




 ……なんだと。気配が……消えた……?私から逃れるとは、本当に不愉快な連中だ。



 ──必ずや見つけ出して、八つ裂きにしてやろう。



 ◆


 (こも)った空気と、舞う(ホコリ)の不快さに目を覚ます。ここは……どこかの地下のようだ。


「いや、そんなことより……どういうつもりだ。カグヤ」

「…………」


 枕元で正座をしてこちらを見ている彼女は、唇を噛み締めた。


「その場で殺さなかったのには理由があるんだろう?それとも、情でもかけているのか?」

「わ、私、は……」


 辛そうに目を背けてしまったカグヤ。僕は追求をやめない。


「目的はなんだ?どうしてこんなこと……」

「私は、兄さんに死んで欲しくなかったんです!」


 ……なんだって?


「兄さんが戻ってきてくださって……探索をしていた時のことです。ほんの少しだけ人の気配を感じたのでそちらを向きました。

 ……いたんです。人が。

 いえ、あれは人とは言いません。もっと、もっと恐ろしい……!」


 そこまで言って、怯えたように己が身体を抱きしめるカグヤ。


「……疑ってすまなかった。災難続きで、心が病みかけなんだ……それより、話して……くれるか?」

「っ……はい。大丈夫、です」


 精一杯の強がりとともに、ポツリポツリとその状況を語り始めるカグヤ。


 曰く、カグヤの見た「人」は、およそ「人間」ではない。


 曰く、視認した瞬間に忽然と姿を消してしまった。


 曰く、生気を感じられなかった。


 そこまで聞いて、ようやく思い当たる節があることに気が付いた。


「……僕の故郷と同じかも、しれない……」

「まさか」

「ああ……集団ネクロ化、だ」


 カグヤが息を呑む。自分自身、言っていることが正しいのかもわからない。だが、それしか考えられなかった。


「過去に2回、この事例は発生している。

 1度目は狐人。2度目は人間。そのいずれも、なんの前触れもなく……その集落の人々全員がネクロ化した、らしい」


 自分の声が遠い。きっと頭の整理がついてないのだろう。カグヤも同じようで、しきりに情報を飲み込もうとしていた。


「一応聞いておくが……ここは安全なのか?どこかの地下らしいが……」

「ここは、うちの下です。もしもの時にって、爺様が掘っておいてくれたんです」

「とすると、ここを知っているのは……」

「家の者だけとなりますね」

「……それはまずい」

「え?」


 まさかそんな筈はないと思いたかった。カグヤは気付いていないようだが……


「カグヤ。耳と目を塞いで、そこに隠れていて。これから起こることは、絶対に見ちゃいけない」

「どうしてですか!?私だって戦えます!」

「だめだ!」

「どうして!」

「……戦えるとか、そういう問題じゃないんだ……」


 訪れる静寂。訪れてしまった無音の時。


 その静寂を破る、嫌に響く音。


 ザリッ、ザリッ……


「カグヤ、早くするんだ。間に合わなくなる」

「ああ、兄さん。でも、でも……あれは……」


 しまった。既に姿が見えてしまっていたか。


 恐らく下に掘って、そのまま横に伸ばしたようなこの穴を這いずるような……


「彼女はもう手遅れだ。……もう、救えない」

「お婆様っ!」


 薄暗い洞窟の闇から現れたのは、顔の右半分が消し飛んでいるチヨさんだった。


 ◆


 ……見つけたか。


 身内に襲われるとは、最後まで運のない奴らよ。隠れん坊は上手かったようだが、内通者がいたのでは話にならない。


 さて。私の可愛い魔獣たちを殺めてくれた罰……しかと受けてもらおうか。





「兄さん!お婆様ですよ!酷いことをしないで!」

「カグヤ!いうことを聞くんだ!どう見たって正気じゃない……わかるだろ!?」

「いやです、嫌です!私、私は──!」


 駄々をこねるカグヤ。無理矢理にでも黙らせようかと思っていると──


『カ、グゥ……ヤァ……』

「お婆様!私がわかりますか?カグヤです!お婆様!」

「カグヤ!いけない!」

『……シ、ネ』

「え?」


 グリン、と真後ろを向く、カグヤの首。


「カグヤァ!」

「あ……にぃ、さ……」


 伸ばした手は届かず。首の回ったカグヤを乱暴に押しのけてネクロ・チヨが襲いかかってくる。


『モモ……タ、ロ……オマエモ、シネ』


 振るわれた爪を聖剣で受け止める。ギャリッと金属を擦る嫌な音が地下に響く。


「チヨさん……ごめんなさい」

『ガ──アッ……グゥ……ァ』


 一息に(チヨさん)の首を刎ねる。司令塔を奪われた身体は、なくなった頭を探して空を掻きむしり……やがて動かなくなった。


「カグヤ……カグヤ!しっかりしてくれ!」

「…………」


 ぐったりと動かないカグヤを抱き抱え、必死に呼びかける。返事は……なかった。


「……僕はまた……守れなかった、のか」


 新たな誓いを立てた。この村を、人々を守らねばと。


 だが、自分のとった行動は、真っ先にこの村を後にして、職のために調べ物をしに行くという事だった。


「ハハ……結局、なにも成長なんてしてないじゃないか」


 自分の愚かさ加減に程々呆れる。



 どうして、大切なものから失っていく。


 どうして、守りたいと思ったものから壊れていく。


 どうして、故郷が──家族が蹂躙される。


 そして気付く。倒すべき敵。生まれ育った故郷を焼かれ、必死に追い求めていた敵。


 今この時、近くにいるはずだ。






 ──必ず見つけ出して、八つ裂きにしてくれる。





 憎しみの種が芽吹き、心の核を蝕んだ。

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