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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー3章ー〈命明〉
103/176

-102-合流と、旅立ちと、組織名と。

「やり直しを要求する!」

「却下です」

『やめた方がいいと思う』

『妾も賛成じゃ』

「なんでぇ!?」


 例のポルターガイスト発生部屋にて、私の要求が無下にも破棄される。

 事情を知らないはずの神様連中も賛同するという異常事態に、私は焦燥感を覚える。


「はっ!まさか、何者かに操られて──」

『それは無いと断定しておこう』

『そこのシスコン廃神と同意見なのは身の毛もよだつ怪奇であるが、妾たち神格の高い神が操られるとしたら、それこそ創世神くらいのものじゃ』


 どうやら重症らしい。はやく治療しなくては。


『……藍波、どうしてボクらに《全快》をかけたのかな?』

「くっ……!効いてないか!随分と強力なせんの──ぐぇっ」


 呪腕による首への一撃。馬鹿な、【生存本能】に反応は……


『学ばぬのぅ』

「あぁ……穴があったら入りたい……」


 こっちに来てからスキルに頼りきりだった私は、その穴を突かれて痛手を受けたのだった。自爆という、最悪な形で。


 真っ赤になった顔を隠す私に苦笑いするカッシュくんは、突然その犬耳をピンッと立てた。


「来ます!やっと、やっとです!」

「敵襲か!」

「むしろ援軍みたいなもんです」

「私にとっては敵襲だ!」


 恐らく、やって来るのは暴走猫娘と変態妖狐だからね。


「お姉さまっ!!」

「藍波っ!」

「「ただいま(なのです)!!」」


 スパァンと開かれた扉が板チョコのように割れる。そしてダダダダダッと飛び込んできたのは予想通りの2人。


「シドさぁぁぁぁん!!」

「げぇ!?一緒にいたのか!?」

「シドニウム補給させてください!」

「そんなエネルギーは存在しねぇ!」

「僕の、僕だけの力ですから!」


 漢の叫び声。


「お姉さまあぁぁあっ!」

「目が怖い!」

「残像なのです!」

「なん……だとっ!?」


 正面からのナックルパンチは空を切り、代わりに後ろから抱きつかれた。そのまま頬擦りしてくる「黙っていれば美少女」にげんなりする。


「お姉さま、今日は……白なのです!」

「なんだって!?」

「どうしてわかっ……違う!リリィはもう黙ってようか!」


 慌ててリリィの口を塞ぐが、手のひらをベロベロと舐められた。生暖かい軟体生物が、体表で最も感度がいい場所を満遍なく蹂躙する。


「ひぃあ!?」


 あまりの気持ち悪さに、リリィの口を抑えたまま床にゴンッと叩きつけてしまった。ああ、こんなにも白目を向いてしまって……


「シドさん!長旅疲れたでしょう!お風呂行きましょう!」

「おい待て引っ張るな!お前からは下心しか見えねぇ!」


 ズールズールと引き摺られていくシドは必死に抵抗する。筋力EXは、【盲目】の前では無力か……


「そうなのです。いかなる攻撃も、それが愛しき相手からのものであれば御褒美!よってお姉さまは私を倒すことは不可能ッ!なのです!」

「!?」


 しばらくお待ちください。


 ☆


「ま゛ーーずぅぅぅ!ごわ゛がっだよ゛ぉーー!」

「おおぅ……どこへ行っていたのかと思えば、これはまた……」


 まさに満身創痍といった容貌のニナが僕に抱きついてくる。特に拒む理由もないので受け入れる。むしろ撫でる。


「「「「チッ……」」」」


 負け組の舌打ちが聞こえるが、それはそれ。


「なにがあったんです?」

「ぐす……乙姫になってたのだ……」

「すぐに藍波さんを呼んできてください。一刻を争います」

「り、了解!」


 近くにいた人に頼んで医者呼んできてもらう。到着までに出来ること……なにか、なにか……


「……人工呼吸……?」

「!?」

「ニナさん!?しっかりしてください!」


 顔どころか露出過多な肌すら真っ赤に上気させた彼女が固まって倒れる。どうして彼女はこういうのにピュアなんだろうか。


「藍波さんを呼びに行ったら、なんか猫に引っかかれました」

「それ、まだいい方だぞ。俺なんか撃たれたからな。見ろよ、実弾掠って火傷してるんだぜ」

「俺は脳天を焼け野原にされた」

「「「なんて野郎だ!」」」


 だめだ。全く使えない。これはいよいよ人工呼吸が必要か……


「気を失ってるみたいですし、丁度いいっちゃあいいんでしょうけど……」


 気絶に人工呼吸は必要ない。


「…………」

「目ぇ開いてますね。パッチリと」

「……続けて?」

「仕方ないですね、全く……」


 もう一度言う。気絶に人工呼吸は必要ない。


「ふわぁぁぁあ!お姉さま、アレやるのです!誰と?もちろん私と、ねっとりと!」

「600万回転生してもゴメンだね!それとそこの御二方。ここロビーだから。そういうのは地下でやってね」


 凄く見られていた。茶化す視線、妬みの視線、羨望の視線。全体を10とするなら、それぞれ3:6:1くらいの割合だろうか。


 途端に顔が熱くなるのを感じる。僕は大衆(60余名)の面前で、なんて大胆なことを……!


「マーズぅ、早く地下行って続きするのだ!あと、訓練も終わったことだし、そろそろ……」

「えっ、ああ……はい……」


 全体の視線は嫉妬と恨みと殴打と魔法に変わった。


 ☆


 その日は中途半端な時間になったので、翌日出発することにした。

 シドとリリィにヘルを紹介し、ヴェルさんの知り合いであることや、こんなのでも神だっていう情報を共有した。


 リリィは神器となった【ヘル・ゲート】を羨ましそうに見つめていたが、ヘルとすぐに打ち解けた。「リィーちゃん」「ヘーちゃん」と呼び合う程の仲にはなっていた。


 ……なんとなく妹分を取られた気がしたので、リリィを後ろから抱きしめてみたところ、リリィは無事に昇天した。


 対してシドはというと、はじめ何かを考えているような素振りをしていたが、深く考えることをやめたのか、「よろしくな」とだけ挨拶した。


 取り付けられた屋根が全開になっている露天風呂に入り、少ない女性陣と談笑し、覗きを働いた下衆(ケイネス)の眉間を撃ち抜き、男性陣の浴槽が赤く染まるという事件があったものの、訓練最終日の夜は平和に更けていった。


 ◆


「じゃあ、みんな達者で」

「お元気で、なのです!」

「まぁ……余計なことをしなければ、きっと長生きできますよ」

「藍波に自爆とはいえ一撃与えたんだ、それなりに自信もっていいと思うぞ!」

「シド。これからの旅中、背後には気をつけるんだね」


 翌朝、『天の楔』に住まう人々全員に見送られる形で旅立つこととなった。

 晴れ晴れと、これからの生活を楽しみにしているような者や、別れを押しんで泣き出す者もいる。


「そういえば、組織名って決めてるの?」

「組織名……?」

「いや、団体で生活して、これから何か起業とかするんなら、名前が要るでしょ?」


 素朴な疑問だったのだが、訓練続きで切り出す余裕がなかなかなく、今になってしまった。


「そのへんどう?リーダー」

「俺はネーミングセンス皆無なんで。ラナに任せるわ」

「ええっ……じゃあメルゥにパス」

「じゃあマーズよろしく」

「……原点にパスです」


 やる気のない幹部連中にため息を吐きつつ、なぜか怠そうなマーズを視線で射殺しながら名前を考える。


「そうだなぁ……1度神が降臨し、神獣の名を持つ馬が1頭……その全てが北欧だからなぁ……」


 細かくいえばヘルもいるので神は2柱いるのだが。


「じゃあ……『ミズガルズ』で」

『ほう……アースガルズとヘルヘイムの中間か。妾を忘れていなかったようで嬉いのじゃ!』

「『ミズガルズ』……了解だ。その名、後世までしかと伝えよう。……まぁ既に、次の代が芽吹きそうなんだが」


 ビクゥッとするマーズと、愛しそうに腹を撫でるニナさんを見れば誰もが察するであろう『次の代』。


「まぁ、色々あると思うけど、頑張って生きてね。どこかの神様が見守ってるはずだから」

『そうだよ!ボクがいつだって見守っててあげるからね!』


 ヴェルさんが堪らずといった雰囲気でそう付け加える。


 ……念話の回線を、全開放で。


「おい、今なにか聞こえたよな?」

「うん、私たちをとんでもなく振り回してくれた声が聞こえた気がするんだけど……」

「え?やっぱり空耳じゃないのぉ?おばさん、その辺にいるぅ?」


『だぁれがおばさんだ!』


 これ以上は歯止めが効かなくなる。とっさの判断で【朧月】を腕輪にしまうことによって、混乱は免れた。


「じ、じゃあ行くね!ばいばーい!」

「待ってくれ!今の声の正体を!」

「みんな聞こえる空耳ってスゴイナー!」

「ああっ!絶対知ってるぞこの人!『ミズガルズ』総員、囲めェ!」


 うちのメンバーは、根っこは真面目なので「これ以上バレたらまずい」と、馬車に飛び乗り、リリィの運転で飛び出して行った。


「あーっはっは!次会う時にはちゃんと働いておいてよ!うまい飯、期待してるからー!」


 猿顔の怪盗がいつも世話になっている警部から逃げるような格好で、そんな捨て台詞を吐いた。


 ◇


「ああっ!何であんなに早いんだあの馬車!」

「スレイプニル!」

『絶対追わんぞ?』

「なんでぇ!?」

『見えなくとも、そばに居る。それでいいではないか』

「そんな精神論!」


 ワタシの上で血の契約者がまくしたてるが、ここを動くわけには行くまい。


 確かに感じた【神性】。ワタシの名前の由来となったあの方と同じ土地で生まれ育った空気を感じさせられた。


 ……お達者で。


 ヴァルハラ一の神速を誇る神獣の種は、馬車が遠くに見えなくなるまでずっと見送っていた。

3章はここまでにします!

そしてサブタイも変えますので、ご確認ください!

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