表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー3章ー〈命明〉
101/176

-100-反省と、盟約と、誓約と。

ついに100話です。長かったような、短かったような。

 むぅ、流石にやりすぎた感がある……そう思わせる程、暴走バイコーンは伊達ではなかったのだ。


 雷は音を追い越してやってくるのだが、それを複数使役するスレイプニルに対し、私は防戦一方である。


「うおったぁ!?今危なかった!」

『…………』


 雷の偏差撃ちとは、芸が細かい。暴走中だというのに、普段のスレイプニルよりも技の一つ一つが鋭いのだ。


 ──生存本能より警鐘。


 咄嗟に【天閃】の特殊効果である空間断裂を使い、頭上半径20cm程を円盤型に切り裂く。


 切り裂かれた空間に対して降り注いだ雷槍は16本。実に恐るべき威力、速度をもって襲いかかってきた。しかし、切り裂かれた空間は小さな異世界のようなものである。


 一本でも人を簡単に消し炭に出来る雷槍は、見えない異世界に飲み込まれてあとかたもなく消えた。


 上手くいった、と思った矢先、未だになり続ける警鐘に気づく。


 仕方なしに【覇墜】を前方投げ、避雷針にした。


 そこへ樹齢100年の大樹もびっくりな程極太の雷が落ちてきてクレーターを形成する。


「ありゃ〜、あの様子じゃ【覇墜】はもうダメか」


 極太の雷をその身で受けた【覇墜】は、その刀身をごっそりと消失させ、柄に巻かれた帯は灰になっていた。


「【天閃】一本で暴走スレイプニルか……見たところ、少しきつそうかな?」


 刀を正面に構えながらそう独り言ちる。


 試していない戦法は──


「目には目を!歯には歯を!」


 そして、雷には雷を。


 私は【天閃】に《送電》し、電気を帯びさせた。


「頭の悪い戦い方だけど、難しく考えるのは得意じゃないんでね!」


 バチバチと放電する刀を構えた私は、標的の後ろで起こった事象に目を剥くこととなった。


 ☆


 ──なんて、ことを。


 私の生来のトラウマ。二度と呼び起こさせてはいけないと、そう思ったし、皆にもそう伝えた。


 彼女自身、アレになることは望んでいなかっただろう。だって、敵も味方も分からないのだ。


 もしかしたら、街を滅ぼしてしまうかも知れない。


 もしかしたら、もう戻れなくなるかもしれない。


 もしかしたら、大切な人を殺してしまうかもしれない。


 無意識に、ただ一人の血が流れただけで。たったそれだけの事実が彼女を苦しめている。


 現在彼女の標的は一点に集中しており、周りに地形破壊以外の被害は出ていない。恐らく近くにいるものの中で、あの人が危険だと本能的に察したようだ。


 この分なら、私の止血が終わり次第暴走も収まる──


 ……が、どうしても心が痛かった。


 このままでいいのだろうか。


 このまま、私が血を流す度に彼女が暴走をし、罪もない人を殺め、燃やし、地に還す。だが、外に出る以上、血は割と簡単に流れてしまう。本当に些細なことでも。


 じゃあ、どうすれば……


『全く、何のために槍を与えたと思っているのさ』


 ふいに、呆れたような、それでいて愉しそうな声が響く。私は咄嗟に周りを見渡したが、すぐその声の正体と意味を悟って小さく笑う。


 ああ、そうだ。私には、私達には神様が付いている。今を懸命に生きる者を尊ぶ、優しく頼もしい神様が!


『あなたに貰った力、使わせてもらうよ──ヴェル!』


 届いたかは知らない。本来なら、届くはずもないと分かっている。

 誰にも聞こえないはずの、心の中の決意の叫びは、しかして黒塗銀穂の槍に届く。


「目覚めよ、目覚めよ──汝に、我が呪われし血を捧げん。呪いは伝播し、繋がり……いつしか絆となれ」


 これは、私の願い。そう……私の願いは──


「【|血の盟約・絆《もう何も、失いたくない》】!」


 槍を一息に突き出す。覚悟の乗った、渾身の一撃。


 但し、槍の向かう先は前方ではなく、自らの腹。


「くぅうううう!」


 激痛に耐える。私の願いのために!


「う、ああああああ!」


 腹から槍を引き抜き、勢いよく血が吹き出る。その血はこちらに背を向けていたスレイプニルの背に降り注ぐ。


「戻って来て!スレイプニル!」


 ピクリ、と耳が動いた気がした。


 ……そしてクルリと向けられた、禍々しい2本の角が生えた顔は──


『ラナ……お前は本当に無茶をする。その出血、完全に致死量だ』

「よかっ、た……もどって来て……くれ、て」


 息も絶え絶え。虫の息とはこの事だろう。

 霞む視界に、愛馬をしっかりと捉える。


「これで、きっと……もう失わずに済む、ね……」


 そして、半ば分かりきっていた現象が起こる。腹の傷はもちろんのこと、その傷から流れ出た血すら補充され、元の状態に戻る。


「……一応、死者は出したくないからさ。その……手荒な真似して、ごめん」


 バツの悪そうな鬼教官(藍波さん)の姿がそこにはあった。


 ★


 気絶していたおかげで、足の腱やらなんやらを切られずに済んだ俺は、その光景を見て目元が熱くなるのを感じた。


 ラナの、まさに自殺とも取れる賭けは、見事に成功した。藍波さんが倒されることはないにしろ、あのままいけばどちらかが死んでいた可能性が高かった。


 それを、文字通り身を挺して止めて見せたラナに感服するばかりである。


 そして、分かりきっていた結末。


 藍波さんが、ラナの傷口を塞いだのだ。吹き出た血すら補填して。


 まさに神業。流石としか言えない。


「さて。ラナさんも復活したし、再開しますか」


 件の万能回復術が、全員にかけられる。切られた手足の感覚は戻り、血も、外された関節も元通り。


「ローブのことは残念だけど……まぁ、1枚残ってるし、いいや」


 お。お許しが出たぞ。良かったなメルゥ。


「次は回復しないから、気をつけてね。あ、また筋肉切られたりしたウスノロは追加訓練を実施しようと思ってるからそのつもりで」

「「「「全力でやったるァ!」」」」


 先程まで血塗ろながらに美しかったラナすらその叫びに加わっていた。もちろん、俺も叫んだが。


「そうか……強さってのには先があるんだなぁ……」


 当たり前のことを呟く。ラナのあれを見て、改めて実感する。


 強い想いは、不可能を可能にする。得てしない奇跡すら起こしうるのだ。


 ならば、俺も願おう。


「俺は俺らしく──」


 貪欲なまでに、力を求めてやろうじゃないか。


 力とは、大きくわけて二種類だ。物理と、策略。この二つが俺の考える大まかな力。


 このうち、策略に関してはまるっきりダメだ。知恵の輪なんか解けたことがない。あるとすれば、強引に輪っかを引きちぎった時だ。


 だから、俺は物理的な力を欲する。目の前の障害物を、避けるのでもなく、乗り越えるのでもなく。


「ぶっ壊して、進みたいんだ!」


 死は乗り越えさせてもらった。自分ではどうにもならなかった。悔しい。心底そう思う。


 だから今度こそ。


「──死の果てより戻りし魂、幾度の戦場において不敗なりッ!」


 呪文や魔法ではない。単純な誓約(せいやく)だ。

 己が己に課す試練として、俺は不敗を選んだ。敗北とは即ち、死である。一度氏の痛みを味わった俺は、それを忌避する。


 ならば、負けなければいいのだ。


「こんな簡単なこと、今まで気付かずに囚われてたなんてな」


 蘇る、数日前までの暗い記憶。

 だが、今の状況はこんなにも明るい!


「意地を見せよう。一矢報いるんじゃなくて、勝つんだ」

章の名前を変えようかと思います。

理由を簡単に説明すると、サバイバル編が長くなりすぎたからです((汗


さっさと遺跡に行ってるはずだったんです……なんとなく挟んだ拉致がこんなにも発展するとは──ごほん。


そんな訳で、近日中に変更があると思われます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ