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実質、犯罪

作者: 島元陽久

 通勤は闘争だ。

 過密化の進む都市において、余りにも障害の多い一般自動車では、例え目的地に辿り着いたとしても約定を守ることはほぼ不可能だ。

 つまり、我々はいかに通勤電車という名の奴隷輸送に憤りを、怒りを、憎しみを感じたとしても、その運命のレールからは逃れることは出来ない。電車だけに。


 しかし、逃げることの出来ない時、同時に人は、その困難に立ち向かう勇気を手にする。嵐の前の灯火は、強い風の中で消えてたまるか、と自らを大きく燃やすのだ。

 だが、立ち向かう事を選んだ戦士であろうと、配られた手札は平等ではない。

 始発から乗り込み限られた「座」を手にする者、急行すらも使役する「二刀流」、そもそも乗る距離が少ないヤツ。どれもこの戦いにおいては強大な力を持ち、中にはいくつもの力を同時に扱う、マルチプレーヤーすらもいる。では、そのどれも持たず、脆弱な自身の体一つしか持たない者は、負けるしかないのか。


 否、断じて否である。

 逃げることの出来ない戦いに直面しても、勇気を持って挑む我々には、誰しもが胸の内に秘める一振りの刃がある。


 その名は、希望。


 前の席に座るおっさんが降りるかもしれない、偶然今日は空いてるかもしれない、綺麗なお姉さんとお知り合いになれるかもしれない。そんな儚く脆い、しかし鋭く折れることのない願いを腰に下げ、我々は今日もこの鉄と熱の揺り籠に乗る。

どんなに辛く苦しくても、不器用な我々にはこの道しかなく、また落ちてしまえば二度と戻ることの出来ない暴走機関車に。電気だけど。


 そして、同じ道を行く全ての人々にこの言葉を、いや、これもまた一つの願いであり希望なのかもしれない。誰しもが想い、誰しもが望む、優しく愛おしい世界のために。


「降りるフリはマジでやめろ。」

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