あいしてる
米米クラブ
「愛してる」という言葉を君の目の前で何度飲み込んだことだろう。
素直にどうして言えないのだろう……
俺は、君と一緒にいるときに、いつもこの言葉を言おうと思っている。
君の目を見て、そっと。
だけども、君の目の輝きを見ていると、この言葉はのどの奥に引っかかってでてきてくれないのだ。
我ながら情けない思いばかりしている。
いつかきちんと言わないといけないのに……
いつもと気分を変えて、今日は公園でデートだ。
日溜まりのベンチに君は座っている。
少し離れたところで俺は立ったまま、君を見つめている。いつもと同じように。
君は俺を見ながら、手に持った缶ジュースを一口、飲んだ。
いったい、俺が何を考えているのだろう、と探るように……
意を決して、俺は君の横に座る。
ゆっくり、肩に手を回す。心なしか、手が震えているかもしれない。
右手が君の肩に触れると、君は俺の方を向いた。
いつもと同じように、すんだ二つの瞳が俺をとらえる。
その瞳の輝きに、俺はいつも何も言えなくなってしまうのだ。
深呼吸をひとつして、俺は君の体の向きを変えた。そう、俺に正面を向けるような体勢にするために。
「あ、あのなっ」
「なぁに?」
君の目は相変わらず俺を見ている。もう一度、俺はさっきよりも深く息を吸った。
「俺……お前のことをっ」
「うん……?」
「あ、あのっ……」
「どしたの?」
クスッと君が笑った瞬間、俺の周りの空気が柔らかくなった気がした。
俺は君をまっすぐに見据え、そして一気にこう言った。
「お前のことを愛しているよ」
「!」
君の瞳が一瞬、大きくなった。次の瞬間、君の手から缶ジュースが転げ落ちた。
君の足元に転がった缶から、ジュースが流れ出てゆく。
そして、君は俺を見つめたまま、その大きな二つの瞳から涙をこぼした。
ぽろぽろとこぼれ落ちる、透明の滴を気にもせず、君は笑顔を作ろうとしていた。
しばらくの間、二人は無言で見つめ合っていた。
俺はその間、やっとこの一言が言えたという安堵感と、急に君が泣き出したことによる焦燥感との両方に包まれ、どうしていいのやら分からずにただ君を見ていただけだったのだが。
少しの後、君は頬を伝う涙をハンカチで拭い、俺を見てにこっと笑った。
そしてこう言った。
「ありがとう」
「え?」
「あなたが私を好きでいてくれているのは分かってたの。でもね、やっぱりこういう風に言葉で言われると嬉しいなぁって思って。そう思ったら、涙が止まらなくなっちゃったの」
「そうなんだ……」
「ずっと、言おうとしてくれていたのも知ってるわ。どうしても言えなくって、ギャグにしてごまかしてしまっていたのもね。だからよけいに嬉しいの。きちんと、言ってくれたから……」
「うん」
君はふと、視線を足元にやり、ジュースをこぼしたことにようやく気がついた。
「もったいない……まだ一口しか飲んでなかったのよ?」
君は笑いながらそう言って、口をとがらした。
しょうがないので、俺は立ち上がってジュースを買いに行こうとした。
「どこ行くの?」
「君のジュース買いに」
そう答えると、君は慌てて後からついてきた。そして、俺の手を握ってこう言ったのだ。
「もういいよ、ジュースなんて。もっと嬉しいものもらえたからね」
そして、君の柔らかい唇が、俺の頬に触れた。