第46話
まだトークショーは続いている。質問コーナーはサクッと終わり、赤井は今後の抱負などを語っている。
俺と結は会場から外れている。というより逃げてきた。あのままではヤバそうだったし。今は近くのベンチでひと息ついているところだ。
「ペラペラと口が上手いやつだな。役のイメージとは大違いだ。役者の素を知って幻滅するとはな」
飲み終わった缶コーヒーを片手で潰してイライラを紛らわしている結。スチール缶を片手で潰しやがったぞ。
「もう忘れることだ。そうそう芸能人と会うことなんかないんだ」
「テレビやネットの露出が多いやつのことを忘れろだと? そんなことは不可能だ。忘れたい記憶ほど残るものだからな」
「寝ようと思えば思うほど寝れないってのと同じか」
ここは話題を変えるしかない。どうにかして結の機嫌を直さないと。近くに食べ物屋でもないか?
「こんなところにいたか。帰ってしまったのかと捜したよ。こうして会えて私は幸運だ」
げっ!? どうして赤井森夜が……? 完全に結をロックオンしてるし。
「あたしは最悪の気分だ。自分に余程の自信があるようだが、ハッキリ言って目障りだ。もう少し振る舞いというのを覚えた方がいい」
「君は私に興味があったのではないかね? あのような質問をしてきたんだ。プライベートの私に興味があると受け取られても仕方あるまい」
「あたしは、俳優でゲーマーの貴様には興味があるが、いち個人の貴様には興味はない。あの質問はあくまでもゲーマーの貴様を知りたくてしたまでだ」
「なら素直にゲーマーの私に訊けばよかったはずだ」
「トークショーでする質問としてはどうかと思ったまでだ。貴様がゲーマーなのをファンなら知っているだろうが、ゲームに興味があるのかといえばNOだろ」
「どのみち私はゲームの話をしたがね。君の気遣いは不要だったわけだ」
「ファンとの距離感を間違えれば大火傷をする。今日の、あたしとのようにな」
結は立ち上がって缶を捨てた。
正直、今の話は赤井の言う方が分かる。素直にゲームのことを訊けばよかっただけ。トークショーでなら尚更だ。
※ ※ ※
「なあ。どうして普通に質問しなかったんだよ?」
「トークショーとは、スターとファンの貴重な時間、貴重な場だ。共通の話題とはいえ、いちファンが投げかけるには相応しくないと思ったのだ」
「結果は同じだろう」
「それは受け手による。あそこは要点だけ答えて終わりでよかった。それを赤井は1から100まで言おうとした。それはほかのファンを蔑ろにしてるに等しい。どんなファンにも平等に接するのが本当のスターだろ」
えーっと……つまり、結は赤井の対応が気にくわなかったってことか。赤井としてはファンサービスでも、結としては余計なお世話、と。
不器用な人間が不器用なりに空気を読んだけど、相手にはまったく伝わってなかったってことかあ。人間って難しい……難しいぞ。




