第299話
双葉は俺から視線を外し、1人で小さく呟いている。ポニーテールをブンブンと振り、再度視線を俺に向けてきた。
「こんな偶然があるとは、驚きを通り越して怖いわよ。初めて見たときから妙な親近感があったのは確かだけど……」
「何が言いたいんだよ。さっきまでの勢いはどこいった?」
「……勢いなんてなくなった。まさか昔の親に会うなんて思わないでしょ」
「……親?」
俺が聞き返すと、双葉は顔を赤くしながら指を差してきた。
「そう! 佐藤始起は、あたしのパパ!」
「ぱ、パパだとぉおお!?」
腰が抜けそうになるのを堪え、双葉をよーく見てみる。
目は俺に似ているかもだが、ほかに似ているところは見つけられない。言動や行動とかは結と重なって見えるくらいだ。……ってことは双葉の母親って!?
「ママが言っていた通りね。昔から変わらないんだから」
「な、なあ……? 母親は……誰なんだ?」
「いちいち訊かなきゃ分からないの!? うわあー」
「見当はついてる。確認だよ、確認!」
「未来のことをペラペラ喋って、あたしに影響が起きたら困るんですけどねー」
「そこは安心してくれて構わない。あいつ以外となんて考えられない!」
「ふーん。ま、パパなら大丈夫でしょ。未来に異変が起きたら、真っ先に殴りにいくから。……ママは川島結。合ってた?」
「当たり前だろう!」
よっしゃー! 俺と結は結婚するんだ。それが分かって安心安心。はあー! 滅茶苦茶ドキドキしたぞ!
「これ以上は教えてあげない。あたしの出生に影響したら嫌だし、みんなの迷惑になっちゃうかもだからね」
「いいよ。楽しみはとっとかないと」
「ボーダッジュは厄介で迷惑で邪魔でしかない。けど大丈夫。ボーダッジュ対策は充分だし、あたしたちだっている。死傷者が出たことないのは奇跡だけれど。心配はしないで」
「……ボーダッジュが現れたのはいつだ?」
「……23年後。これ以上は駄目」
双葉は気を使っているのだろう。口元に指を当てて追及を拒んだ。
「双葉、助けてくれてありがとう」
「やめてってば気持ち悪い! パパからお礼を言われると、むず痒くなるだけ」
「素直じゃないなあ。そういうところが結にそっくりだ。結に会っていくか?」
「ううん。あまり混乱させたくないから。じゃあ帰るね。ママと仲よくしないと容赦しないよ」
「分かってる。双葉、気をつけて」
双葉が別れ際、俺に「大好き」と告げた。笑顔を浮かべてのピースサイン。あれが未来の俺と結との約束なんだろう。照れ隠しのつもりかもしれないが。
双葉が持っていたレイピアは間違いなくワイスだ。どういう経緯で俺が渡したのかは分からない。
「ありゃりゃ。おっちょこちょいなのは俺似だなあ」
サングラスを忘れていきやがって。取りに来るまで持っててやろう。
街はいつもの平穏を取り戻していた。切り替え早!




