第289話
ないないない。俺の愛剣がない。気を失っているあいだに誰かに盗まれたのか? いや、俺たち以外には入ってこれないはずだ。だとすれば、考えられるのは1つだけ。
「独りでに歩いているとしか考えられない」
――エクスカリバーが身体を手に入れていても不思議ではない。ここは可能性の世界。
「探すのだろう?」
「街に戻ろう。俺の予想が当たっているとして、どうして黙っていなくなったのか。多分、原因はワイスだろう」
――私が?
「うん。剣としてのプライドみたいなのが傷ついたのかもしれない。なら、街にある剣を眺めていても不思議じゃない」
「魂と魂は惹かれ合うッス。人と剣でも同じはず」
「ロマンチックさー」
ロマンチック、か。エクスカリバーの擬人化が女子だったらそうかもだけど。まあいい。とにかく急ごう。
「赤髪、瞬間移動頼めるか」
「無論なのだ」
「ギルドまで頼む」
待ってろよ、エクスカリバー。必ずキミを連れ戻す。
※ ※ ※
こんなことになろうとは思いもしなかった。全速力で走ることになるとは。慣れないことはするもんじゃない。
――剣の窃盗とはな。その現場に居合ったのは偶然だが恐ろしい。それと面倒。
「そ、そこまでだ! ボクに見られたのが運の尽き!」
「お前みたいな小娘に捕まえられて堪るかってんだ。逃げきってやる」
ああ! また逃げちゃってもう! 剣には剣の都合ってものがあるんだよ。




