第269話
口髭を蓄えたダンディーな男性が声をかけてきた。肩を優しくトントンと。ソフトなタッチでですよ。
「私を捜している人たちがいると聞いてね。いやいや。まさか、こんなにかわいらしい子たちが捜しているとは。まだまだ私も捨てたものじゃないかね」
茶色のロングコートと日傘。もう間違いないのですよ。誰がどう言おうが、この人で決まりです!
みんなに目配せチラッチラ。コクコク頷いているの。満場一致で異論なし。
「妾たちが捜していました! ダンディーさん、今日は大切な日なのではないですか?」
「大切な日とな? 大切……大切……ああ! 今日は結婚記念日ではないか! いかんいかん。すっかり忘れてしまっていた」
「すぐに家に帰ってあげた方がいいのですよ」
「そうだね。しかし、手ぶらで帰るのは忍びない。何か妻が喜びそうなものでも買っていこう。して君たち、何か女性が喜ぶものはないかな?」
「え!?」
妾にそれを訊いてくるとは無謀だよ。愛だ恋だとは無縁なの。自慢じゃないけど自慢じゃないけど。
「花でいいんじゃないか。部屋が華やかになる」
「わっちは服かな。実用的だーし」
「余は……心が籠っていれば、なんでもいい」
今度は満場一致とはいかないのですよ。これは困った困った。
妾の頭に浮かんでいるのは指輪とかネックレスとか。全然参考にならないのですよ。
「花と服と……ふむふむ。私の頭には食べ物しかないね。ありがとう。いろいろと参考になったよ」
「お役に立てたのなら嬉しいです。役に立った……の?」
なんとなく腑に落ちないけど、まあいっか。
これにてクエスト完了。ギルドに戻ろう。




