第26話
落ち着いたBGMと木のぬくもりを感じるテーブル。あちこちに置かれている観葉植物がいいアクセント。そして極めつけは鼻を刺激する香り。なるほど、確かに心が安らぐ。
「喫茶店に来るのは初めてだったりしたか」
「チェーン店のコーヒーショップには行ったことあるけど、こういう雰囲気の――個人でやってる店は初めてだ。俺が記憶している限りでは」
「本当に落ち着きたいのならばうってつけだ。ここのマスターの淹れるコーヒーは格別でな」
「あんだけ紅茶を推してたくせに」
「それはそれ。これはこれだ。なに、甘党の貴様でも飲みやすいはずだ。一口目くらいはそのままで飲め」
相変わらずの上から口調だ。素のままでいいと言ったのは俺なわけだから、今さら猫被れとは言わないけど。
とかなんとか思っているとコーヒー到着。香りは文句なし。問題は苦みだ。俺は甘党ゆえ、苦みにはめっぽう弱い。
「いただきます」
……飲める!? ブラックのままで飲めてるぞ! こんなことがあっていいのだろうか! 甘党男子であるこの俺が砂糖もミルクもノーサンキューなコーヒーと出会うとは!
「その様子だと大丈夫なようだな。あたしのセンスに狂いはなかった」
優雅にコーヒーを飲んでいるが結、キミの服は白いんだ。絶対にぜーったいにこぼしたりするんじゃないぞ。冷房が効いている喫茶店から1歩出た瞬間、暑さという現実に引き戻されるんだ。もうそれ以上脱ぐわけにはいかない。だからこぼすなよ。
「当たりだ。大当りだぞ」
そんなアクシデント、お断りだ。
心安らいでいるところを邪魔されたくないぞ。ないぞ!




