第242話
新たなユートピアが手元に届く。箱から取り出して掌に乗せて眺めていく。無駄な要素を切り捨て、実用性だけを求めたデザインは芸術的に見える。
耳に引っかけるだけで準備完了。VRもARも思いのままに堪能することができる。
U-Ω。それがユートピアの新たな名前。ユートピアやフロンティアのような大きさは男心をくすぐり、U-Ωの大きさは女心をくすぐる。ファッションアイテムにもなるだろう。
「いいぞいいぞ。ぐふふ」
「兄貴キモーい。マジ引くわ」
また勝手に入ってきやがったな妹め。その憐れみの目はなんだ。俺は嬉しいんだ。可哀想なやつじゃないぞ。
『始起始起。U-Ωを手に入れたか? あたしは手に入れたのだ。このサイズが心地よくて堪らないのだ!』
メールの文面だけで興奮が伝わってくる。結は赤を買ったんだなあ。俺は無難に白にしたんだ。
「興奮するのは分かるけど、ほどほどにしてね。それでなくても……構ってくれないのにっ……」
「何か言ったか?」
「なっ、なんでもないっ! 兄貴のバーカッ!」
なんでバカにされたの? 俺。
ていうか妹もU-Ωを買っていたとは。まったく知らなかったぞ。言ってくれれば一緒に買いに言ったのに。
さてと、もう1つの楽しみを確認せねば。ぐふふ。新しいVRゲームが同時に出たんだよ。Re:ALIVEが!
「早くやりたいなあ! やりたいなあ! 早くサーバー開かないかなあ!」
「うっさいよ! ほどほどにって言ったばっかりじゃん!」
「こんなときくらい許してくれよ。ワクワクするのだって楽しみ方の1つだぜ」
「バーチャルもいいけど、リアルもちゃんとしてよね! はい、洗濯物。結さんに捨てられないように努力しなさいよ」
「バカめ。結が俺を捨てるわけないだろう」
「どうかねえ? いくら同じゲーマーでも、構ってくれないと寂しくなるもん。ちゃんとデートしてあげないと」
「ゲームでするから――」
「――ゲームはゲーム! とにかく! ちゃんと結さんにサービスしてあげないと駄目! ……たまには……わたしにもっ……」
「最後の方聞こえなかったぞ」
「なんでもないよっ! バーカ兄貴っ」
やれやれ。ちょっと口うるさくなったよなあ。もしかして恋愛で悩みが? そもそも恋しているのか? 清く正しい交際をしているのなら構わないが、変なのとだったら困るぞ。




