第231話
人気者は辛いものだ。自分の魅力に恐れてしまうな。ハッハッハ。
さて、少し時間が空く。どこかでランチでもしよう。しかし、私1人で食べても味気ない。誰か私とランチを共にしてくれる者はいないものか。
「ここにいたのだな、赤井」
「おや! これはこれは麗しの結。こんなところで会うとは奇遇だね」
「ちょうど貴様を捜していたのだ。話があってな」
「とうとう私の愛に応えてくれる気になったかね」
「それはない。いい加減に諦めたらどうだ。それに大事な話なのだ」
ほう。よく見れば彼も一緒か。いつもと雰囲気が違うような……。それに彼女と一緒だというのに冴えない顔をしている。
「私の隠れ家に行こう。あそこならば落ち着いて話せる」
佐藤始起。君がそんなに浮かない顔をしているのは何故だ? 一緒にいると気が重くなる。
この隠れ家に人を連れて来たのは2度目だ。かわいいアイドルを連れたからサービスしてくれた。が、今回は無理そうだ。
「さあ、こうして落ち着いたんだ。大事な話とやらをしてもらおうか」
「……赤井、落ち着いて聞いてほしい。実は、あたしと一緒にいるのは始起ではない。未来の始起なのだ」
「……それは本当かね?」
「本当だよ。俺は5年後の佐藤始起だ」
「5年後、か。まあいい。特に驚く点ではないしね。それで、何故この時代に?」
「簡単に話す。5年後のフルダイブVRゲームがハッキングされて、ウイルスを撒かれたんだ。プレイヤーたちは次々に感染して消滅。消滅は死を意味している」
「穏やかではないみたいだね。私にどうしろと?」
「え!?」
「何を驚く。察しはつく」
私を含め、未来の彼の関係者はウイルスによって死亡しているのだろう。彼の顔を見ていれば分かる。
「赤井よ。貴様、ウイルス対策ソフト開発会社に顔は利くか?」
「売れっ子俳優の私とはいえ、まだまだ赤子も同然だ。そこまでの顔はない」
「そうか。貴様ならと思ったのだが」
「待ちたまえ。誰も無理とは言っていない。まったく利かないわけではない」
「本当に!?」
「本当だとも。ユートピアを出しているイード社は分かるだろう。そこの人間が少々変わっているが素晴らしい。ホワイトハッカーとして警察に協力していると聞いたことがある。彼女の顔なら利くかも知れん」
正直、私は彼女が苦手なのだが……。2人の友人として力になりたいのでね。まだまだ私は終わらんよ。




