第229話
俺は何もできなかった。ただ見ていることしかできなかった。みんなが消えていく瞬間を。
今も脳裏に浮かぶ悪夢の光景。今も耳に残る悲痛な声。
鈴木、神谷、熊切、赤井、白石、水岡さん、氷室、風祭……そして、結。みんな……死んでしまった。
俺だけが残されてしまったんだ。どうせなら一緒に死んでしまいたかった。悔しくて苦しくて堪らない!
エクスカリバーの……いや、デストラの欠片が守ったのだろうが、どうしてウイルスそのものを消してくれなかったのか。ゲームならチートなのに。デストラが作った世界じゃないから、前のようにはいかなかった。
俺は助けを求めた。Xのハッキング力は凄まじく、どうしょうもない。このままでは日本中、世界中をハッキングしていくだろう。だから過去に来たんだ。未来を変えるために。
過去に来ることで結たちに会うことは覚悟していた。どうしても協力してほしかったから! 過去を変えて未来が変わるかは分からない。それでも来ずにはいられなかったんだ。
※ ※ ※
「――これが話せる全てだよ」
「…………」
「結……?」
やっぱり、信じられないか。5年後のことなんて簡単に信じられるわけないよね。
「……生きていてありがとう」
「え?」
「未来の貴様とはいえ、死なれたりしたら耐えられん。あたしが貴様の立場なら、きっと命を絶ってしまっている」
結が俺の手を包む。とても安心する。だけど同時に切なくなる。未来の彼女を守ってあげられなかったことで胸が締め付けられてしまう。
ああ、駄目だ。また涙が勝手に流れて……。情けない……情けない……!
「強がりはよせ。泣きたいときには泣いたらいい。誰かのために泣くのは弱さじゃないのだ」
「ゆ……い」
「生きているから泣けるのだ。死んでしまったら泣けないのだ」
「キミは……温かいよ」
おもいきり泣いてやる! 泣いてやるぞ!




