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第210話
見事に誘い込まれたようだ。普段は誰も近づかないビルの敷地。もうすぐ取り壊されるって話だよ。夜には絶対に通りたくもない。
「気配が濃くなってきたな。無駄に広い敷地でもビンビンに感じる」
「俺には何にも」
「それは幸運だな。1度でも味わえば最後、死ぬまで虫酸が走りっぱなしになる」
死ぬまでって。
「ジェイルがここにいるんだろう? 1人で大丈夫なのか」
「舐めるんじゃない。あたし1人でも戦うことはできる。勝つことは難しいがな」
「勝機がないのに追っていたのか!?」
「力を持った者の宿命だ。誰かを守るだなんて性に合わないが、あたしが戦うことで誰かを助けることができるのなら構わない」
正義感を持っていないとできることじゃない。充分立派だと俺は思うよ。ましてや女子高生。遊びたい盛りだろうに。
「うう……急に悪寒が……!」
「来たようだな。ムカつく男が」
百萌の目付きが変わった。完全に戦闘態勢に入ったようだ。
俺は離れていよう。はっきりいって邪魔だろう。




