第191話
もう無我夢中だった。事細かに説明しろと言われても無理な話だ。今、みんなの目の前に俺がいるっていう事実が全て。
シュガーの姿から始起の姿に戻った俺の視界に映る結の顔。俺と目が合い笑顔を浮かべたかと思ったら、途端に笑顔は泣き顔に変わって。涙が止めどなく流れてもお構いなしに飛び込んできた。
「始起!!」
結の身体の柔らかい感触が伝わってくる。みんなの目の前じゃなければヤバかった。狼になっていたかも。しっかり成長してるよ。
「こらこら。みんなの見ている前だぞ」
「そんなの知ったものか! 抱きつくなと言われても聞かない!」
結がデレてる。耳元で「始起」だとか「好きだ」だとか「愛してる」だとか。今までこんなストレートに言ってきたことあったっけ?
「心配させてごめんよ。けどもう大丈夫。俺も、ほかの人も無事だよ。だから、もう泣くなよ」
俺の無事を喜んで涙を流してくれるのは嬉しい。けど俺は、笑顔の結が一番好きなんだ。
「……してくれ」
「ん?」
「……キス……してほしいのだ。駄目か?」
キスのおねだりとかマジかよ。いくらなんでもデレすぎじゃないか。そんなことを言われて断れるわけがないだろう。
愛しいキミは不器用だ。そんなキミに俺は応えたい。小さい吐息は唇を重ねて大きくなる。夜の雰囲気が気持ちを加速させる。
「もう少し、ね」
1度離しての催促。まったく。かわいいじゃないかっ! みんなが見ているのに……しょうがないなあっ!。




