第150話
遂にこの日がやって来てしまった。F&D最後の日。これが本当の、世界の終わり。
俺たちは、折角だからと集まった。最後のその瞬間、そのときを共に迎えようと。
「こうして集まるのは初めてだよな」
赤髪の家に俺たちは集まっている。成り行きで行動を共にしたことはあっても、集まることを目的として集まったのは初めてだ。
「我が家が狭いのだ」
「女性の家に招かれる日が来ようとは。私はどこまでも幸運な男だ」
「普段はないの? レッドウェルさんとあろうものが」
「承は随分とレッドウェルのことを気にしているッス」
「ははは。モテる男は辛いのだよ。私は私が憎い」
「冗談は顔だけにしておくのだ、レッドウェル。自惚れていると足下を見られるのだ」
「ククク。姫のレッドウェル弄りが上達しているぞよぉ」
「私は大歓迎だがね。かわいい子に弄られる快感を覚えた私に死角はない」
バカ野郎。あんたは死角だらけだぞ。
「このホワイトストーン、レッドウェルを守ってみせよう」
「おやおや、いつの間に仲よくなったんだーい?」
「それには答えられない。このホワイトストーンとレッドウェルだけの秘密であるからだ」
「そいつは残念無念。おねえさまとの仲を深めるのに使えると思ったんだけーど」
俺も気になるんだけど意地でも答えちゃくれないだろう。赤髪は何か知ってるっぽい。教えちゃくれないだろうが。
「もうすぐッスね。この世界と別れるだなんて実感湧かないッス」
「アバターデータはユートピアに残るとは言っても、武器や防具以外のアイテムとかは全部消える。何より世界そのものが消える。俺たちの過ごした理想郷が」
「NPCとの別れでもあるのだ。当然だが、この世界が消滅することなど知るよしもない」
「ゲームとはいえ酷だーよ。わっちはゾッとする」
ウォーターヒルの言う通りだ。何の罪のないNPCが、現実の創造者によって消滅させられてしまう。現実の俺たちに置き換えたらゾッとするに決まっている。
「私は胸が苦しい。この世界のNPCは、かわいくて綺麗で癒し系のオンパレードだったというのに。ああ!」
「やめてください。このホワイトストーン、別の意味でゾッとする」
ホワイトストーンの発言にみんながコクコク頷いて同調する。レッドウェル。あんたはある意味最強だよ。
「残り5分。どうするのだ」
「みんなで手を繋ぐ……とか。駄目ッス?」
「我は賛成ぞよぉ」
「僕も賛成。どうせなら外で繋ぐさー」
手を繋ぐなんて赤髪以外だと何年ぶりなことか。
外に広がる草原はいつもと変わらない。消滅するだなんて微塵も感じさせない。
「おねえさま、手を」
「ゴッドバレー、僕と繋ぐさー」
「このホワイトストーン。レッドウェルの隣は頂いた」
「ククク。ゴッドバレーをベルウッドと挟むぞよぉ」
「では私はリバーアイランドと」
「あたしと手を繋ぐ異性はシュガー以外……ちっ!」
「手を繋ぐくらいなら許してやれよ。俺も繋いでやるんだ」
「甘いな貴様は。貴様らしい」
輪になって手を繋ぐ。みんなの想いが手を通して伝わってくる。
もっともっと遊びたかった。もっともっと味わいたかった。全てを遊び尽くすのは無理でも、胸がいっぱいになるまでは。それはきっと全プレイヤーの気持ちだ。
「「ありがとう!!」」
みんなの声が揃った刹那、1つの世界が幕を閉じた。
さらば、自由と夢の理想郷よ。思い出をありがとう。




