第145話
僕と転舞は旅館へ戻るや風呂に入ることにした。
旅館の風呂は大きくて広くて手足を伸ばせて気持ちいい。
「うーん! こういうのは滅多に味わえない。夕日を浴びながらの風呂は格別さー」
今、男湯に入っているのは僕だけ。旅館には数組泊まっているはずだけど、まあ貸切状態ってやつさー。
「承、気持ちいいッス?」
隣の女湯から転舞の声が聞こえる。声の感じからして、ほかに人はいないのだろう。
「貸切状態さー」
「こっちもッス。ラッキー」
「あまり羽目を外しちゃ駄目さー。1人だからって泳ぐのは法度」
「そこまで子どもじゃないッスよ。……熊切には感謝しかない。熊切の運で引き当てた宿泊券で来れたんだから。今度ちゃんとお礼しないと」
「へえー。お前からそういう言葉が出るとは驚きさー」
「承はいったいあちしをどこまで低く見ているッスか。ヒッキーも礼儀は持っている」
「ヒッキー、か。もう引きこもりじゃないんじゃない?」
「え?」
「夢のために部屋に籠っていたやつが、ゲームを通じてできた友達をきっかけに外へ出た。お前は出れたんだよ、外に」
もうヒッキーなんかじゃない。お前は籠ってなんかない。
「あちし、変わったのかなあ? 変われたのかなあ?」
「幼馴染の僕が言うんだ、思うんだ。断言していい。お前は間違いなく変わったさー」
「そう……ありがとう、承」
「僕は何もしてない」
「してるッス。承がいたからこそ、あちしは変われたんだと思う。断言するッス」
「そういうことにしといておくさー。さてと、そろそろ上がるとするか」
またあとで入るとしよう。
ああ、身体がポカポカして気持ちがいいさー。
「承」
「僕と合わせる必要なんてないのに」
「あちしも上がるつもりだったッス。さあ、部屋に戻ってご飯にするッスよ」
湯上がりの転舞ってあんなんだったっけ? 凄く色っぽいんだけど。旅館補正?




