第144話
団子屋は静かなものだ。客は僕たちだけ。貸切状態。
お婆ちゃんが1人切り盛りしているらしく、僕たちはちょうどいい話し相手になっていた。
「孫がこれまたかわいいのなんの。目に入れても痛くないとは言ったものだよ」
お婆ちゃんは今年で70歳だそう。お孫さんは小学1年生。プレゼントしたランドセルを大事に背負っている写真を自慢げに僕たちに見せてきながら頬を綻ばせている。
「ああ、ついつい話し込んでしまって。団子はもうすぐできるから待ってて」
別に急いでいるわけではないし、お婆ちゃんの話を聞いているのは楽しい。時間がゆっくり流れている。これくらいの余裕がいつもほしいさー。
「あちし、団子屋で食べるの初めてッス」
「そりゃ初めてだろうに。基本ヒッキーなんだから」
「そ、そこを突く!?」
「このところは出歩いているみたいだけど。僕としては嬉しい限り」
「もっと褒めてくれても構わないッスよ」
「調子に乗らない。学校だって気まぐれさー」
「まあまあそれは置いといて」
「置いとけないさー。執筆の方だって息詰まっているみたいさー」
転舞を起こしに行くたびに、散らばっている紙の量が減っている。スランプとかかもしれない。
「あちしが小説を書いていることは内緒にしていたはず!?」
「僕が気づかないと? まったく」
「お待たせお待たせ。団子ができたよ。お嬢ちゃんは三色、お兄ちゃんはみたらし」
頼んでいた団子が来たさー! いろいろあって悩んだ末、みたらしを選んだ。艶のある餡が堪らないさー!
「かわいいッスね。三色は季節を表していると聞いたことがあるッス。赤は春、白は冬、緑は夏。でも不思議、どうして四色じゃないッス?」
「それはねえ、“秋がない”で“飽きがない”――いくらでも食べられるという意味があるらしいよ。団子屋の洒落」
「へー。団子を見る目が変わったッス。よーし、いただきます」
お婆ちゃんの話を聞いてすぐさま食べ始めたさー。転舞は花より団子らしい。
僕もみたらしを食べよう。いただきます。うーん! 甘くて美味しいさー。お茶も美味しい。
「ちゃんとお茶も飲むんだねえ。近ごろの子は、どうも急須で淹れたお茶を飲まないらしくて。いつも残していくの」
「今は買って飲むのが大半だから。僕は飲むけど」
「あちしはペット派。家に急須があるのかも知らないッス」
「そのくらいは知っておこうさー」
「えへへ。それはそうと美味しいさー。お婆ちゃん、おかわり!」
花より団子、か。僕は花も団子もさー。




