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第128話

 カラオケが思いの外盛り上がったのだ。普段大声で歌うことなどないからな。凄く気分がいい。

 しかし、みんなは疲れたようなのだ。鈴木も転舞も歌い疲れているのが見てとれる。唯花と花音さんも同様。


「姫は元気ぞよ」


「そう見えるか。あたしはこれでも疲れているのだ。だが嫌な疲れではないからな」


「若いっていーな。おねえさまなのに年下とは複雑」


「あたしも複雑だな。年上からおねえさまと呼ばれるのは」


「でも、わっちは呼び続ける。おねえさまは、おねえさま」


「あたしは構わぬのだ」


 あたし以外で元気なのは赤井だ。今は適当に歩いているのだが、道行くファンに声をかけられ上機嫌。握手に応じたり、サインを書いたりサービス満点。芸能人としては合格なのだろ。


「やれやれ、人気者は辛い。休む暇などないのだからね」


「貴様にとっては天国であろう」


「君も遠慮せず迫っていいのだよ。ほかのファンよりもサービスしてやろう」


「それは要らん。タダでも要らん」


「素っ気ないではないか!?」


「貴様、最近調子に乗っているだろ? このあいだの2時間ドラマの演技はなんだ。随分と手を抜いていたように見えてしょうがなかった」


「ああ……。あのドラマの撮影時、ほかにも仕事が詰まっていてね。流石に余裕がなくなっていたんだ。だが決して怠けていたわけではない! あのときの全力を注いだ!」


「今はそれで通用しているかもしれんが、この先も通用するとは思えない。芸能界は、入れ替わりが激しい世界なのだ」


 赤井に諭していると、若い女性の歌声が聴こえてくる。その方を向くと、いかにもアイドルな格好のアイドルがいた。


「ヤッホー!」


 しかし、誰も見向きもしない。足を止めようともしない。


「貴様。あのアイドルを知っているか?」


「残念ながらない。ビジュアルは合格点。歌声も申し分ない。が、決定的に足りていない。オーラがね」


 パッと見ただけでこれだけのことを言いきる。やはり目は肥えているのだな。


「白石万希(まき)。これから伸びると思うか?」


「黒髪ツインテールの妹系アイドルで16歳と若い。ハッキリ言えば、芸能界に腐るほどいるタイプだ。腐らずに伸びられるかどうかは彼女次第だ」


「つくづく思う。あたしには縁のない世界とな」


「君さえよければ紹介するが?」


「お断りなのだ。なんなら彼女を引っ張ればいい」


「それはそれで面白いのかもしれん。考えておこう」


 よし。これで赤井の意識が多少はあたしから離れたのだ。白石万希、恩に着る。成功を祈っているのだ。

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