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第127話

 カフェをあとにした俺たちは、カラオケボックスに場所を変えた。何故カラオケになったのか。これまた赤井の強い要望だった。

 ソファーに腰かけ早々に曲を入れた赤井は、キザにマイクを持ち、堂々と美声を披露……しなかった。


「うう~! うっ! おお!」


 酔いしれているのは赤井本人だけ。聴かされている俺たちの顔は一斉に強ばる。なんだこの身震いは。


「リアルにいるのだな。並外れた音感の持ち主が」


「あはは」


 結が俺に耳打ちしてきた。大っぴらに言えないのは分かるが、正直耳打ちは俺に効くぞ。


「ククク。折角のビジュアルも形なしぞよ」


「まったくだーよ。完璧すぎるのもなんだけど、やっぱりショックはショック。あの赤井森夜が音痴だとは」


 熊切も水岡さんもストレートに言いすぎだ。

 まあ、赤井本人には全然聞こえていないみたいだ。完全に自分の歌に酔いしれている。


「承の方が上手いッス」


「そうかな? 僕はそんなに自分で上手いとは思ってないさー」


「頼む鈴木。連続で聴かされるのは堪える。赤井よりも下手じゃなけりゃ充分だから」


「シュガーの兄貴の頼みなら仕方ないさー。軽く歌ってみる」


 ちょうど赤井の熱唱が終わった。1曲が永遠に感じたぜ。

 鈴木が入れた曲のイントロが流れ始める。マイクを持つ鈴木は緊張しているようだ。


「私のあとで緊張するのは分かる。肩の力を抜きたまえ」


 凄い上から目線だ。いったいどこから湧いてくるのかね、あの自信は。ある意味尊敬するよ、俺。

 さあ、鈴木が歌うぞ。赤井の歌で疲弊した俺たちの耳を癒してくれ。


「あーあー!」


 こいつはとんでもない。赤井のあとであることを加味しても上手い。上手すぎる。文句なしに鈴木の圧勝だぞ。


「格好いいッス~、承。あちしは癒されるッス」


 神谷の目が輝いている。恋する乙女状態の神谷を初めて見たよ。

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