幼児期8
早朝
村の広場には村人全員が集まっていた。
男衆はみな黒曜石の輝く槍や弓矢を持ち、腰に牙の短刀を下げている。
皆、顔をしかめ家族と出立前の会話を交わしていた。
「あなた・・・ウィルちゃん・・・」
「サティセラ・・・必ず帰ってくる。」
「お母さん、心配しないで!すぐ戻ってくるよ。お祭りやら無きゃだし!」
「そうね、うん。そうよね・・・。二人ともこれを」
「黒曜石の短剣か?」
「お守り・・・よ」
「ありがとうお母さん!」
「じゃあ、いってくるよサティセラ」
「はい。いってらっしゃい」
こうして、俺たちはカモイ村から出立した。
いつもは陽気な男衆も今は無表情だ。
一緒に出立した子供たちは
「なぁ!ウィル!大村ってどんなところだろうな!」
「話には聞いたことあるよね」
「ちょっ静かにしなって・・・おじさんこっち見てる」
「はは、やべ」
あんまり緊張はしてないようだった。
それも長くは続かなかったけどさ・・・。
大村までは大人の足で2日の距離だ。
でも、今回は人数は少ないが俺を含めて子供が4人いる。
いつも一緒に野菜の世話をしてる小さな友人たちだ。
上は9歳、一番下は俺より1歳下の5歳だ。
そんな子供が大人と同じ速度で歩く体力なんて無い。
所々休憩を入れながらの行軍は遅々としたものだった。
初めての野営に興奮した最初の晩、なかなか寝付けずにそわそわとしていた。
二日目の行軍も昨日と変わらず
でも、若干の疲れが出たのか口数は減った。
三日目
昼には大村に着く
でもこの日は雰囲気が違った。
誰一人として口を開かず、子供たちは若干顔を青くさせる。
俺もここに来て振るえがきた。
そばにいた父さんの大きな手で頭を撫でられて安心した。
でも、大村が見える位置に来て血の気が引いた。
カモイ村とはかなり規模の違う大村。
遠方に見えるそれは、カモイ村が数個は入りそうな面積にみえる。
そして、大村の西側には大勢の人が犇めき合っていた。
カモイ村のようにテルベリアに属する村から人が集められたのだろう。
そして、ひしめく人たちの先には赤色の大きな旗がいくつも掲げてあるのが遠めにも分かった。
大国ロマリア・・・。
大村の西側に布陣するテルベリア軍に合流する。
俺たちカモイ村男衆は一番端のほうに固まって各々武器の手入れをする。
正直、俺たち子供組みに戦えるとは思えない。
俺たちは親について武器や矢筒を抱える事になった。
緊張した面持ちで話し合っている時、布陣した面々に豪声が響き渡る。
「聞けぇ!テルベリアの民達よ!これより我等はロマリアを退ける!我は和平を望み恭順を示した!恥も外聞もかなぐり捨てそれを示した!なれど対する条件は到底飲むことは出来なかった!!」
そっと、息を呑みその声に静かに耳を傾ける
「ロマリアは我がテルベリアの民は悉く奴隷とし、食料はすべて献上せよなどと抜かした!そんなもの飲めようはずも無い!!」
静まり返る、陣営に力強く響く
「徹底抗戦だ!!!我々テルベリアはロマリアに屈しない!!国を家族を生活を!!!我らの手で守り抜く!!!我に続け民達よおおおおおおおお!!!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
地響きの如く大気を震わす怒号
馬上で先頭を駆ける王にテルベリア軍は声を張り上げ駆け出した。
力の限り雄たけびを上げ、全力で赤くはためく旗をたたき折ろうと突き進んだ。
俺は必死に父さんの後を矢筒を抱えて追いかける。
でも
俺たちの進撃はすぐに止まった・・・。
こちら以上の声量で大気を震わせ
地響きのような足音は響かせ
俺達の目指す先
地平線の丘を雪崩のように赤い波が押し寄せてきた
俺たちテルベリア軍の足は
止まった。
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