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四十畳ダンジョン物語  作者: @さう
四十畳ダンジョン物語 第一章 王都ダンジョン
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06 アラサー

 06 アラサー


 アラサーという言葉ある。アラウンドサーティーの略らしい。

 27歳以上33歳以下の事をさすらしい。

 俺はその年ごろの女性が大好きだった。

 もちろん、相手によると言っておく。これは重要だ。年齢だけで相手を選ぶわけではないからな。


 目の前の女性はアラサーだと思う。

 子供が10歳ぐらい。この世界だと子供を産むのは早そうだが、仮に17歳ぐらいでこの子を産んでいたとしてもアラサー。

 表情が陰っているが、顔立ちはハッキリしている。

 体つきはやはり痩せている。胸もあまり無い様だ。

 だが、周りのれんちゅうがぽっちゃりぽっちゃりふくよかぽっちゃりにくづきがーと言っている中、俺は細身の女の方が好きだった。

 痩せすぎなのは気になるが、それでも俺の好みから外れているわけではない。

 ボロボロの髪をポニーテールにしている。

 服もボロボロだ。

 だが、恋というものは湧き上がるものだ。

 色々理由を探してみる。

 顔立ちが好み、体つきが好み(さすがに痩せすぎだけど)、雰囲気が好み。髪型か?

 いや、実際そんなものは後付けの理由だ。

 とにかく、俺の心にズバーンと、どストライクが叩き込まれた。

 これはあかん。


 子供を助けて良かった。冒険者が去ってからだけど、ほら、お金ね。お金は大事だよね。


(この 男 誰)

(たすけた 自分)

 すみません。助けたのはおじいさんなんです。

 それからしばらくごにょごにょと話し合っていた。俺はなんとなく部屋を見回して、翻訳を聞き流していた。

 とりあえず、お金をもらった事に関して、少し子供が起こられていたので、

「いえ。いいんです。もらってください。どうせあぶく銭ですから」

(すみません しかし 知らない男 駄目 受け取る)

 申し訳なさそうに言ってくる。

 また押し問答か。めんどくさい。

 俺はベッドに近付き、俺に銀貨を押し返そうとしている子供の母親の手を押し返し、もう一枚銀貨を取り出して、握らせた。

 子供もその母親もびっくりしていた。

「どうせあぶく銭だ。いくらでもある。断ればどんどん渡すぞ」

(そんな だめです こんなに)

「断るのか。そんなにお金欲しいか?」

 また一枚銀貨を取り出して押し付けた。

 子供の母親はさすがに参ってしまったらしく、

(ありがとうございます ありがとうございます)

 と、頭を下げた。

 子供の方は口を開けたまま俺を見上げていた。

 そりゃあね、こんなボロボロのローブ着てるしね。お金持ってる様には見えないよね。すげぇくさいし。

 お金があったらやってみたかったんだよねこの方法。

 俺は貧乏人で、お金の受け渡しの押し問答が多くてうんざりだった。


(年上 男 何 名前)

 おにいちゃん名前教えて、ってとこか?

「俺は……、えっと……。リブロースだ」

(リブロース 名前 かっこいい)

 リブロースは旨味があるという。友人が好きだった。その友人は、社会人になって、俺より収入があってなお、俺に焼肉を奢らせていた。

 女の子と2人きりで焼肉というのは周りの目があるのでそろそろやめて欲しいのだが、彼女が紹介してくれる焼肉屋はいつも美味いので、ついつい釣られて引っ張られていき、奢らされてしまう。

 毎月の給料から焼肉対策費を分けて置くのが習慣になった。

(私 マイカ)

(私 サエ)

 子供がマイカで、母親がサエか。だいぶ日本語っぽい名前だな。

 ……。日本語っぽい。待てよ。

「マイカは女の子か?」

 マイカは黙ってしまった。

 髪は短いし、顔も薄汚れていて、女の子ならもうちょっと見た目に気を使いそうだが。

(リブロース 買う するのか マイカ)

 しまった。スラムで女の子が生きていくのは大変なはずだ。普段は男の子の振りをしていたのだろう。

(嫌 母 はなれる)

(リブロース 良い人 きっと ここ ちがう いいところ)

 やばい。変な方向に話に話が進んでいる。

「違います。俺は人買いじゃありませんから」

 俺の言葉に2人とも抱き合って喜んだ。

 何この小芝居。

 ともかく、親子の仲がいいというのは分かった。


「フィレ、この翻訳機能なんとかならんか? 細かい話になると意味がなかなか分からない感じになるぞ」

 俺自身が喋れないのはしょうがないとしても、せめて聞き取りだけはなんとかしたい。

『現在直訳モードです。設定を変更しますか』

 くっそ。その辺もっと説明してほしかった。

「変更する。なんか、意訳みたいな感じにしてくれ」

『了解しました』

 それから、相手の言う言葉がストレスなく変換される様になった。

 だが、正直気持ち悪い。

 フィレの作る翻訳済合成音声は、目の前の2人の声とまったく同じだった。

 目の前の2人が全く知らない言葉をしゃべっている中、少し遅れて脳内で同じ声が日本語で喋り出す。

 同じ声で別々の言葉が聞こえる。正直気持ち悪い。

 言葉、憶えよう。

 どうせ他に勉強する事とかも無いんだし。マジで言葉覚えよう。


 2人の話は、というか、母親の話はこうだった。

 サエは元々貴族の御屋敷でメイドをしていたのだが、お手付きになり、妊娠してしまった。

 それで暇を出されて、わずかな生活費を支給され、下町で暮らしていたが、貴族の家が没落。生活費の支給は止まった。その後マイカを出産した。元々田舎から出稼ぎに来た身だった。故郷は遠く、旅費も無い。没落した貴族の使用人達は、縁起が悪いと言われ、誰も再就職できなかった。庶民の中でメイドを雇う様な人間は居ない。大きな商館も、やはり縁起をかついで採用してくれなかった。サエだけでなく、全ての使用人が路頭に迷った。

 マイカが5歳になる頃、蓄えも尽きた。王都での暮らしはお金がかかった。それまで子育てをしながら働いてはいたが、王都で母子家庭というのは風当たりが強く、少ない賃金しかもらえない。

 結局、サエは娼婦になった。田舎から出て来た出稼ぎ労働者女性の多くが辿る道だった。後ろ盾のない女が生きていく事など、この王都では不可能だった。

 その頃すでに20歳を超えており、子供もいたため、大きな娼館では雇ってもらえなかった。

 サエはいわゆるたんちぼになった。がんばって稼いだが、それがあだとなったのか、今から1年ほど前に病気になった。それから仕事を続けられず、もう蓄えも底を付いていた。

 そこに俺が現れた。

 そういう事らしい。


 今まで、人の苦労話を聞いても、それはそれ。と、他人ごとの様に思っていた。実際に他人だし、人はそれぞれ歴史がある。

 だが相手が好きな人となれば別だ。

 ちなみに、俺は別に相手が風俗嬢だからとか、そんなところはあまり気にならない。

 好きなグラビアアイドルやタレントに恋人が、とか、密会が、とかいう報道があっても、むしろ想像してオカズにする程度には平気だ。

 我ながら自分勝手すぎるが、まぁ、好きな人と他人というのは、扱いに天と地ほどの差があるものだ。


 サエさんの病気について、フィレに聞いてみる事にした。

 突然独り言をぶつぶつ喋り始めた俺を見上げて、2人は不安そうな顔をしている。

 そうだよね。怖いよね。でもちょっと待ってね。

「フィレ、サエさんの性病ってのはどんなもんだ? 治せそうか?」

『サエの患っている病気は、魔力の乱れからはハッキリとは分かりません。しかし、即死するような病気でないなら、ポーションで治る可能性は高いです』

 脳内で話しているからすぐ近くに居る様に感じてしまうが、フィレは魔力レーダーの様なもので、俺を通して、俺の周りを認識している。

 魔力の乱れだけで何の病気かは分からないって事か。

「そのポーションってのは銅貨8枚のやつか?」

『その相場のポーションでしたら、進行を弱める程度でしょう。いずれ死にます』

 はっきりと言ってくれる。

 というか、フィレは何で相場とかを知っているのだろうか。

 以前の冒険者の平均値についても、詳しくは教えてくれなかった。どうしてフィレはそんな情報を持っているのか。

 まぁ、ともかく、

「病気を完治させるためのポーションはどれぐらいするんだ?」

『金貨2枚』

 あれ? A級冒険者の革袋に入ってたな。

 というか、ここでも金か。A級冒険者の懐に入っている程度のお金で治る病気でこのまま朽ちて死んでいく運命だったとは。

 マイカの事はきっとあのおじいさんやスラムの人たちが助けてくれるかもしれないが、さすがにサエの病気を治してあげる事はできないだろうしな。

 しばらくフィレと話し合った。

 異国の言葉でぶつぶつ何かを言っている俺を、2人が冷や汗を流しながら見ていたのは分かるが、善は急げだ。

 ダンジョンのDPはもう無くなるかもしれない。ダンジョンが崩壊すれば俺も死ぬらしい。

 俺の命は、今現在の見通しでは長くはもたないのだ。行動するのは早い方がいい。


 フィレとの話し合いが終わり、

「また今夜来る」

 と2人に言い残し、俺はダンジョンに帰った。

 

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