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四十畳ダンジョン物語  作者: @さう
四十畳ダンジョン物語 第一章 王都ダンジョン
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04 魔法使いが来た

 04 魔法使いが来た


 この世界の平均的な冒険者の力はD級とC級の真ん中あたりらしい。

 その辺の階級が一番数が多いとの事だ。

 

 A級冒険者一人が8万DPほどだったが、平均的な連中だと1万いかない。

 にもかかわらず、そんな平均的な冒険者が4人も集まると500万DP必要なモンスターと同じになる。

 人間の連携というものは恐ろしい。

 これは、魔力のみで生命体を作るからコストがかかるという事でもあるのだが。

 これではどのみちジリ貧になってダンジョンは崩壊するんじゃないのかとフィレに聞いたが、『ダンジョンは誰にも見つからずに消えるか、攻略されるものですので』と言われた。

 それはすなわち俺の死を意味する。

 どうやら俺の魂はダンジョンコアとつながってしまっているらしい。

 本来はこうやってダンジョンマスターの魂が繋がるはずなのだが、長らくマスター不在のこのダンジョンで空家の元家主の魂を魔力として吸収する際に一部を魂のまま吸収してしまい、それがダンジョンコアに癒着してしまっているのだ。

 そのせいで、よくわからないエラーが出ているという。

 今のところ、回答できない事が割と多いという事ぐらいしか分からないが。

 それだって、ダンジョンを作る上では問題無かった。

 だが、いつ何が起こるか分からない。それだけは警戒しておかないといけない。


 予定の額は溜まったし、もう丸3日食べていない。冒険者達が持っていた食料もゴブリンが食い散らかしてしまった。

 さっさと隠し通路を作ってしまおうかと思ったが、その計画は3日目の来客でご破算となる。


 ・


 三日目の朝入って来たその二人は、ローブを着ていた。

 いかにも魔法使いだった。

 目深にかぶったフードで顔は見えない。ごわごわしたローブで体つきさえ分からず、男か女かも判断つかない。

 2人ともそれっぽい杖を持っているが、一人は盾も持っている。なにやら様々な宝石が文様に沿って配置されている高そうな盾だった。あんなもので防御したら宝石とか割れてもったいないんじゃないだろうか。

 その時に気付くべきだったのだが、1日目2日目と好調だった俺は油断していた。

 先にダンジョンを閉じてしまうべきだった。

 ダンジョンの入り口は自由に開閉できるが、人が中に入っているとそれができない。この2人が入る前に、一度ダンジョンを閉じておくべきだった。


 その2人は魔法使いの様だが、まぁ中で強力な魔法なんぞ使えば部屋が狭いから自爆になるだろうし、などと考えながら、見ていた。

 2人は一階層を抜け、階段に入った。

 一階層はもう毒蛇も居ない。A級冒険者に切り捨てられたまま放置していた。おもえばC級やD級ならうっかり噛まれてくれたかもしれないが。


 2人の魔法使いは、とうとう二階層の入り口に入る。

 さっき起こしたゴブリンが、暗闇の中から二人を見た。

 2人のライトボールがゴブリンを照らしていた。

 すると、2人は入り口を背にして下がったではないか。

 しまった。

 前々からこうなったら終わりだと思っていた。

 だが、生きて帰ったのが一人だけ、情報は漏れないと思っていた。

 だがそれでも一人は帰ったのだ。数の問題ではなかった。一人帰れば情報は十分伝わる。

 そして対策も。

 部屋の丁度入り口で、1人の魔法使いが盾をかざす。盾に刻まれた文様が光り、部屋を照らした。ゴブリンはその魔法使いに群がっているのだが、あと一歩というところで見えない壁に阻まれて前に進めない。

 まずいまずいまずい。

(はやく)

(わかった いる)

 盾の魔法使いの後方に控えていた魔法使いが、ごにょごにょと翻訳不能の言葉を喋り出す。

 だいぶ長い。1分ほど経っただろうか。

 魔法使いが手をかざすと、部屋の中に劫火が広がった。

 ゴブリン達が炎に包まれ、魔石に変化していく。

 あっという間に100体のゴブリンが消え去った。

 肉が焼ければ煙も出るのだろうが、ゴブリン達は魔力で作られている。魔力に戻り、その場で凝結して魔石に変化した。

 あたりに広がる魔石を、魔法使いたちは拾おうともせず、皮の袋を口に当てている。

 多分酸欠を防ぐものだろう。

 あの盾の魔法を見てからすぐに三階層のゴブリンを目覚めさせてあった。

 血の匂いはしていないかもしれないが、それでも音やニオイで侵入者が分かったのだろう。現在階段を登り終え、二階層の入り口に着いた。

 やばい。同じ方法を取られればゴブリンは全滅だ。そして次は俺。

 指先が震えた。

 だが、

(しらべる おわり)

(すぐ かえる)

 2人は踵を返し、地上へと引き返して行った。


 俺はしばらく画面を食い入る様に見ていた。

 だが、はっとして、

「閉鎖! 入り口を閉鎖してくれ!」

『了解しました』

 ダンジョンの入り口を閉じた。


 地面にへたれ込む。

 やばかった。

 もしもあのまま進まれていたら、ここまで来ていた。


 最後の策はあるにはあった。

 BPを消費して階層を作りまくる事だ。

 100階層も作れば、勝手に引き返してくれるだろう。

 だが、その100階層を維持するためにDPを使う事になる。

 冒険者を殺せなければやはりジリ貧だ。ダンジョンの中に居座られたら入り口を閉じる事もできずにじわじわと死んでいくだけだった。


 10万DPもあるんだから、しばらく引き籠りを続けてもいいんじゃないのだろうか。

 冒険者から奪ったお金もあるし、裏口だけでも作っておいて、あとはしばらく良く考えながら……。

 駄目だ。

 そうやって問題を先延ばしにして、今ある財産を食いつぶすだけでは、いい考えが思いついた時にはもうそれを行う力も無くしいてそのままのたれ時ぬか、あるいはそのまま何も思いつかずに消え入る様に死んでいくかだ。


 そういえば、あの二人は魔法を使っていたな。

「フィレ、今の戦闘で魔力は吸収できたか?」

『はい。戦闘で発生した余剰魔力は吸収され、DPとなっております』

「今のでどれぐらい溜まったんだ?」

『先ほどの戦闘で蓄積されたDPはおよそ1万DPとなります』

 え? ゴブリン100体で1000DP。てことは9000DPの儲けに……。

 駄目だ。これを繰り返す事はできない。

 一階層あたりのモンスター生産には時間的な縛りがある。ダンジョンによってルールは違うらしいが、このダンジョンはワンフロアで一階層。しかも狭い。こんなの次のモンスターを出す前に通られてしまう。

 ならば階層を増やしていけば……。それもダメだ。

 単純な階層続きでは客が飽きるし、深すぎてもやはり飽きる。

 程よく難しく、上手く脳汁を出させてやらねばならない。

 下に行くほどモンスターを強くしていくというスタンダードな方法も、現在とる事は出来ない。

 フィレによれば、入場数制限はダンジョンの規模で変わるという。このダンジョンは小さいから2人でも可能なのだ。大規模となればそれだけ最低人数が増える。

 4人のパーティー一組相手に500万DPも使わなければいけないというのに、今のこの状況では、難しい。


 ダンジョンの入り口は閉じた。

 だが、それだけでは生活費を消費するばかりでいつか飢え死ぬ。

 飢え……。

 そうだ。そういえばまだ食事をしていない。

 マスタールームに転がしてあった革袋を一つ手に取る。

 C級冒険者が持っていたものだ。

 銀貨らしきものと銅貨らしきものが入っている。あと、なんか鉄くずとか、細かい木の欠片とか、木の実とかも入っていた。雑だな。

 A級冒険者の袋の方には金貨らしきものも入っていた。やはりランクで格差があるのだろう。


「フィレ、例の隠し通路を作って欲しい」

『9万8千100DP使用します。よろしいですか?』

「はい」

『了解しました』

 ダンジョンがわずかに振動する。

 現在魔力、DPを使って地面の中を掘削中だ。

 なるべく土地の権利が発生しないところを縫って、人目が付かないところへ。

 振動がどんどん遠ざかっていくのが分かった。

 掘り進んでいるという事だろうか。

 たっぷり20分ほどゴロゴロしていると、

『完了しました』

 の声と共に、ダンジョンコアが埋め込まれている側の壁の、端の方が崩れて、通路が現れた。

 階段では無かった。これはこれで、自転車、いや、キックボードの様なものでもあれば移動は楽だろう。

「この道はどれぐらいの長さがあるの?」

『およそ470m平坦な通路が続き、その後、エレベーターで地上へ上がります。地上の出口は、ダンジョンマスターの生態認証にのみ反応します。出口は現在所有者の存在しない建物の中となります』

「470mって。そんなに進んでもまだ王都の中なのか?」

 所有者の居ない建物と言われたので、まさか壁の外ではないだろうかと。

 外にはモンスターもいるという話だ。襲われたら俺なんてひとたまりもないし、いちいち王都に入って食べ物買ってまた外に、というのも面倒くさい。

 だいたい門兵に止められるんじゃないだろうか。

『はい。王都の中です。そこは現在スラムとなっております』

「ちょっと! 大丈夫なのか? その、追剥とか遭ったら」

『人の少ない地域を選んでおります』

「そういう問題じゃ……。まぁいいや。ありがとう」

『どういたしまして』

 フィレと相談し、ボロボロのローブを被っていく事にした。

 これはC級冒険者の一人がもっていたものだ。多分、ダンジョンの中で休憩する時とかに被って体温を維持するのかもしれない。

 すげぇくさい。

 だが、命には代えられない。とりあえずこれで、あとはフラフラ歩けば多少はごまかせるだろうか。

 だめだ。不安しかない。

 だが、食事をとらなければいけない。

 丸3日断食した。もうデトックスは十分だろう。


 あの2人の対策については後回しになってしまうが、何も食欲だけを優先させたわけではない。フィレの脳内テレパシーは外でも有効だというので、なんとか街の人の言葉を翻訳してもらい、情報収集をするためでもあった。

 何より、せっかく異世界に来たのに3日間引き籠りとかどういうこと?

 地球に居た時もかなり引き籠りがちだったが、外に出る事もいっぱいあったよ。

 イベントとかアニメイトとか。あと、スーパーにも普通に行ってたし。


 とりあえず。C級冒険者のもっていた革袋を三つ、別々の場所に隠し持つもつ。

 2回までなら追剥から逃げられる。3回目に遭ったらおとなしく帰ってこよう。

 飛んでみろ、対策に、硬貨をそれぞれ布で巻いたりもしておいた。追剥怖いです。


 隠し通路に入る。

 幅は割と広い。2mほどはある。天井は低い。こっちも2mぐらいか。高さと幅を揃えたんだろうか。

 道は大きく蛇行していたが、見通しが悪いという事もない。

 できたばかりの通路を、俺は進んで行った。


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