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薬を作り始めた理由

作者: 2輪

 



 支度を簡単に整えて朝食を取る。

 クローゼットから薬屋へ行き、作業スペースで必要な物を幾つか持ち部屋に戻る。

 その後ろで控えめなドアベルの音がした。

 ――カンカンカン

 来客を知らせる合図だ。

 だが今日はお休みなのだ。何回かドアベルの音がしたが予定した数だけ鳴って止まった。それだけでお得意様だと分かったが、お休みと決めて居たので問題無い!

 また空いている時にどうぞ~と心の中で呟きクローゼットのドアを閉めた。


 どうも、こんにちは。街はずれの路地裏でひっそり小さな薬店を営んでおります、店主のロノアと申します。薬作りの趣味が高じて開いた店なので閉まっている事の方が多いのですが、ご入り用の際は是非当店自慢の薬をお買い求めください。扱う物は主に薬のたぐいですがアイテムや装備品など小さい物から大きい物まで何でも取り揃えております。

 小さな店舗で小さな看板を掲げ小さな店主の居る店、『ツイン』本日は休業日。

 家でゴロゴロしたいお年頃なのです。店主のロノアこと、私は今年でようやく10歳になりました。でも店を開いてそろそろ2年。なんでこんなお子様が店主なのかって?って聞くんですか?長くなりますよ?まぁ、今日はその話のさわり部分だけでも話しましょうか?




 部屋付メイドのカレンに一言添えて何時もの様に一人で地下に潜る。

 ベッドヘッドに置いてあるランプを一撫でするとベッドの下に地下へ続く入口が現れる仕組みだ。ルノーの魔術で私たちしか入れない様にした。一歩足を踏み入れると自動で明かりが点くものルノーの仕業だ。まるでどこぞの青いロボットの様に万能なルノーの魔法に感心した。

 地下には3室ありどれもそれなりの広さがある。その一つ、作業場兼リビングに使っている部屋に入り持ち込んだ紅茶を入れる。

 ソファの上に置いていた一冊の本を手に紅茶を飲み一息吐いた。


 そろそろ私の事を話そうか。

 よくある話の冒頭と似ているが、私は転生者だ。しかも前世の記憶持ち。ありがちな設定でありがちな話だけど、飽きる事無く聞いてほしい。


 正式名はロノア・スコラーリ。スコラーリ家は貴族で私は4人兄妹の一番下。

 それなりに可愛がられていたと思う。

 それがあの日を境に一変した。

 遡ること7年前、3歳になった私の人生は突如として動き出した。



 その日は選定と呼ばれる日で、選定とは魔力選定の事を指す。魔力選定は3歳の誕生日に国民すべてが等しく受けなければならない義務であった。魔力とは世界の人が持つ力で、選定結果は数値となって現れその数で良し悪しが決まった。

 その選定が終わった後、私は突如前世の記憶を思い出したのだ。

 選定の時の事はまた別の時にでも話そう。

 記憶を思い出してから4歳になる頃まで度々体調不良に見舞われ寝込んでいた。一気に前世の記憶が押し寄せたわけではなく徐々に前世の膨大な記憶を小さな脳に埋め込まれていった感じだ。まだ小さかったし、もともと体力が無かった私は思い出しては寝込み、治ったと思ったらまた思い出し寝込むと言う事を繰り返した。

 これが約1年続いた。4歳の誕生日を過ぎた頃に漸く落ち着き、それに伴い色々と現世の事を考えられるようになっていた。

 現世は魔力や魔獣という物が存在するファンタジーな世界だと言う事。

 そんなファンタジーな世界は私には優しくなかった。

 この世界、クラッシュリンクは魔力の強い者が優遇される世の中で多くの者は魔力の数値で優劣を決めていた。

 私の生まれたスコラーリ家は一族から多くの強大な魔力持ちを輩出し、国の中枢を任される様な家柄だった。そんな中、唯一魔力が低かったのが私、ロノアだ。私の家での立場はすこぶる悪く。当然、無能のレッテルを張られた。そんな私と一緒に生まれたのが双子の兄ルノー。こちらは最強の魔力を有しており、歴史に名を残すのではないかと言うくらい魔力が高かった。

 一族の汚点とされた私は屋敷の皆に居ない者と扱われていた。しかし、外に出る事も許されなかった。

 毎日暇で、すること、いや出来る事と言えば読書ぐらい。これまたありきたりな事だが前世から読書は好きだったので特に苦にならず、面白そうな物は手当り次第読破した。

 そんなこんなで5歳になって暫くたった日、暇を持て余していた私は読書欲から屋敷の資料庫に忍び込んでいた。

 屋敷の図書室、書庫には日頃から忍び込んで興味のある本は殆ど読みつくし他に読む物が無いかと探していた時だったので屋敷の地下に設けられていた資料庫を見つけた時はお宝の山に見えた。



 埃避けの為のシーツを床に敷き、その他使えそうな物をクッション代わりにして心地良い空間を作ると面白そうなタイトルの本から読みふけった。文字も前と変わらずスラスラと読め、難しい内容でも何なく理解することが出来た。

 これで暫くは暇が潰せると朝から晩まで入り浸っていた。

 どれ位時間が経ったか分からないが自分を呼ぶ声がして読んで居た本から顔を上げた。僅かな光と相変わらず本しかない空間。気のせいかとも思ったがルノーに此方に籠ると言ってあったから来たのかと思い辺りを見回す。

「ルノー?」

 この屋敷で自分の名前を呼ぶのなんてルノーとメイドのカレンだけだ。声を出しても返事はなく気のせいかと読みかけの本に視線を落とすとまた声がする。気のせいじゃない、と腰を上げ恐々と声のした方へ向かった。

 奥の棚には薬草についての本が並んでいた。顔も思い出せない母親の体が弱かったなと思いながらその為に集められているのかと思案する。棚の端からゆっくりと背表紙を撫でながらさらに奥へと入っていく。薄暗い部屋の突き当り、指に一つの本が引っ掛かった。分厚い。上から背表紙を撫でる。タイトルが書かれていないその本は主張する様に棚から飛び出していた。

 ゆっくりとその本を引き抜く。手触りの良いレザーで覆われた表紙にもタイトルは書かれていなかった。まだ5歳だった私にはその場で立ったままで開くのは無理だと思うほど大きく、腰を据えて読もうとその本を何時もの定位置まで運んだ。

 明かりの下へと持っていくと無地だと思っていた表紙に薄く模様が掘ってあるのが分かった。指でなぞると淡い光が本から零れた。

「えっ?」

 その光は徐々に大きくなり部屋中に広がったかと思うと静かに終息した。

 キラキラとした光の粒が辺りに舞っていた。まったく魔力のない私には何が起きたか正しく分からなかったが、何かの魔術が発動したと思った。ルノーの魔力を使った蓄電器を始めて使った時とよく似ている。蓄電器とは懐中電気とスタンドライトが一緒になった様な物だ。この部屋に持ち込んでいる光源はまさしく蓄電器でルノーの魔力がたっぷりと注ぎ込まれているので切れることは無い、らしい…と曖昧なのは、普通の蓄電器は10日に一度の割合で自分の魔力を注ぐものと言う事を私は本で知っていたから。どのくらい魔力を注げば切れ無いとかは書いてなかったのでルノーが言った事を信じるしかない。その蓄電器のスイッチを入れた時の現象によく似ている。

 突然の事だったが不思議と恐怖は無く、むしろこの本には何が書かれているのだろうとドキドキ胸を躍らせた。

 上下に付いた留め具を外し、重厚な表紙を捲る、『魔力の無い者へ』そんな書き出しで始まる本は一瞬にして私の心を鷲掴みにした。



『―――この本を読めるという事は、貴方も魔力が少ないのでしょう。

 この本はそんな魔力が少なく虐げられている者のためになればと纏めたものだ。

 著者も魔力が少なくて苦労した者である。

 今も昔も変わらずに、魔力の少ない者は居る。

 魔力が少なくても恥じるとこは無いと言う事を覚えてほしい。

 魔力を使わなくても生きていけるのだと自覚してほしい。

 魔力に対抗するだけの知性と発想力を持って居るのだとわかってほしい。


 さてさて、そろそろ本題に入ろうか。

 世の中には様々な便利なアイテムがある事は知っているだろう。生活に使う物、仕事に使う物、魔獣に対抗する為の武器、怪我や病気を治す薬など、上げればきりが無いほどある。

 これらの物は歴代の魔力なしが考案し作り上げたと言う事実は知らない事だろう。

 自分に魔力が無いからこそ生まれた物達だ。

 魔力が無くても生活が出来るよう、魔力に対抗するように考え出された素晴らしいアイテム達は何時の間にか普及しそれが普通となった。

 私が目指すのもそこだ。

 魔力が無くても暮らせる事が普通になれば虐げられる事もないはず。

 世界が皆平等に、住みやすくなる事を願っている―――』


 心臓が痛いくらいにドキドキしている。

 ページを捲る手が汗ばみ震えている事に気づいた私は本から手を離しゆっくりと深呼吸をした。

「この本ヤバい!」

 思わず声が零れてしまう、チッチッチッと時間を知らせるタイマーを震える手で止め、今日はここまでかと本を閉じた。

 タイマーは時間を忘れて本を読んでしまう私の為に部屋付メイドのカレンに持たされた物だ。

 これは急いでルノーに報告せねば!と一抱えある本を持ち資料庫を後にした。


「これ…マジックブックじゃね?」

 すげー初めて見たと驚くルノーに私も一緒に驚いた。マジックブックとは何ぞや?

「もしかしたら有るかも?ってくらいの幻の一品だって」

 ルノーは魔力選定を受けてからあらゆるジャンルの家庭教師が付き日々勉強の毎日を送っている。その中でまあまあ面白いと言っているのが活用魔力の授業だそうだ。どのように魔力を使えば効率が良いか、とか新たな活用法とかを学んでいる模様。その活用魔力の講師から聞いた話だと、『存在しない本』と呼ばれているとか……

 本に手をかざし、何かを探る様に集中するルノーにどうしたのと尋ねるとう~んと首を傾げる。

「何だろ?魔力は感じないけど違う何か有る気がする」

 良く分からないやと言いつつ本を開いたルノーからは反応が無かった。

「どうしたの?」

 私と同じく文字の読めるルノーが固まっている。

「…これ」

「うん?」

「読めない…」

「えっ!」

 結構簡単な書き出し文だと思うのだが?この一文で私がどれだけ興奮したのか分かってほしかったのだが。

「えぇ~読めないの?」

「うん、何かが邪魔をしてて全体的に白!って感じ、文字と言われればそんな風に見えるけど読めない」

 残念。この感動をルノーに分けてあげられないのか、せっかく私でも出来そうな事が書いてあったのに。

 肩を落として表紙を一撫でしたら今度は青白く発光した。

「うわっ」

「あ!」

 本を中心に光が広がり徐々に集束、集まった光を見てルノーが声を上げる。

「…読める」

「何で?」

 二人で首を傾げているとパラリと本のページが勝手に開く。そのページには『契約書』と記されていて私、ロノアの名が刻まれていた。契約者とその認めた者としてルノーの名前もあった。

「えっ!いつ契約したっけ?」

「ま~良いじゃん、俺読める様になったし」

 まあ良いかと、あまり深く考えず読める様になったんだから一緒に読もうと初めのページに戻す。

 ルノーとあれこれ意見を交わしつつ読み進めていくと、いよいよ本題に入って行く。


『―――簡単に言うとこの本はアイテム作りのノウハウを詰め込んだ一冊となっている。

 中に書かれた解説を基にアイテムを作るのも良いだろう、アレンジしてさらに使いやすくしても良い。

 自分の欲しい物を新たに作り出すもの良いだろう、その時はこの本が手助けしてくれるだろう。

 一緒に簡単に作れる方法も載せているので試してみてほしい。巻末におまけを付けているのでレッツチャレンジ!

 さて、世の中には色々なアイテムがある。

 ご飯を美味しくするためのモノ、だったり。体を動きやすくするモノ。服や靴、装飾品など、多種多様に存在する。そのアイテムの中で私が最もお勧めしたいのは薬作りだ。

 何故なら、私が薬師だからだ。

 贔屓するわけでは無いが、魔力がない者の方が薬師には向いている。自分の魔力が混ざらないからだ。

 まずは薬について詳しく語って行こう――――』

 薬師か、前世では薬は一般的だったが現世ではその数は多くない。薬の類はアイテムとして道具屋で売られている事の方が多いからだ。薬屋と道具屋を混同している人も多い。病気や怪我は回復師と呼ばれる回復術の使える人たちに治療してもらう。回復師達は院と呼ばれる国が作った施設働いていて前世で言う所の病院と思ってもらえたら良いと思う。この回復師達も薬を作っているのでもちろん院でも買える。回復師に見てもらうには結構なお金がかかるので、薬だけ買う人も居るようだ。薬が主と言う店の数は多くない。大きい街に1~2店舗あるぐらいだ。道具屋はその倍在る。地方に行くと無い所も在る。ギルドにも置いているらしいがそれは主に冒険者用として売っているので知らない人も居る。だから一寸した傷や病気は天然の回復薬と言われる、薬草やまずい粉とか液とかが有るのでそれを自分で取ってきたり、時々で市場売られている薬や薬草を買ったりして治している。

「薬、作ってみる?」

「そうだな、面白そう」


 始めに書かれている薬は一般的にも売られている『傷薬、いい傷薬、優れた傷薬』の3種類だ。

 其々に、使う水と薬草、料と係る時間が載っている。

「この簡単チン!って作り方、スゲー大ざっぱ」

 ルノーに言われてその説明が書かれている所に目を通す。それは説明文の最後の最後に書かれていた。

『―――薬作りには色々と手間が掛かる、そこで私は簡単に作る方法を編み出した。その名も、【簡単チン!】だ。

 この方法は楽なのでおススメですよ。

 まず、上記にも書いたように作りたい薬の材料集める、それを巻末に付いている袋に入れて2回振る。チン!と音が鳴ったら出来上がり~

 ね、簡単でしょ―――』

「…これで、出来るの?」

「書いてあるんだから出来るんじゃね?」

 かなり胡散臭い、そうかな~と半信半疑で巻末に付いている袋を広げる。あれ?どこかで見た事のある楕円形。

「ちょっとルノーこっち向いてそこに立って」

 正面に来たルノーのお腹に袋をあてる。うん、青い未来形ロボットの袋と同じだわ。笑える~。

「何だよ、こうやって使うのか?」

「いや、違うけど念のための確認?」

「何の確認なんだよ」

「まあまあ」

 それはさて置き、先ずは傷薬から作ってみよう。使う物は水と草。草!って薬草じゃないんだ。驚きつつもルノーにそこら辺に生えている三つ葉になってる草を取ってきてもらう事にした。三つ葉ならどの草でも作れるみたいだ。あと水も、飲み水じゃなくても出来ると書いてある。泥水でも作れたとか…、それはさすがに嫌だな。

「取ってきた、水も」

「ありがとう~」

 お礼を言って受け取った草は前世で良く見たクローバーだった。名前とか付いてるのかな?

 草をじっくり見ていたら横でルノーが呟いた。

「鑑定とか使えたら分かるのに…」

「あ~鑑定か、覚えるの難しいらしいね」

 これも本で得た知識だけど、スキルという技術がある。それを取得するには個人の性質と力量による熟練度とかが必要らしい。

 その中でも習得がくそ難しくて、でも欲しいと言う人が多いのが『鑑定』だ。見たものの名前や素材など基本情報が手に入る。鑑定を持っていたらその辺に転がっている見た目はただの石が実は宝石だったと言う事も見抜けるようになる、とのうたい文句が書かれていた。夢のスキルとも呼ばれている。

「ルノーなら頑張れば習得できるんじゃない?」

「う~ん、一応頑張って見るけど、手順が複雑で面倒なんだ」

 決められたスキルを取って、そのスキルの熟練度を上げて…、とブツブツ言っているルノーを横目に私はおまけの袋に草、水を入れて書かれていた様に2回振った。

 ――チン!

「あ」

「えっ、どう!?」

 前世でほぼ毎日お世話になっていた温め家電の音がした。そして納得した、確かに簡単チン!だと。

「…出来たみたい」

 さらに薬が出来上がっている事に驚いた。

 ゆっくり袋の口を開けて中を除くと小さな袋が数個入っていた。ルノーに聞くと市販の傷薬も同じ様な子袋に入って売られているらしい。小袋の中の粉を手に取りまじまじと見たが良くわからなかった。

「本当に効果があるかな?」

「何個か作って使用人に使わせてみるか」

 いやそれって人体実験じゃん!と思ってもそれしか確かめようがなかったのでルノーの意見に賛成した。

 じゃ、ルノーもやって見て、と袋と材料を渡し勢いよく振ってもらう。何の変化も起きなかった。あれ?と思いつつ再度挑戦して見たが何度振っても袋の中は水と草だけだった。

 ちょっとふて腐れたルノーから渡された袋を私が振るとお馴染みのチンと言う音が響いた。

「契約者じゃないと使えないみたいだね」

 で、大量に作った薬を使用人に試した結果。

 間違いなく薬が出来上がっていた。

「やったな」

「うん」

 じゃ、次だ!と意気込んで本を捲っていくと10ページもしない内に空白が目立つようになり、最後は真っ白だった。

「……」

「…何も書いてないね~」

 如何いう事だろう?と頭を傾げていると再び本が発光し、パラリと本のページが勝手に開くとそのページには疑問の答えが載っていた。

『―――契約者の熟練度によって項目が追加され、作りたいものの詳細が現れる。まずは熟練度を上げるために初めから順番に作っていくことをお勧めする。だいたい、一つの物に付き20~30個ぐらい作れば上がる。(私はそれで上がったので)上達して行けば作れるものが増えて楽しくなるので頑張って!―――』

「って事らしいよ」

「熟練度ってスキルみたいだな」

 私みたいな魔力なしにはスキルは習得出来ないので熟練度なんて関係ないと思っていた。

「そうだね、暇だし頑張って見ようかな~」

 意欲を見せる私にうんうんと頷くルノー。その肩に手を置きニッコリ笑顔でお願いした。

「材料調達は任せたよ、お兄さま?」

「え!?」

「だって私じゃ難しいし」

「まぁそうだな、仕方がない、任された!」

 そう言って胸を張るルノーと一緒に楽しくなりそうだね、と笑い転げた。




 初めはただの好奇心。狭い世界で遊んでくれる人も限られていて本に載ってある材料の調達も上手く行き、ルノーやカレンに薬を分けたり、母親にも効きそうな薬を作ってルノーが作ったとして使ってもらったり、その薬で回復に向かっていると聞くと嬉しかったり、気が付くとどっぷり薬作りに嵌っていた。もともと凝り性な性格も災いしてどんどん新しい薬を発見開発していく日々は楽しかった。

 薬を作りたくて、自分で材料収集に行くようになり、出先でいろんな人と出会い、薬だけにとどまらず結局色んなアイテム作りに嵌り、余ったアイテムを譲り、性能の良さにびっくりされて何処で買ったか問い詰められて逃げるという事を何回か繰り返した。

 これは売れるんじゃないか?と思い地方都市の道具屋に持ち込み、その店の薬がなんか性能が良いじゃね?と知れ渡り、店主から独占契約を脅されてその時に助けてもらった冒険者の人に自分の店で売ったらいいんじゃないか?と諭されルノーと相談して、家から近くない方が良いかな~って事で隣街での許可を取り、街の隅っこに店を構え、今に至る。

 そして出来たのが『ツイン』だ。


 本に出会って5年。

 抱き上げた本の表紙を撫でつつ今まで起きた事を思い起こすと短いのに濃い時間だったと改めて思う。

 しかしまぁ、この本の著者って同世代の日本人かな?なんだかとっても親近感が湧くフレーズがちょこちょこあるし。

 本を横に置き、ゴロリとソファに寝そべれば緩い睡魔が襲って来る。ルノーが来るまで暇だし、と足元にあった毛布を引っ張り上げ瞼を閉じた。

 閉じる間際、視界に捉えた本が笑っている様にも見え、そんな風に見える自分に可笑しくて私も笑いながら眠りに付いた。







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