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02.

 お姉ちゃんが決意も新たに着替え始めた一方。部屋の隅にいた私は、ようやく周りのメイドさん達の生暖かい目に気がついて、ハッと我に返った。

 冷静になって考えてみると、『試練』とか『神さまにためされている』とか『強さを手に入れる』とか……。私ものすごく厨二臭いこと言った気がする……!!

 あまりの恥ずかしさに悶えていると、メイドさんは気を使ってくれたのか、

「シエラ様も、そろそろお部屋に戻ってドレスに着替えましょう」

厨二発言には何も言わずに優しく私の背を押した。

 何も言わないでくれるのはありがたい。ありがたいけど、その生暖かい目がいたたまれない……!!

 私は羞恥で顔を真っ赤にしつつ、お姉ちゃんの部屋を後にしたのだった。







 部屋に戻ると、さっそくメイドさんはたくさんのドレスをずらりと並べた。他のメイドさん達とあれこれ相談をしつつ、私の着るドレスを絞っていく。

 ……なんとなくわかっていたけれど、私の意見は無視なんだね……? こだわりがあるわけじゃないし、メイドさんが選んでくれて楽だから別にいいのだけれど。


 メイドさん達の厳しい審査のもと最後に残ったドレスは、かっちりした雰囲気のクラシックドレスだった。お姉ちゃんのふわふわした可愛らしいドレスとは正反対のイメージだ。

「……私が着るのはこのドレス?」

 お姉ちゃんとお揃いが良かったなぁ、と少しがっかりして言えば、メイドさんはニッコリと笑って、

「そうですよ。シエラ様はお父様に似ていらっしゃいますから、大人っぽい雰囲気のドレスがお似合いになると思いますよ」

 満面の笑みでそう言われると何も言い返せない。

……ふりふりのドレスを着れるのは幼女だけだからなぁ……ちょっと着てみたかった。

 そんなことを考えつつ、もそもそと着替える。幼女の体は思い通りには動かないので、メイドさん達がドレスを着せてくれて助かった。


 ……すごく今更だけれど、なんで今日はこんなに気合いが入ってるんだろう? 普段はこんなドレスは着ない。誰かの誕生日でもないし、私はまだ5歳だから、社交界にもパーティーにも出ていないのに。


 ちらりとメイドさんを見上げる。

……気になる。非常に気になる。でも急に話しかけて、手元が狂ったりしないだろうか。


 私が聞こうか聞くまいか悩んでいると、メイドさんのほうから話しかけてくれた。……そんなに私って挙動不審だったかな?


「シエラ様、どうなさいました?」

「あの、いつもとふんいきがちがうけど、何かあったの?」

「あぁ、そういえば何も説明をしておりませんでしたね……今日の朝に新しい予定が入りまして」

「よてい?」

「えぇ。奥様のご友人から泊まりに来られるとの連絡があったそうです」

 そういえば、部屋に戻る途中でたくさんのメイドさんや使用人さんたちとすれ違った。皆、いつもに増して忙しそうだったけれど、お客様が来るからなのか。

 でも、あれ?

「なんできゅうに来ることになったのかな……?」

 いつもよりオシャレなドレスを着たことや皆のあわて具合から、身分の高い人物だとわかる。でも、それならもっと早くに連絡があっても良い筈だ。

 メイドさんなら知ってるだろうか?

「さ、さぁ……? 私達にはわかりかねます」

 私の疑問の声に、メイドさんは不自然に目を逸らした。周りのメイドさん達も私と目を合わせようとしない。

……え? 絶対何か知ってるよね!?


 その後何回聞いてもメイドさん達は理由を教えてくれなかった。






 ドレスを着替え終わると、メイドさん達と一緒にお姉ちゃんの部屋に向かう。お姉ちゃんの可愛いドレス姿を見るついでに、朝食のお誘いをしに行くのだ。

……そう、忘れていたけれど、まだ朝食を食べていないのだ。そのせいで、さっきからものすごい音でお腹が鳴っている。

 お腹をさすりつつ廊下を歩けば、すぐにお姉ちゃんの部屋に辿り着いた。開いているドアからひょこっと顔を覗かせる。

 思いっきり不審者の格好だけれど、メイドさん達はニコニコ眺めているだけで叱ることなかった。

 そして、私はというと、ドアの隙間から見えた光景に絶句していた。


 お姉ちゃんがとても天使だった。


 いや、お姉ちゃんはいつも天使なのだけれど。より天使というか、とりあえずドレスが似合いすぎてお姉ちゃんの天使度エンジェルけいすうが半端なかった。

 天使度を計る機械があったなら、MAXを通り越して破壊されているレベルだ。

「お、お姉ちゃん……!!」

 過呼吸で上手く息が吸えない。肩を大きく震わせつつ、唇を一生懸命に動かした。

 後ろでメイドさん達が、大丈夫ですか!? と心配そうにしているけど気にしない。というか気にする余裕がない。


「すごく、にあってるよ……!!!」

「シエラどうしたの!? くるしそうだよ!! だいじょうぶ!?」

「……うん、へいき……!」

 深呼吸をして、なんとか息を整えることに成功する。

 改めてドレスを誉めれば、お姉ちゃんは照れくさそうに笑った。

 かわいい……!!


「それで、シエラはどうしたの?」


 不思議そうにお姉ちゃんが小首を傾げる。

 そういえば何も用事を言わずに突撃してお姉ちゃんを褒めまくっていたんだった。危うく、本来の目的を忘れてしまうところだった。

「お姉ちゃんにお誘いに来たんだよ」

「お誘い?」

「いっしょに朝ごはんたべよう!」

 にっこり笑ってお姉ちゃんの手を取る。

 お父さまはもう既にお仕事に行っているけれど、お母さまは今日はお仕事が休みの日の筈だ。もしかしたら、お母さまも一緒に朝食が食べられるかもしれない。


 手を引いて、二人で仲良く廊下を歩いた。メイドさん達も後ろについているので結構な人数だ。

 ダイニングが見えてきたところで私は驚いて足を止めた。お姉ちゃんもつられて足を止める。

 ついさっきまで笑顔を浮かべていた顔が勝手に強張っていく。


 ダイニングにはお母さまがいた。それはいい。朝から美人なお母さまと一緒に朝食だなんて、本当に素晴らしいと思う。

 問題なのは、お母さまの隣にいる、知らない女の人と男の子だった。 

 女の人は金髪を巻いた華やかな美人で、男の子はフワフワの金髪と琥珀の瞳の美少年|(美幼児?)だ。二人が並んでいると、女神様と天使みたいで近寄りがたい。

 さらにはお母さまも隣に立っているものだから、キラキラオーラが半端なかった。


 それにしても、あの男の子。

 この世界で男の子の知り合いはいないはずなのだけれど、どこかで見たような気がする。どこで見たのか思い出せなくて、胸のあたりがモヤモヤする。


「あら、この子達があなたの娘さん達? 二人とも可愛いわねぇ」

「ふふふ。そうでしょう。アリアは私似、シエラは夫似よ」

「本当ね! そっくりだわ」

 仲良さそうに話す二人を唖然とした顔で眺めた。のんびりと話しているように見えるのに、不思議と口を挟む隙が無い。


 困ったように顔を見合わせる私たちに気がついたのか、私たちの代わりに天使くんが女の人に声をかけてくれた。

 私と見た目同い年くらいなのに、よく気の利く子だ。


「あぁ、ごめんなさいね。私ったらすっかり忘れてたわ! はじめまして。私はソフィーナ・ストラッフォード。あなた達のお母様のお友達よ。この子はルーク・ストラッフォード。あなた達と同い年なのよ」

「ルーク・ストラッフォードです。よろしくね」


 にっこりと笑って少年がお辞儀をする。私は礼を返すのも忘れて、呆然と立ち尽くした。


 なんてことだ。ルーク・ストラッフォード。その名前は聞き覚えがある。


……コイツ攻略対象だ。



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