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01.

まだ攻略対象出てきてません。ごめんなさい!次か、その次くらいには出てくる筈なので……!

 その日は朝から屋敷中が騒がしかった。いつもならメイドさんが優しく起こしに来てくれるのだが、時間を過ぎても誰も来ない。

 さすがに少し不思議に思って、私はいそいそとベットから起き上がった。服の乱れを直し、微かに寝癖のついた髪を見苦しくない程度に整える。

 ドアを開けると騒がしい声はお姉ちゃんの部屋から聞こえてくるようだった。というか、騒がしい声はお姉ちゃんの叫ぶ声とメイドさん達の宥める声だった。

 いったい何をしているのか気になって、そっと部屋に近づく。


 ……ちなみに私は姉のことを、『お姉さま』ではなく『お姉ちゃん』と呼んでいる。

 前世の記憶のせいでなかなかお嬢様言葉に慣れないのもあるが、姉に「お姉ちゃんって呼んで欲しいなぁ……」とお願いされたことが大きい。『お姉さま』呼びだとなんとなく距離を感じるんだとか。

 まぁ私、基本的に無表情だからなぁ……。私も5歳の幼女いもうとが無表情で『お姉さま』呼びは怖いと思う。なんだか呪われそうだ。笑顔の練習をしたほうが良いかもしれない。しみじみ考えてしまう今日この頃である。


 開いていたドアから覗いたお姉ちゃんの部屋はなんというか、前世で言う、ファッションショーの控え室のようになっていた。……いや、実際に見たことがあるわけでは無いのであくまで想像なのだが。もしかしたらファッションショーの控え室より酷いかもしれない。

 あちらこちらにドレスが山積みになり、アクセサリーやら靴やら髪留めやらリボンやら……大量の小物が辺りに散乱している。

 その中に下着姿のお姉ちゃんが立っていて、ドレスを着せようとする周りのメイドさん達の説得を拒否し続けていた。


 何しているんだ、お姉ちゃん!風邪をひいてしまうよ……!!


心の中で思わずムンクの叫びのポーズをしてしまう。

 もちろん実際にはやらない。あくまで心の中で、だ。やったらメイドさん達に女の子らしくしてください!! と大目玉を食らってしまうからね。もしくはお姉ちゃんが面白がって真似してしまうか。


 ふとお姉ちゃんと目が合った。どうやら先ほどの心の叫びが口から漏れていたらしい。

 お姉ちゃんは素晴らしい身のこなしでメイドさん包囲網を突破して、勢いよく私に飛びついた。ぐふっと変な音を立てて口から空気が漏れる。

「きいてシエラ! みんながひどいの!! 私にあんな動きにくいドレスを着ろって言うんだよ!! これはきっとイジメだよ!! ショッケンランヨウだよ!!」

「お、お姉ちゃん、おちついて……! わかるようにせつめいして……! あと言葉のいみがわかってないのにむりして使わないで……!!」

 息も絶え絶えに私が言うと、お姉ちゃんはすぐに私を解放してくれた。

「ご、ごめんね、シエラ大丈夫……? くるしかった?」

「ううん、へいき! ぜんぜん大丈夫!」

 ちょっと申し訳なさそうに眉を下げるお姉ちゃんに慌てて首を振る。

「そんなことより、お姉ちゃんはなにしてたの?」

 「あのね!みんなが私にあのドレスを着せようとするの!」

 お姉ちゃんが指を指す方向を見れば、ピンク色の可愛らしいドレスがあった。レースやリボンがいっぱいでお姉ちゃんにとても似合いそうだ。

「わ、かわいい!お姉ちゃんが今日きるドレス?」

「着ないよ!」

「え、きないの……?」

 元気よく即答したお姉ちゃんにびっくりする。絶対似合うのになぁ。何が気に入らないんだろう。

 ちょっとがっかりしている私に気付いたのか、一番近くにいるメイドさんがこっそり理由を教えてくれた。

「アリア様はドレスにフリルがいっぱい付いているせいで、走れないことが嫌らしいです」

「……」


 お姉ちゃん……。公爵家のご令嬢は基本的に走っちゃいけないんだよ……?


 私のジト目に気がついたのかお姉ちゃんがぷくりと頬を膨らませる。くそう、可愛いな! でも騙されないぞ!

 周りを見渡せば、メイドさん達が困った顔でお姉ちゃんを見ていた。小さく溜め息をつく人もいる。

 そりゃそうだ。メイドさんの仕事はお姉ちゃんのお世話の他にもたくさんあるのだから、お姉ちゃんが我が儘を言えば、仕事の流れが滞ってしまう。溜め息の一つや二つも吐きたくなるだろう。

 このままだとメイドさんがもっと困ってしまうし、何よりお姉ちゃんが風邪をひいてしまう。……しょうがない。一肌脱ぐか。

「私、お姉ちゃんがかわいくおしゃれしてるところ、見てみたいなぁ……」

 こてりと首を傾げて上目づかいでじっと見つめる。

 どうだ! 必殺・おねだり攻撃!

 こういうこともあろうかと、鏡の前で練習していたのだ……効果は抜群の筈……!!

「うぅ……でもでも! きっとうまく歩けなくて転んじゃうもの!」

 しかし、お姉ちゃんは強かった。たじろいだものの、頑として譲らない。

 こうなったら仕方がない。奥の手だ……!!

「お姉ちゃん、これはきっとお姉ちゃんにかせられた、しれんだよ!!」

「し、しれん……!?」

 驚いて聞き返したお姉ちゃんに、私は大きく頷いてみせた。

「そう! 重たくて動きにくいドレスをきて、いかに女の子らしく、しゅくじょらしく運動できるか……! 神さまにためされているんだよ……!!」

「な、なんですと……!!」

 お姉ちゃんがガーンと衝撃を受けてよろめく。よし、あともう一息……!

「このしれんをのりこえた時、お姉ちゃんはさらなる強さを手に入れるんだよ!!」

「!!! ……ごくり」

 お姉ちゃんはキリリと顔を引き締めると、

「わかった……!! このしれんをのりこえて、強くなってみせるよ……!!」

おもむろに宣言をしたのだった。……チョロい。

サブタイトル:『私のお姉ちゃんはアホかわいい』

シエラは鏡を前にしたり、緊張すると無表情になるだけで、普段は割と表情豊かな子です。自分は無表情だと思っているのはシエラの思いこみだったり。



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