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麗しのレールキァ編 2

一気に遠ざかる地上。

みるみる内に近づいていく白と青。

それが雲と空なのだと、気づいた瞬間に俺は雲を突き抜けていた。



「おわっ………はぁあああああああああああ!」



浮いてる?へ?死んだ?なにこれ死んだ?

さっきまで地面にたってたよね俺?Vシネ兵士と対戦モードになって、シャラルキァに助けを求めて?

で。いきなりお空の上にスタンドアップ?一体どういうことだ、おいおいまじで気持ちがついていかねぇぜ。


盛大に遅れてきた意識を追いつかせて、喉の奥から声を張り上げた。

頭の中はぐるぐると回っているが、とにもかくにも怖くて下が見れない。

俺いったいどこに立ってんの?

不思議なことに何故か地に足がついている感覚を感じながら、足踏みすることはできない。



『落ち着いて、風の障壁の上に立っているのよ』


「……そ、それって割れない?」


『絶対壊れないわ。落ちたとしてもまた浮かせてあげるから安心してちょうだい?』


「いや、その浮いている状態が怖いわ」


『あら、夢の中で何度も見てきたでしょう?』


あれはお前の記憶の中だったから映画見てるような感じだったんだよ。

いくら視覚聴覚嗅覚体感ぜんぶにリンクするリアリティ記憶映像だとしても、実際に生身でやったら怖いわ。


と、そこまで考えたところで、ふぅ、と息を吐き出す。



「あー…そういやあったっけな、これ。

 風の精霊フル活用して、空飛ぶやつだっけ?」


『えぇ、今はさっきの場所から垂直に上にいるわ。とても高くだけれど』


「見たらわかるわ。空の上だろこれ。」


こんな高さじゃドラゴンだって飛んでるかどうか。

ていうかいきなりこんな高さまで一気に持っていくなよ。

たぶん風圧も重力も温度とかも精霊の力使って突破してるんだろうけど、俺の心臓がもたんわ。

瞬き一つでぱっと変わってるならまだしも、瞬きする間もなく一気に景色が流れていったぞオイ。


と、色々と不満を口に出していってみた。

そりゃもうぶちぶちと、シャラルキァに向けていってみた。

まぁ結果的には無事脱出できたので、言いたいことの7割はカットしてやったが、

とにかく俺の心臓がもたない、という部分を強調していってみた。



『そう…ごめんなさい。私ったらあなたの気持ちを考えずに…』


「いや、あそこから脱出できたのは本当に感謝してる。

 ただもうちょっと方法がないものかと…。」


『いいえ、あなたをもっと心静かにするやり方もあったはずだわ。

 次からはちゃんと気をつけるから、怒らないでね?』


声だけだが、しゅん、とした気持ちがとても伝わってきた。

俺もちょっと言いすぎたかな、シャラルキァは頑張ってくれたわけだし。

でももうちょっと他の方法が……いやいや、助かったんだ、今回はこれで良かったんだと思おう。

次からはシャラルキァも気をつけてくれるみたいだし…



『あ!じゃあ次はあの兵士たちをみんな殺してしまいましょうか!

 それならあそこから移動しなくて済むし、とってもいい案だわ!』


「はい無かったー。他の方法なんて全然なかったわ。

 むしろこの方法が一番。俺数千メートルの紐無し逆バンジー大好き」


『え?だって怖かったって…』


「いや、それ言葉のあや。俺も空飛べて嬉しいし、この方法が一番だなって今気づいた。」



そう!あなたが喜んでくれてとっても嬉しいわ!

なんて、喜んでいるシャラルキァの声を聞きながら、心の中で一つ息をはいた。

よし、これから先行われる俺の敵☆皆殺しルートは潰したぞ。

ほんとに怖いヤツなら構わないが、シャラルキァのオート抹殺モードはすれ違った人ももれなく死ぬレベルだからな。

罪のない人の命にくらべれば俺の逆バンジー恐怖なんて……尊い犠牲だ、うん。

やけに近い青色を見ながら、遠いようでいつもより近い太陽を仰ぐ。現実逃避だ。



いま、シャラルキァは聖女にあるまじき発言をした。

その発言につながる倫理感こそが、俺がコイツをきもちわるいと再三言う原因だったりする。

実はこの聖女、聖女ではない。

俺の中や、世間一般的に言う聖女とは、清らかな心を持ち、生きとし生けるものすべてを愛し、救うような存在だろう。

その認識からいうと、コイツは聖女なんかじゃない。


シャラルキァの愛は、この世界の精霊や妖精と、俺にだけ注がれる。

それ以外の存在はゴミやクズと同じで、遠くにある分には構わないが、近くにあれば捨てたり燃やしたいレベルなんだそうだ。


愛の反対は無関心だなんて誰が言ったんだ、ウチの聖女はきっちりと憎んでらっしゃるぞ。

まぁそれも、他の生命なんて精霊や俺の害にしかならないと思っているからのようだが。

だからコイツの愛は超ド級に重くてきもちわるい。

ヤンデレなのか?いいえ、殺デレです。


そんなヤツがどうしてこの世界で聖女と呼ばれたのか。

一つは全5種の精霊たちに愛されたこと、もう一つは精霊たちのために死んだこと、が拡大解釈されたせいだ。

だからこのきもちわるいまでの献身的な愛を持ったコイツが聖女と呼ばれるようになった。


と、シャラルキァの記憶をたどりながら、現実逃避を終了させた。

とりあえずこれからの自分の言動には気をつけることにしよう。

元の世界では精霊がいなかったから、少しばかり物騒な考え方をする超過保護な美少女が頭の中で騒ぐだけだったが

今では考えるよりも騒ぐよりも、物理的に殺意を行使するバーサーカー聖女が憑いてる。

下手をすればこの世界の生命ほぼBADENDだ。




「さて、とりあえずこれからどうする?」


『私としては精霊王たちに挨拶をしに行きたいけれど…』


「あぁ、あの物騒なヤツ等か。」


『あら、みんなちょっと個性的だけど、きっとあなたも気に入るわ!』


「俺としては命の危険を感じるからなるべく会いたくない。

 というかどうして俺はこの世界に来たんだ?」


そう、5種類の精霊王なんて英雄の次の次の次くらいにタチの悪い奴ら、なるべく会いたくない。

英雄みたいな鋼鉄を通り越してオーパーツ級の心臓を持っているのならいざしらず、俺みたいな小市民のノミの心臓はすぐに潰れてしまう。

なるべく危険を回避したいので、もっともな疑問を呟く。


そう、普通はこの世界に来た瞬間に考えるべきだろ俺。



『うぅん…私もそれはわからないの。

 世界を越えるなんてこと、それこそ精霊王の誰かのイタズラかと思ったのだけれど…』


「イタズラで出来るのか、精霊王。」


『でも、なぜかしら?精霊王の気配を感じないの。

 昔はもっと大気に精霊の力が溢れてて、世界中どこにいても王たちの力を感じたのに…』


「精霊たちに聞いてみればいいんじゃないか?」


『さっきの風の聖域にいた子たちに聞いたのよ。

 でも、みんな王たちのことは知らないって言うの』



知らない?おかしな話しだな。

いくらなんでも自分の直属の上司っていうか支配者?のことを知らないなんて…。

シャラルキァの記憶の中の王たちは、それこそ爆弾・暴風・驚異の三拍子が揃ったようなものだったから、動向を隠せるようなヤツ等ではないはず…。


腕を組みつつ宙にたつ。

足元はまだ恐ろしくて見れないけど、そろそろこの空の世界に慣れてきた。

今なら天空の城だって探せそうだ。入道雲に突っ込んでいってやろうか。



『それにね、聖域もおかしかったの』


「聖域がおかしい?どういうことだ」


『私が生きていた時代の聖域といえば、精霊王たちの住処ただ一つだったでしょ?』


「あぁ、記憶によればそうだな。」


『でもさっきの場所は風の王の住処ではないわ』


せいぜい精霊の森ってところね。と続けるシャラルキァの声を聞きながら、首をかしげる。

精霊の森は、まぁまぁ精霊が多い森のことだ。

それが今じゃ聖域扱いなんて…おいおい、いったいこの世界はシャラルキァが死んでからどれくらい経っているんだ?

精霊王たちの住処を記憶の中から引っ張り出して、考え込む。

確かに聖域といえば、古代遺跡のような荘厳さを持った神殿だったような気がする。

場所は海の中やマグマの上や土の下だったりしたが、風の王の神殿は……




「霊峰の頂点の風の結界の中の空の上じゃないか…」


リアル天空の城だった。



『ね?おかしいでしょう』


「ちょっと待て。このままだと精霊王直行コースじゃないか」


『でも世界を越えることができるのなんて、彼らくらいしかいないわ』


「いや、確かにそうだが…。頼むからお前ひとりで行ってくれ」


『あら、前の世界でもこの世界でも何度も試したけれど、私はあなたから離れられないわ』


「精霊の力でなんとか!」


『ならなかったの、ごめんなさい』


言葉とは裏腹に、にこにことした顔が頭に浮かぶ。

ちくしょう、コイツぜってぇ楽しんでやがる。

大好きな精霊王たちに会えるのも心待ちにしてやがるし、俺とこの世界で一緒にいれるのも喜んでやがる。

もともと大好きな精霊たちから引き離されたために俺を心の拠り所にしたくらいだ。

そりゃあ精霊たちのいる世界に来れて嬉しいだろう。


どちらにしろ、元の世界に戻るには精霊王の力を借りるしかない。

もし他の存在が俺をこの世界に呼んだとしても、確実に帰れる方法をとったほうが安全だ。

つまり、精霊王に合うしかないのだ。



「はぁ……しょうがないな、行くか」


『きゃぁあ!ありがとう!大丈夫よ、貴方のことは私が絶対守るから!』


やれやれ、と組んでいた腕を解いた。

そして黄色い声が頭の中で響いた瞬間、身体はものすごいスピードで加速した。

それこそ青と白がぐるぐると流れていく光景に、ノミの心臓がぎゅっと縮んだ気がした。



「だから、移動は、もう少し遅くしろ!」



幼児が憧れる、あの自分の顔を渡す愛と勇気が友達のヒーローのように

少年たちが憧れる、あの違う星から来た小さい子が三世代にわたって戦う漫画のように

とある大国が憧れる、全身タイツのムキムキ男のように


俺は空をとんだ。


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