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死してなお愛は深きにして

作者: Raga

死にたくない。

そう願ったときにはすでに死んでいた。

それはとてもよくあることであって。

ただ、死にたくない、その思いは死んでしまえばたちまちに消え入ってしまう。

それが手遅れな願望だとすぐに悟ってしまうから。

だが、愛している、その想いは死などで分かたれることはない。

死してなお、人は惹かれあうことができる。

死してなお、人はつながっていたいと願う。




重いまぶたをゆっくりと開くと木々が自分を見下ろしているのが視界に入ってきた。

ぼんやりとそれが見慣れた並木道の下であるということを認識した。

覚醒直後の霧のかかったような思考が徐々に澄み渡っていくと同時に、夏は自分に何が起きたのかを理解した。

慌てるままに跳ね起きて横を向くと、座り込んで地に両手をついた男が声を一切上げずに涙を流していた。

「誠さん・・・」

あまりにもその存在が愛おしく、そして哀しくて、夏は無意識のうちに彼の顔に向かって手を伸ばしていた。

伸ばされた手はしかし涙に濡れた誠の顔をすり抜けて、止まった。

自分が今しがた横になっていた場所に目をやるとそこには完全に血の気の失せた、自分と同じ顔の女が体を赤く染めて倒れていた。

その表情は悲しさと嬉しさの中間のような感情を表現していた。

初めて、自分が死んだのだということが実感となって夏を襲った。

不思議と、死と言うそれは恐怖ではなくなっていた。


ただただ静かに涙を流し続ける誠を、自分も涙しながら見ていた夏はそこで、誠が声をだしていないのではなく、自分が一切の音から遮断されているということに気付いた。

ふいに、誠の口がなんらかの言葉を紡ぎ始めた。

しかし声は聞こえない。

「誠さん・・・?誠さん・・・何と言っているのですか・・・?私に・・・教えて下さい・・・」

彼女の痛みを孕んだその言葉は誰の耳にも届くことはなかった。

とめどなく溢れ出す涙をせきとめるすべを持たず、ただ心臓を貫くような苦痛の感情に支配されるがままとなった。

触れたい。

抱きしめたい。

これまでは当たり前のようにできていたことが今、目の前に彼がいるのにも関わらず、夏には一切の干渉がゆるされなかった。

何もすることができず、二人はお互い触れ合うこともせず、ただ重なり合うようにして寄り添っていた。


夏は自分が囚われている感情がいったい何なのかがわかっていなかった。

触れられない、声が届かない。

それだけではなく自分は彼から見えず、彼の声は聞くことすらままならない。

しかし彼女を支配しているのは孤独ではないということだけは根拠のない確信めいたものがあった。

死してもなお胸にある彼への愛が、全ての障害を消し去る光として彼女の内に燦然と輝いていた。


どれほど時が経ったのだろうかもわからなくなったころ、夏は気配で誠が体を動かしたことを察知した。

涙も涸れ、虚空を見つめ続けていた誠は、突然自分の腰にさしていた小刀を抜き、切っ先を自分の胸に向けて構えた。

「駄目です!!誠さん!!!」

誰にも聞こえない悲鳴があたりに空しく響いた。

ほんの一瞬、並木道を吹き抜ける風が完全にやみ、時が止まったかのように何もかもが静止した。

誠は刃を思い切り胸に突き立てるように腕を動かし、しかし先端が薄皮一枚傷つけたところで止まった。

腕が小刻みに震えているのが見て取れた。

あまりの衝撃に夏は深く息を吐き脱力し、一度は止まった涙が再度溢れ出した。

それは誠も同じことだった。

涙を流しながらも再び何事かを呟いていた。

会いたい。

会いに行きたい。

彼の唇はどんな声よりも雄弁に語っていた。

声は彼女に届いていないものの、彼の伝えたいことは悲しいほどに理解できた。

悲しみにくれる彼を抱きしめたい。

どれほど痛切に願ってもそれは叶うことはなかった。

何も触れることのできない手を握り締め、身を切るような痛みを振り払い、震える声を絞り出した。

「私も・・・会いたいです・・・!会いたい・・・でも!!会いに来ては・・・死んでは駄目です!!私のためにも・・・生きてください!!」

この世のものではなくなってしまった夏には何ものにも干渉することができない。

こぼれ落ちる涙も、地に跡一つつけることさえ許されなかった。


しばらく微動だにしなかった誠はやがて夏の見ている前で立ち上がり、腰に刀をおさめた。

彼の瞳にはまだ仄かな陰りがあった。

夏はそれに一抹の不安を覚えながらも彼の一挙一動を片時も目を離さずに見守り続けていた。

誠はそばに横たわっていた夏の亡き骸を丁寧に抱き上げると、一度強く抱きしめた。

夏からは見えない位置で何事かを呟き、そして一歩を踏み出した。

唇の動きすらも読めなかったがそれでも夏には彼の言った言葉が手に取るように理解できた。

愛している、と。

「はい、私も愛していますから!」

涙の跡が残る顔に、今までで一番の笑顔をのせて言い切り、歩みを進めていく誠の後ろを静かにゆっくりとついていった。

読んでいただきありがとうございました。そして申し訳ありません。前回書いたやつの続きみたいになってしまいました。

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