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Tokyo Babel  作者: スパイク
三軒茶屋ワーウルフ
5/7

三軒茶屋ワーウルフ4

04


「っと…こんなもんかな」


PCのモニタには「世田谷 狼男」をキーワードに検索したWEBページがいくつか開いている。


久しぶりの部活の後真木野さんを送り、この時間まで僕がやっていたのはネットでの情報収集である。


意外な事にと言えばいいのだろうか、三軒茶屋を中心にした狼男の噂は地味に広がっているようだった。とは言えそのどれも信憑性の低い適当な都市伝説って言うレベルで、具体的な話はほとんどない。


言ってみれば「友達の友達の話」とかで始まりそうな話ばかり、つまりは出所不明な噂話レベルである。


ただそれでも気になる点はとりあえず二つほどある、まず一つは一応どの話も多少のばらつきはある物の世田谷区内を舞台にしているという点、そしてもう一つは…


「まさかこの雑誌がそんなに売れているわけはないだろうしなー」


パラパラと真木野さんから借りた「月刊ネメシス」をめくる。

ちなみに「雑誌 ネメシス」で検索をかけてもこの雑誌や出版社のホームページらしきものは見つからなかった、このご時勢にホームページもなく、ネット通販もされてないというのは一種この雑誌自体がオカルトな存在なのかもしれない。


本当に真木野さんはどこで買ってんだこんな雑誌?


この雑誌がどうやって続いているのかも気になるが、今問題なのは中の記事である。


「狼男に噛まれるとバベル症になる!?バベル症の感染源の疑い!!」


などと、おどろおどろしい見出しがおどっている記事の内容はと言えば、狼男の目撃例と前後してその付近でバベル症を発病する人が多いと言うもので、これはつまり狼男に噛まれるとバベル症になるに違いないという話なわけだが。


当たり前だがこれは狼男の目撃談が全て正しく、なおかつバベル症患者がその付近に存在するという事が本当な上でやっと信頼できる記事な訳で、まあ嘘くさいと言えば嘘くさい、と言うか信用出来る要素が全くない。


と言いながらも残る一つの気になる点というのは、ネット上の噂話が大体にして噛まれた人間は「植物人間状態」になるというオチで終わるという所と、この「バベル症に感染する」という点である。


「しかし…バベル症ねぇ」


検索に「バベル症」と打ち込めば一瞬で大量のページがヒットする、僕はその中のWikipediaのページを開いてみた。


「およそ10年程前からその症例が報告される様になった奇病、現在有効な治療法は発見されていない。


正式名称を「突発性染色体異形成症」と言い、「バベル症」とは通称である。


初期症状は錯妄と人体の一部の肥大化や硬質化、異形化などの変形、発症して平均1週間で昏睡状態に落ちる、何かしらの染色体異常が原因と見られており、極稀に昏睡からの回復をする患者はいるものの病原の特定はされていない。


通称はこの症例が報告されたのが「バベル事件」と前後している点、また世界各地で症例は報告されているがバベルに近い地域ほど症例が多いと言う風説によるものである。


しかしこの奇病は極稀に確認されるもので、現在確認されている症例数では、バベルに近距離であればあるほど症例が多くなると言えるほどに有意なデータはなく、実際は初めての症例が東京で発見されたと言う印象が強すぎる為の誤解と思われる。


また感染症であると言うのも間違いであり、諸々の噂が罹患者およびその周りの人間への偏見を煽るものであると注意喚起されてもいる。


医療関係者の間ではこう言った根も葉もない噂で精神を耗弱させる事を「バベル病」と呼び揶揄する向きもある。」


とまあ、あんまり長いんで流し読みだが、要するに世界で未だに数十例くらいしかない奇病って奴である、三軒茶屋周辺で数人でも患者が出ようものなら、こんな三流雑誌の記事ではなく新聞の一面を飾っているんじゃないだろうか?


とすると雑誌の記事もネットの噂も、都市伝説とバベル症への偏見の合わせ技の産物で、たまたま同時期に話題になったってことだろうか?


いや、単純にこの雑誌がネットの噂をそれっぽく記事にしたっていうのが正解ってとこだろう。


まあ疑ってかかれば、そう言う話を流したがっている人間がいるというのも考えられなくはないが、取りあえずそんな事をするメリットが僕には思い浮かばない。


こんな小規模な噂程度じゃあ世間に何の影響もないだろうし、まさか三軒茶屋付近の土地価格を下げて買い占めようとしている巨大な地上げ組織が行っている工作活動の一環とか?


「なにやってんの?レオ」


飽きて来て変な方向に妄想を始めていた僕にアミィがヘッドセット越しに話しかけて来た。


「ん?ああ、部活の下調べ」


「へーレオは部活なんてやってたんだ、いつもの時間になっても始めないから具合でも悪いのかと思ったよ」


「あーそうだ、アミィそれなんだけどさ、少しナイブラの活動抑えめにしない?」


「ええー!?なんでだよ?」


不満一杯のアミィの声がヘッドセットから響く。


「いや何か目を付けられだしてる気がするんだよ、ほら昨日の「忍者」もわざわざ祝福付きの銀武器なんて用意してきてたし、考え過ぎかもしれないけどさあ大規模クランとかに目をつけられたなら面倒っちゃ面倒だし」


僕とアミィがやっている「Tokyo Night Blood」と言うゲームのメインの目的は縄張り争いといっても良い。


仲間を増やし、部分的ではあるが東京を忠実に再現した街で自分の勢力圏を広げて行くのがゲームの目的と言って良いだろう。その為の常套手段は「クラン」と呼ばれるグループの形成と、その「クラン」同志の「同盟」であり、それはこのゲーム自体が推奨するやり方でもある。


他のゲームとの差別化要素として、携帯を使ったソーシャルゲームとのリンクと言った要素をうたってる所からもそれは疑いようがないだろう。


クランを組んだプレイヤーでのみ閲覧出来る掲示板や、同盟関係のみに共有できる掲示板など、それらを通したコミュニケーションと情報戦はこのゲームの醍醐味の一つだ。


しかし僕とアミィのやってることは、そのゲーム意図からすると少しはずれている。


どこのクランに属することもなく独自のクランを作る訳でもない、勝手に自分が縄張りと決めた場所に入って来たプレイヤーを狩るというスタイルだ。


これは他にやっているプレイヤーがいない訳ではないが、少数であることは間違いない「ハンター」と呼ばれるプレイスタイルである。


もちろんメリットは十分にある、少数であるからポイントボーナスは高いし、相手から奪うスキルやアイテムも狙った物を奪いやすい上に意思統一も楽だ。


それでもこのスタイルが少数派なのはやはりデメリットがでかいと考えられているからだ、簡単に言えば潰されやすいのである。


物量で囲まれるとまずいのはもちろんだし、少数のメンバーという事は互いに弱点をカバーするにも自然と限界があり、所持スキルやプレイスタイルを研究されてしまえばそれだけで全く勝てなくなる可能性があるのだ。


昨日の「忍者」がわざわざ祝福付きで銀武器を持っていたのは、三軒茶屋で「人狼」のハンターと遭遇する可能性が高いという情報がどこかのクランや同盟の間で出回ってるという可能性がある。


「シルバークレスト」の様に、こちらはこちらでそんな事態を考えてセットしているスキルもあるが、セットできるスキルの数に限りもあるし大規模クランが「人狼」退治に乗り出したなんて事になれば、潰されるとまではいかなくても稼ぎが少なくなるのは目に見えて明らかだ。


「だから、例えばアップデートまで少し様子見ってのも手だと思うんだよ、エリアが広がればそんだけ注意も分散するわけだしさ」


僕の意見にアミィは少し不満を残しながらも賛同してくれた、バトルマニアではあるが理屈が分からない奴でないというのが僕がアミィと組む理由の一つだ。


「まあ仕様がないか、その代わりアップデート終わったら狩りまくろうぜ」


そう笑いながら言うアミィの声からは、今からその様子を想像して待ちきれないと言う気持ちが分かりやすく伝わる。


「もちろん、それに追加エリアではこっちの手口知らない奴らもたくさん来るだろうし、またたくさん稼げるさ」


僕もそれに合わせて笑う、実際僕とアミィの手口を知らない初見の相手ならまず間違いなく狩れるだろう。


「んじゃまあ今日は早いけど解散か?」


「うん悪いけど、またタイミング見て呼ぶよ」


「ああ、まあ部活頑張れよ」


そう言い残してヘッドセットからアミィの声は聞こえなくなる。


そんな訳でとりあえずこっちの「狼」との話はとりあえずついたが、残るは問題はやはりもう一方の「狼」の方である。


何しろどうすれば解決するか分からない。


目標は一見「真木野さんが狼男に直接お礼を言う、もしくは何かしらの感謝を伝える」だが、実際には「真木野さんが伝えたと納得する」という条件も加わる訳で、これは実際無理ゲーだ。


しかしオカルト研究部と言う名の真木野薪の好奇心を満たす部活動に所属する身としては、簡単に逃げる事もできないのが現実である。


「まあ実際やれることは限られているんだけどなー」


とりあえず僕は明日からの運動に備えて久しぶりに早めに寝る事にした。


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