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Tokyo Babel  作者: スパイク
三軒茶屋ワーウルフ
4/7

三軒茶屋ワーウルフ3

03


世田谷第三中学校非公認部活動「オカルト研究部」。


そこに籍を置いているのは3年生の3名のみ、さらに内1名は幽霊部員、その上活動はかなり不定期なもので部長の気分次第といういい加減さ、僕たちが卒業すれば部員はもちろんゼロになる訳で、かなりの確率と言うかまず間違いなく来年には存在していない部活である。


要するに部長であるところの真木野薪が興味を持った事を、副部長である僕、鉤谷礼央が部長が納得するまで調べると言う遊びの様な部活だ。


真木野さんはのんびりとした外見や言動からは今一想像し辛いが、かなりのオカルトマニアでその方面に関しては時に驚くくらいの行動力を見せる、この部活も初めは入学したばかりの頃に真木野さんの「学校の七不思議」を集めると言う目的の為に結成されたものである。


まあその結果は実際は5個しか不思議が無いというあまりにアレな終わりだったが。


「しかし、いつぶりだろうねオカルト研究部」


もちろんこんな非公認不定期活動部に部室などある訳はなく、今、僕と真木野さんが話しているのも放課後の教室である。


窓の外からは部活に励む生徒のかけ声が聞こえて来る、陸上での推薦を狙っている石松あたりは必死で走り込んでいる事だろう。


「2年の冬休みに東京中のパワースポットを探したのが最後じゃなかったかなー?将門様の首塚から全身を回って、結局分かんなかったけど、やっぱりあの時の写真に写ってたのは落ち武者の霊だと思うんだけどなー」


真木野さんが「うーん」と唸った後答える、こっちから話を振っといて何だが、あまり前の話を掘り返すと変な方向に話が行くかもしれないと言うか、絶対行くのでとりあえず話を戻す事にした。


「で、部長、今回はどんな怪奇現象を調べるんですか」


「あーえーとねーこれー」


真木野さんが鞄をゴソゴソと漁って取り出したのは一冊の雑誌だった。


「月刊ネメシス」と、何と言うか古くさいロゴで雑誌名がデカデカと乗った、原色の配色がエキセントリックな印象を与える表紙の雑誌だ。


そのビジュアルもさる事ながら見出しも中々パンチが効いている。


「東京の地下に大規模なUFO発着基地が!」

「サババーナ師に本誌独占インタビュー 輪廻とその法則」

「バベル事件の影にMJ12の関与」


などなど、まあ要するにオカルト雑誌の類いと考えて間違いないだろう。


しかしこんな雑誌を定期購読しているのだろうか真木野さん、さすが校内不思議系女子No.1の名を欲しいままにしているだけはある。


こちらの感心をよそに、真木野さんはパラパラとページをめくり目的の記事を見つけると、雑誌を僕の目の前にズイッと押し出して来た。


「これーこれ調べよー」


安っぽい紙に印刷された、白黒の写真入り記事の見出しはこうであった。


『三軒茶屋に狼男出現』


あんまりな見出しにクラクラする。


記事によれば昨年の冬あたりから、三軒茶屋を中心に人間程の大きさをした狼の目撃情報が相次いでいるとある。


そこで何で大きさは置いといたとしても犬だって事にならないのだろうか?と突っ込むのも野暮なのだろう。


主に深夜で人通りの少ない路地裏での目撃が多いようで、狼は人に見られると建物を一瞬で駆け上がったり、とても「この世の物」とは思えない動きをして逃げるらしい。


更なる目撃談では二足歩行をしていた上に丁寧に遠吠えまでしてくれたらしく、それが狼男だという話の根拠になる訳だが…


「いや、さすがにこれは出鱈目じゃ…」


目を輝かせている真木野さんの手前、もう少し言葉を選ぼうかとも思ったが、率直な意見が思わず漏れてしまう。


「えー写真もあるんだよーこれはすごい証拠だよー」


真木野さんの一押しの証拠は、印刷の品質のせいか元々の写真が強引な拡大をされたせいか、おそらくその両方のせいだろう、何と言うか街の風景にインクのシミが浮いているかの様にしか見えない。


記事によればビルとビルの間を跳ぶ狼の姿という事らしいのだが、何だろう?ロールシャッハテストとかに使えそうだ。


「いやーどうかなーでっかい鳥とか?」


「でーもー鳥にはこんな足ないよー?」


確かに鳥類の足と狼の足は大きく異なるのは確かだが、この場合果たしてどの部分を指して足と真木野さんが言っているのかさっぱり分からないのが難点だ。


副部長の賛同を得られないせいか、真木野さんの頬が分かりやすく膨らんで不満を伝えて来る。


しかし僕もいくら放課後にやる事と言えばゲームくらいとは言え、こんな訳の分からない記事を元に動く程暇と言う訳でもない。


「…見た事あるの」


「え?」


乗り気でない僕に真木野さんがボソリと呟いた。


「え?見た事あるって…これ?」


半信半疑で僕がインクのシミを指差すと、ためらいがちに真木野さんが頷く。


「まじで言ってる?」


さらに念を押してみると今度は真木野さんは凄い勢いで首を縦に降り出した、机にヘッドバッドをくらわせそうな勢いに慌てて止める。


「分かった、分かったから」


正直まだ納得してはいないのだが、これ以上確認すると真木野さんの首が大変なことになりりかねない、とりあえず話をすすめるしかないようだ。


「じゃあえーと…真木野さんが見たっていうのは」


「あのねー助けられたの多分、だから探してお礼を言いたいなーって」


ダメだ、もう話を聞いていない、これはもう完全に真木野さんのペースにはまるパターンだ、そしてこうなると断るという選択肢が無い事を僕は良く知っている。


こうして実に半年ぶりに「オカルト研究部」の活動は再開されることになった。


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