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君との夏  作者: 守月 淼
― In the classroom ―
7/7

― 6 ―

更新遅くなってすみませんでした。

ではお楽しみ下さい。

「――はぁ、はぁ、はぁ……、やっと、やっと着いたぁ……」


 流れ出る汗を拭うこともできないまま、ようやく我が家へと着くことが出来た。

腕を動かせない原因を作っている奴を振り向きながら確認すると、依然として苦しそうな表情を浮かべて眠っている。 


 あの後ストーカーを背負って家に向かったはいいんだけど、如何せん力が抜けた人間って結構重いんだなと思い知らされた。

もちろん俺が引き籠りのもやし野郎っていうのも大きく影響していると思うけど、それを差し引いても運び辛かった。

多分こいつが小柄じゃなかったらここまで運べていなかったと思う。

捕まっておぶさっていないから常に腰を斜めにしていないといけないし、しかもカバンを二つ持ちつつなんとか両手でストーカーの臀部の下の方で腕を組んで支えていたが、ほんと腕が死にそうなぐらいきつかった。

しかもぐったりと体重をこっちに掛けてきているから、なんか背中に控えめな柔らかい物が当たったり、女の子特有のいい匂いがしたり、耳元で『はぁ、はぁ……』と息を吹きかけられたりと、とにかく大変な思いをしながらもなんとか家に着くことができたのである。


 「た、ただいまぁ……」


なんとか腕を震わせながら片手で鍵を開けて玄関の扉を開けると、スリッパをぱたぱたと踏み鳴らしながらこっちに向かう音が聞こえた。


「あ、お帰り~、どうだった学校、は……」

「え、ああ、ただいま、で……」


 一瞬時間が止まった。


 あ、あれなんでこんな時間に理恵子姉さんが……?

てかこれヤバいんじゃないか? 具体的に何が起こるかはわからないけど、多分というか確実に面倒なことが起きる気が……。

 

 嫌な予感を回避しようといい訳を試みることにした。


「あ、あのですね、その、これには事情が……」

「――透利くん!」


なんか理恵子姉さんの後ろに阿修羅が見える気がする。

びっくりした顔から一転して笑顔になってる……、目が、目が全然笑ってない……。


「は、はい!」

「登校初日にお持ち帰りとはいい身分ねぇ……、しかも足腰立たなくなるまでヤっちゃうなんて……」

「え? や、ヤるってそんな、あの俺とこいつは初対面で――」

「言い分け無用!! あら? しかも……中学生!? いくら可愛いからって年下の子をこんなに足腰立たなくなるまでなんて……、姉さん悲しいわ……」

「いや、あの、話を……」


 不味い……。姉さんの中で完全俺がこのストーカーをお持ち帰りしたみたいになってる。

しかもこいつが背が低めな上に、まだ発展途上中のような体をしているせいか、理恵子姉さん中学生と勘違いしてるし!

このままだと俺が変態ロリコン扱いになってしまう!


「ね、姉さんこれは違うんです、これはこいつが道端で気を失ったからここまで運んだだけなんです! お持ち帰りなんてしてませんってば!」 


必死に弁解するも理恵子姉さんは慌てる俺を見て、何処か残念そうな顔をして溜息を吐いた。


「はぁ……、そんなアニメや漫画みたいな話があるわけないでしょ? いい加減認めなさい……自分が鬼畜ロリコンだって」


 いや、だから……違うってばぁぁああ!


 心の中で大きな叫び声をあげた甲斐もなく、結局理恵子姉さんの誤解を解くまで小一時間は要したのだった……。







 「もう、違うなら違うって言ってくれればよかったのに。私てっきり透利君が鬼畜ロリコン野郎だと思ってしまったわ♪」

「俺ずっと違うって言ってましたよ……」


 説得の後、ストーカーをクーラーの効いた居間に仰向けで横たわらせると、理恵子姉さんは流石看護婦といったところか服を緩めたり、首や脇の下、足の付け根に氷嚢を乗せたり、扇風機を持ってきたりと適切な処置をこなしていた。

暫くそうしていると、苦しそうな顔をしていたストーカーの顔色もだいぶ良くなり、呼吸も落ち着いたものになった。


「ふぅ、もう大丈夫みたいね。本当は救急車を呼んだほうがいいのだけれども、この子は呼吸あったし、脈も安定してたみたいだったから良かったわ。それにすぐに症状も安定したしね、それでこの子は誰なの?」

「誰って、俺には何とも……。道端で倒れたのを見つけただけですし……」

「そうなの? うーん、困ったわね……」


 流石にこいつにストーカーされてて、俺の速度に着いてこれなくてぶっ倒れたなんて言えないしな……。

 

 しかしほんとこいつは誰だろう?

見たところ本当に見覚えはなさそうだしな。

ならどうして俺なんかをストーカーしてたんだろうか?


 暫くの間ぼーとストーカーの顔を見ていると、僅かに眉が動いたかと思うと、ゆっくりと瞼を開けた。

 

「ん、んん……、あ、あれ? ここは……」


 綺麗な声だと思った。聞いてて心地良い、ずっと聞いていたら眠ってしまいそうなそんな声だった。


「あ、起きた?」

「は、はい。ええっとここは……?」


 起きたばかりで状況が把握出来ていないのか、キョロキョロとあたりを見回している。

そんな姿にクスッと笑みを漏らした理恵子姉さんは優しそうな顔をして声をかけた。


「私、南条 理恵子って言うの、貴方は?」

「え? わっ、私は皆瀬みなせ 七海ななみ……です」

「そう、七海ちゃんって言うのね。ん? 皆瀬? 皆瀬、皆瀬……ってあ、もしかして皆瀬みなせ 海斗かいと先生の娘さん?」

「え、お父さんを知ってるんですか?」

「ええ、知ってるわよ、私看護婦なの。皆瀬先生とは担当している課が違うからお話したことはないんだけどね」

「そうなんですか? えっと……」


 理恵子姉さんとの会話をいったん途切れさせて考えるような素振りをした少女……皆瀬はもう一度辺りを見回すと、俺の方に目が止まった。

まるで他のものは目に入っていないかのように目を逸らすことなく、じっとこちらを見つめてきている。


「どうかしたの? 七海ちゃん。透利君のことが気になるの?」

「透利……くん? とおり……南条透利くん」

「は……?」


 な、なんでこいつ俺の名前を!?

あ、でもストーカーなんだし名前くらい調べてて当たり前か……?


 依然としてこちらをじっと見つめてくる皆瀬の視線と、この場の雰囲気に耐えきれなくなった俺は取り敢えず話しかけてみることにした。


「はぁ……、で、お前は誰なんだ?」


 俺の問いかけに皆瀬は体をビクッとさせると、なぜか悲しそうな表情を浮かべた。


「あ、あの……わ、私のこと覚えてないの?」 

「はぁ? だって俺とお前は初対面だろうがってうぇええ!?」

「はぇ?」


 改めて顔とか背丈とか確認しようと思い皆瀬の方に視線を向けてみると、思わず変な声が出てしまった。

というのも先ほどのやり取りですっかり忘れていたんだけど、そう言えば処置の為に服をある程度はだけさせている。

つまりその……は、白くて柔らかそうな肌とか、慎ましい胸を隠している可愛らしいブラジャーとか、とにかく健全な青少年を惑わすブツが色々見えてんだよぉおお!!


「? 透利くんどうかしたの?」


 そんな俺の無言の訴えに気付くこともなく、むしろ俺を心配するようにコテッと首を傾げた。


「あ、あのな……見えてんだよ」

「え? 何が?」

「はぁ……だから、見えてんだよ、その……胸とか」

「胸?」


 皆瀬は俺の言葉に依然として首を傾げながらも自分の胸、そして自分の今の服の状態を確認した。


「は、はわっ、はわわっ!?」


 ようやく自分の今の状態が分かったのか皆瀬は慌てて服を整えた。

整え終わると、顔を真っ赤にさせて顔を俯かせた。


「そ、その……お見苦しい物を見せてすみません……」

「い、いや……」


 見苦しいっていうか、むしろ眼福でしたありがとう――


「ロリコン……」

「はっ!?」


  隣を見ると理恵子姉さんがニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべて俺を見ていた。


「まぁ透利君がロリコンかどうかはこの際置いておいて……」

「いや、だから俺はノーマルですって……」

「?」

「七海ちゃん、もう8時過ぎだけどお家帰れるかしら? 無理そうなら私が皆瀬先生に連絡取ろうと思うのだけど」

「へ?」


皆瀬はポカンとした顔をして時計を確認した。


「わわっ、もう8時! 早く帰ってお料理しないと……」


慌てて立ち上がった皆瀬だったが、まだ熱中症がキチンと治りきってないのかふらつくとぺたんと座りこんだ。


「だ、大丈夫!?」

「は、はぃ……、少し眩暈が」

「もう、無理しちゃだめでしょ? 七海ちゃんは倒れたんだから十分に休養を取らないと」

「倒れた?」

「そうよ、覚えてないの? ここまで透利君が貴方のことを運んでくれたのよ」

「透利くんが……?」


 皆瀬はなぜだか泣きそうな表情を浮かべながらこちらを見てきた。


 泣きそうになっている理由は定かではないが、居たたまれなく俺はさっと合わさっていた視線をずらした。

やっぱこんな根暗野郎なんかに一時でも体を触られたのが嫌だったんだろうな……。


「ま…た……れた」

「え?」


 皆瀬が小声でなにかを呟いた。


 何て言ったか聞くために皆瀬を方を振り返ると、皆瀬は目元を擦り頭を2、3回振るとこちらに笑顔を向けてきた。


「ううん、透利くん、ありがとう……」

「え? お、おう」

「えへへ」


 まったく……、悲しそうな顔をしたり、嬉しそうな顔をしたりと忙しい奴だな。


「それで、どうする七海ちゃん? まだきつそうなら家で休んでてもいいのよ。帰る時は車で送っていくし」

「そ、そうですね、えっと……」


 皆瀬は考える素振りを見せるとなぜかこちらに目を向けてきた。


 何だ? なんか俺の顔にでもついてんのか?


「えっと……、もう少し休んでいってもいいですか?」

「ええ、いいわよ。それじゃあ皆瀬先生には私から連絡しておくわね」

「すみません……」

「いいのよ、悪いのはお持ち帰りした透利君だから」

「なんで俺のせい……」

「じゃ、私は電話してくるから適当にテレビでも見てくつろいでいてね」

「は、はい」


 理恵子姉さんはそれだけ言い残すと携帯を手に取ると、台所の方に行ってしまった。


「……」

「……」


 き、気不味い……。

てか思えばこいつと俺って初対面なんだよなぁ……。


 ちらりと横の皆瀬を見る。

スノーホワイト色の髪を背中まで結ぶことなく背中まで流している。

幼い顔立ちと、背丈は本当に言われなければ中学と見間違うほどに小さい。


「ん? どうかしたの?」

「い、いや、なんでも……」 

  

 しかし、改めて顔をよく見てみてもやっぱり見たことがない。完全に初対面だ。

ならどうして皆瀬は俺の後なんて着いてきたのだろうか?

こんな登校初日で保健室送りとなったような俺のことを……。


聞いてみたい気もするがいかんせん俺には初対面の奴に気軽に話し掛けれるような勇気もないし、そろそろ他人といるのが限界になってきた。


 溜息を吐きながら大人しく自分の部屋に撤退しようと腰を上げようとした時、皆瀬はこちらのほうを向いた。


「どこか行くの?」

「え? ああ、まあ自分の部屋にな。ここに居ても特にすることないしな……」

「あ、うん、自分の部屋に……」


 皆瀬はまるで置いてきぼりにされる子供のようなに寂しそうな顔をした。


「ま、まあそういうことだから――」

「ま、待って! その……お話とかしない?」


 お話って、さっきお互い無言だっただろ……。


『はぁ……』と溜息を吐きながら、少し上げた腰を下ろした。


「で、何の話をするんだ?」

「え? ええっとその……、あっ! す、好きな食べ物とか!」


 なんだその取ってつけたような話題は……。

まあ沈黙よりはよっぽどマジだけど。


「好きな食べ物か? そうだな……カレーとかかな」

「カレー?」

「ああ、あとは卵焼きとか」

「ふふっ、オーソドックスな物が好きなんだね」

「まあな」

「私はねそうだなぁ……甘い物が大好き、特にね和菓子が好きなの」

「和菓子って……団子とかおはぎとか桜餅とかか?」

「うん、それと抹茶なんかに付いてる和菓子も大好物なの。抹茶は苦手なんだけどね、えへへ……」

「まああれは本当に苦いから仕方ないだろ」

「うん、でも我慢して飲むの。我慢して飲んだ後の和菓子ってすごく美味しいんだよ」

「そうなのか? あれかコーヒー飲んだあとの甘い物はよけいに甘く感じるってやつか」

「うん!そんな感じ。あ、でもね甘い物ってカロリー高い物が多いからあまり食べないようにしてるの、太っちゃうしね」

「太るって……お前そんな太ってないだろ、むしろもっと食べた方がいいんじゃないか?」

「ううん、そんなことないよ。ほらお腹周りとか二の腕とかもちもちしてるもん、触ってみて」

「お、おい」


 それは流石にと思ったけど、断りの言葉を言う前に皆瀬は俺の手を掴むと自分のお腹の方にに持ってきて、俺の手を上に重ねるようにして自分のお腹を触らせた。


「んっ、少しくすぐったいね」


しばらく俺は返す言葉もなく皆瀬のお腹をなでてしまっていた。

皆瀬のお腹はぷにぷにしているというか、女の子特有の柔らかいというという表現が正しいと思う。

それに重ねられている手もひんやりすべすべして柔らかい。

なんて言うか皆瀬が女の子なんだと嫌でも思わされてしまっていた。


「ね? ぷにぷにしてるでしょ?」

「あ、ああ……」

「ふふっ、なんかこうしてるとお腹の赤ちゃんを撫でてる夫婦みたいだよね」

「ふ、夫婦!?」

「七海ちゃん、皆瀬先生がよろしくお願いしますって……」

「あっ」


 電話が終わったのか理恵子姉さんは台所から顔を出して、皆瀬に連絡事項を伝えようとして俺達の様子を見て固まってしまった。


 あ、これまたヤバいんじゃ……。

皆瀬が少し顔を赤らめて俺の方を見ていて、そんでもって俺が皆瀬のお腹を撫でているって……まんま出来ちゃった夫婦そのものだろ!!


「と、透利、くん……」

「は、はいぃぃい!!」

「もしかして……中に出したの?」

「中?」

「な、中ってそんな直接的表現過ぎでしょ! だから皆瀬とは何も……」

「じゃあどうして透利君は七海ちゃんのお腹を撫でてているのかしら?」

「そ、それは……」


 クソ、言い分けが思いつかねぇええ!

女の子のお腹を撫でている時の言い分けとか咄嗟に思いつくわけねぇだろ! 逆に思いつく奴がいたら教えて欲しいわ!

ヤバい、このままじゃマジで俺がお持ち帰り&孕ませ野郎になってしまう!


「悲しい、悲しいわぁ……、こんな無責任な子に育ってしまうなんて……。家族計画はちゃんと立てなさいって教えたでしょ?」

「そんなこと教わってないです! てか皆瀬も何か言えって」

「七海ちゃんもそんなに子供が欲しかったの?」

「へ? 子供ですか…? えっと……はい欲しいですよ?」

「おいぃぃ!」


 何言ってんだコラァ!

たぶん皆瀬のことだから『将来子供が欲しいか?』って質問だと思って答えたんだと思うけど、ここでその答えは不味いっていうか死ぬ、死ぬって!


「ふーん、子供が欲しいねぇ……」


 明らかにヤバい雰囲気を醸し出している理恵子姉さんにもう反論が言えなくなった俺は天井を見上げた。


「あー今日はクソ見たいな1日だったなぁ……ごふぁっ!!」



アドバイスや感想などお待ちしています。

又、ツイッターもやっていますので更新情報など早めに知りたい方がおりましたらフォローよろしくお願いします(@kamizukibyou

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