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第2話 <同棲 乱々と来る>

 


<同棲 乱々と来る>



 孝樹は自分の部屋のベッドで考え事をしていた。


 二時間ほど前に起きた出来事についてだ。


「どうしたものかなぁ」一人呟く。


 ある男性が訪ねてきて、いろいろあって一緒に暮らそうと言ってきたのだ。


 なんでも彼は父の友人で、自分を引き取りたいと言うのだ。


 未だよく分からないまま眠りについてしまった。


 翌朝目が覚めると電話が鳴っているのに気がついた。


 電話に出てみると、

「おはよう、孝樹君。朝からすまないが、君、どこの高校かな?」

「春倉高校ですけど」と言うと驚きと喜びの入りまじった声で、

「そうか、私の娘と同じ高校なのか。素晴らしいことだ。教えてくれてありがとう、それではまた」と言って彼は電話を切った。


 孝樹は思った、-娘と同じ高校?そして名前はたしか、千摩…-


 彼は気づいた。

 あの男性はクラスメイトの千摩優華の父親であることに。


 そして彼はとりあえず高校に向かうことに決めた。


 歩いていると後ろから一村と小田野が走ってくるのが分かった


 そこにはいつもの友人がいるのだった。


「オッス、孝」

「おはー、雨っちー」と二人は声を合わせて言う。


「オッス、小田野、一村」と手を挙げる。


「話は秦ちゃんから聞いたよ」といつものゆるい声の中にも、悲しみのまじった声で言った。その後を引き継ぐように、

「色々と大変だったな、オレらで力になれる事があったら何でも言ってくれよ」


 孝樹は少し涙を流した、こんなに良い奴らがいるんだ、と。



 教室に入ると、皆が明るく接してくれた。そして授業がいつも通り始まり、終わっていった


 帰り際、ある女子から呼び止められた、千摩であった。


「今日、お父さんから『話をしたいから家に連れてきてくれ』って言われたんだけど、今から良いかな?」と言った。


 孝樹は頷き、彼女の家についていった。


「よく来てくれたねー、待っていたよ」と春助は言った。


「いらっしゃい」と彼のとなりの見知らぬ女性が言った。


 いや、一度だけ見たことがあった。それは春助と名乗ったこの男が初めて家に訪れたときに見せた写真に写っていたのだ


「どうもよろしくお願いします」と二人に頭を下げると、客間に案内された。

 客間はかなり広かった。外見もかなり豪華であったが、中もかなりのものだ。

 壁には名画とも思しき品々が掛けてあり、他に騎士像のようなものも置いてあったりした。

 椅子に座り、孝樹は春助に聞いた


「やっぱりかなりのお金持ちなんですね。うちとは大違いです」

 それを聞き、大笑いしながら、


「そんなことはないさ。元々君の御両親のおかげなのだから」


「それは一体どういうことですか?」


「元々君のお父さんが立ち上げた会社なんだよ、うちの社は。そして君の両親が私たちに会社を譲ってくれたんだ」

 衝撃事実の発覚であった。

 そしてそれから二時間近く、三人は話し続けた。

 日はとうに落ちて、空には無数の星が散らばっている。


「もうこんな時間か。話をしていると時が経つのを忘れてしまうな。孝樹君、一緒に食事でもどうかな?」と時計を見ながら聞く。


「良いですか?」と聞き返すと


「当たり前だよ」と笑ってくれた。



 食事を終えて帰ろうとした時、

「一度考えてみたまえ」と彼は言った。


「ありがとうございます」と頭を下げて帰路につくと、後ろから追いかけてくる者がいた、千摩優華であった。

「あんた、足っ…早っ…いわよ」かなり息をきらせながら言う


「すまん、でもどうしたん?」


「お父さんが孝樹の所に泊まりに行けって言ったのよ」


「あー、そうなの……」

 沈黙が流れる。

 家に着くと彼女は一目散にテレビの前に陣取った


「俺、風呂入るから」と言ったら彼女は手を挙げて


「ハイハーイ」とテレビから目を離さず言う。

 彼は風呂に向かいながら思った-何でこんなことに?-と。

 そして彼が風呂から上がると、テレビの前から寝息が聞こえる。


 思わず「寝てんのかよ」と言ってしまったのだった。


「おい、起きて風呂入ってから寝ろよ」と起こす。


「んにゃ?ここどこ?いまなんに?」と寝ぼけている。


「ここは俺ん家で今10時だ」


「ああ、そうか。泊まりに来てたんだった。10時?もうそんな時間かよ。もっと早く起こしてよね!」となぜか起こる。


「しゃーねーだろ。さっきまで風呂入ってたんだからよ」と言うと、


「あっそ、んじゃお風呂入る」と言って駆け出していった。

 そこで孝樹は思った。

 そう言えば、あいつの寝るスペースとか作らねーと。と

 そこで彼は二階に上がり、自分の部屋の隣の空き部屋を片付け始めた。

 若干荷物置き場と化した部屋を片付けるのは困難だったが、とりあえず全てを一階の両親の部屋に押し込むので手を打った。


 全てを入れ終えて、掃除をし、使えるようになった頃、彼女が現れた。

 孝樹を見つけると少しムッツリ顔をして自分の姿を棚に上げて


「ちょっとあんたこんな所で何してんのよ」と言った。

 彼はそんな事を言う彼女に対してこう言い返したかった-おまえこそ何してんだ、その姿は何なんだ-と

 しかし彼はそれが言えないのだ。


「何って、おまえが寝る部屋用意してんじゃん」と代わりに答えた。


「ふ~ん。私ここで寝るの?」


「そう。下でテレビでも見てな、すぐピカピカにするから」


「分かった」と言って彼女は下りていった。

 そして彼はひたすら片付けに勤しんだ



 時間は0時を五分程過ぎたところだった

 部屋を片付け終えた孝樹がリビングに下りていくとそこには電気もテレビもつけっぱなしで寝ている優華がいた。


「おい、何寝てんだって、起きろよ」と彼女を揺する。

 しかし彼女は全く起きない。

 それでも彼は全く起きない。

 それでも彼は諦めず、起こし続ける。


「うっ、うう~ん、誰よ~良い夢みれらのに~」と欠伸と伸びをしてうっすらと目を開けた。


「ようやくかよ。起きろって、部屋片付けてやったから」と言った時、


「あんた何で上から目線なのよ、ちょっとおかしくない?」と立ち上がり、歩み寄ってくる


「そっそんなことねーよ」と目を背ける。

 彼は思ったのだ。

 -思った以上にコイツ可愛いかもしれない-と。

 しかし、そこで思い直す、俺には想い人がいる。と

 もちろんこの目の前にいる少女ではない。当然だが。その想い人は同じクラスにいる。

 いつも明るく、美しく、全てが素晴らしい。


「ちょっと何ニヤけてんのよ」と目の前にいた優華が言う。


 彼は慌てて「何でもない」と答えて、

「いいから今日はもう寝るぞ」と言う。


「そうね、そうしよう」と彼女が納得してくれたので孝樹は優華を連れて二階に上がっていく。


「俺は自分の部屋で寝るから、おまえはこっちな」


「はいはい」と言って入って言った。


 孝樹は自室に入り、ベッドにドカッと腰を下ろした。

 そして徐に音楽プレーヤーの電源を入れ、同居人のことを配慮してイヤホンを使いお気に入りの曲を聞き始めた。


 彼はそのまま深い眠りへと落ちていった。



 目を覚ますと朝になっていた。

 時刻は七時、学校に登校するまで一時間はある。

 彼は隣の部屋で寝ているであろう同居人・千摩優華を起こすため、彼女の部屋の扉の前に立った。


 少々躊躇いつつ、扉をノックする。返事はない。


 ちょっと強くノックしてみた。それでも返事はない。


 今度は呼んでみたが、やはり返事はない。


 迷ったあげくに彼は中に入ることに決めた。しかしやはり躊躇う。何と言っても相手は女子なのだ。当たり前だ。

 しかしこうしている間に時間は過ぎていく。

 彼は思い切って扉を開きベッドに近づいた。

 そこには人形のように眠っている優華がいた。

 孝樹は彼女を揺すって起こした。

 昨夜のようにまた寝ぼけていた


「もう食べれにゃいよー、でもまだた…べ…?」

 ようやく目を覚ましたらしい、真っ直ぐ孝樹を見つめて一つずつ頭の中の疑問を取り除いているようだ。


「大丈夫か?」と孝樹が聞くと


「大丈夫。それより今何時?お腹空いた、ごはん食べたい」と言った。


「今は七時十五分だよ。ところで何食べたい?」と聞くと目を輝かせて


「何でも作れるの?」と聞いた。


「何でもってわけにはいかないけど、少し位なら料理できるよ。他にも一応家事とかもできる」と言うと


「じゃあじゃあチャーハン食べたい!!」と満面の笑顔で言った。

 なぜか孝樹も嬉しくて堪らなくなり、


「任せろ!腕によりをかけるぜ」と言って、台所に駆け出した。

 それから十分間、孝樹は心を無にしてひたすらチャーハン作りに励んだ。

 その間に優華も完全に目を覚まし、着替えて髪をとかしていた。

 彼女は髪がとても長くて、とかすだけで十分の大半を費やしていた。


 とぎ終えるのと同時くらいに孝樹作のチャーハンが机に置かれた。

 その香りにつられてリビングの椅子に座っていた優華が猛スピードで向かってきた。

 彼女は机にしまってあった椅子を引っ張り、腰をかけて


「ねぇ、食べていい?」と聞いた。


「どうぞ、召し上がれ」と言うと、彼女はものすごい速さで食べ始めた。

 こういう姿を見ると作った甲斐があると孝樹は嬉しくて堪らなくなった。


 食べ終えたのを見て、「どうだった?」と聞くと


「すごく美味しかった。うちのシェフより美味しかったかも」と笑顔を見せる。

 孝樹はすごく幸福な気持ちになった、しかし不意に優華が「そう言えば今何時?」と言う。


 孝樹は部屋にある時計を見た。

 気づかない内に八時十五分となっていた。


「やばっ!早く準備しないと遅刻しちまう」


「うそっ!早く早く」

 二人は慌てて準備をして学校に向かった



 二人はほぼ同時に教室に飛び込んだ。

 まだ担任は来ていなかった。


「おっ、ギリギリセーフだったな」と吉原が言った


「てか、何で二人一緒に入ってきたの?」と佐能が疑いの目を向ける

 二人は声を合わせて「たまたまそこで会って」と言った。

 そして自分たちの席へ向かう。

 席に着くのと同時位に担任の阿波が入ってきた。

 室長となった吉原が号令をかけ、担任が話し始める。


「今日は何とうちのクラスに転校生が来ました~」と。

 一瞬、クラス中が押し黙る。そして口々に


「転校生だってー、女子かなー」

「いやだー、イケメンの方が良いよー」

「友達になれるかなー」

「人外と仲良くなりたいなー」など


 教室中をさまざまな意見が飛び交っていた。

 そして戸を開け、入ってきたのは美人と言っても過言ではないだろう女子だった。

 クラス中が一息に盛り上がる。

 男子だけではなく、女子まで騒いでいる。

 そして注目の的となっている彼女は黒板の方を向き『芳野坂紗美』と書いた。

 みんなが拍手をして席をどこにするかという話になった。


「でも空いてるの雨河君の後ろしかないけどあそこで良い?」と担任ことロリっぽさ全開の阿波が言う。

 その時、紗美の顔が輝いてきた


「雨河君って、雨河孝樹くん?」と担任に尋ねる。


「そうだよ?それがどうかしました?」

 そこで彼女はザッと手を挙げ、「彼の後ろの席が良いです」と言った。

 そしてすたすたと早足で目的の席まで行く。

 クラス中は顔から疑問という二文字を浮かび上がらせている。


 一部からは「何で彼女が雨河のこと知ってんの?」や「俺のこと知らないかな」とか思い思いの言葉を発する。


 当の二人はというと、

「久しぶり。私のこと覚えてくれてる?」


「え?ごめん、覚えていないんだけど、どこかで会ったことある?」


「ひどいよー、幼なじみじゃない」


「マジ?全然覚えがないけど」


「小学校の三年生までご近所だったんだよ?」と言う

 彼は頭の中を探した、そして一つの答えを導き出した。


「まさか、俺に『さみゅー』と呼ばせ続けた、紗美?」と体を後ろに向けて聞いた。


「正解っ」ととても嬉しそうに笑っている。



 孝樹は思った。

 今後の学校が大変なものになるのか、と。



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