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第1話 <別れと出逢い>

 


 雨が降っていた



 冷たかったのか、暖かかったのか、全く覚えていない


 気付くとそこは公園だった


 少年は近くのベンチに腰かけて空を見た。

 止むことのない雫が顔をつたう。



 それはまるで少年の心のようだった



<別れと出逢い>


 始業式から二日後の朝


「朝だよ~、そろそろ起きなさ~い」と母が一階から呼んでいる。

 少年は布団の中から頭を出し、「わかった~」と応えた。

 少年は布団から出ると制服に着替えて、鞄を持ち、一階に下りていった。

「よぉ~孝樹。やっと起きたか」

 朝食をとっている父が孝樹と呼ばれた少年を見て言った。

「あぁー、おはよう」

 孝樹は応えた。父は味噌汁をすすりながら手を挙げた。

 孝樹は急いで準備を始めた。

 母が「ご飯食べてく?」と聞いてきたが、彼は時間がないと断って大急ぎで二人に行ってくる、と言って家を出ていった。



 ガンッ!!


 右の路地をいきなり飛び出してきた人物がいた。

「いってぇ~!いきなり飛び出すんじゃねーよ、吉原」

 飛び出したヤツに向かって叫んだ。

 すると、「すまん、すまん」と笑いながらその少年、吉原壮汰は応えた。

 二人は立ち上がり泥をはらった。するといきなり、吉原が、そういやさ、クラスの人間覚えたか?、と指をまっすぐ孝樹に向け叫んだ。

「少しなら覚えたがな~」と少しニコニコしながら返した、そして再び学校に向かい歩き出した。


 校門に続く坂を歩いていくと聞き覚えのある声がした。

 教室に入るといつも通りの賑わいがあった。

 その中心にいるのはいつもの人間だった。

 そしていつも通りの笑顔がそこにいた。

 孝樹は微笑まずにはいられなかった。


「どうしたんだ?雨河」と吉原が不思議そうに隣で聞いた。

「何でもない」と呟き窓側後ろから二番目の自席に座った。

 続くように吉原も孝樹の二つ前の自席に座った、そしてすぐに席を立ち、孝樹の隣の席に腰を下ろした。

「さっき笑ってたのは何なんだよ、教えろよー!」と聞いてきた。

「気にする事じゃねーよ」

 少し怒り気味に言う。

 その時、後ろから飛びつきざまに別の人物が同じことを言った。

「お前に関しては全く関係ない」と言い放つ。

「ひどいよ~、雨っち~」と軽いノリで言う彼は小田野竜一。

 幼馴染みにしてクラスメイト、しかし、かなりのバカなのだ。

「すまないな、孝。そういや昨日のテレビ見た?」と竜一を引き離しつつ聞く。

 彼の名は一村光介。竜一と同じく幼馴染みのクラスメイトだ。

 しかし成績はそこそこ良い。

「昨日は見てないなー」

「あっ、オレ見た。洞窟探検のヤツだろ?」

「そう、やっぱ吉原は見たよな。小田野は見た?」

「んにゃ~、オレは~メールしかしてないかな~」

「そうか。いや、ホント面白かったのに」

「そうだぞー、おまえたちー」と吉原は回転をする。

「お前高校生でする事じゃねーぞ、それ」と立ち上がりながら孝樹は親友に言った。

「心はいつでも中二だよ、イェーイ」と親友の忠告も無視で教室内を走り回り、他のクラスメイトの会議を邪魔しながら何か呟いている。

「ガリオも相変わらず変なヤツだよね」

 たった今教室に入ってきた女子が孝樹たちの方を向いて言った。

「オッス、佐能」と三人が息を揃えて言う。

 その短い会話の間に教室を二周してきた吉原が息を切らせつつ、

「おはよう、佐能。昨日の洞窟探検見たか?」

「見、見てない」と言いそそくさと自席に去っていった。

 その時、勢いよく前の扉を開けて入ってくる生徒がいた。

 その人物を見たガリオこと吉原が走っていき、

「おはよう、千摩ー」

 と話しかけた。がしかし、吉原は手を挙げたまま足を滑らし、顔面から床に激突。

 そのまま二つの机を倒しながら静止。

 その場にいた全員が呆気にとられる中、当の本人はいたってマイペース


 周りの状況など気にすることもなく、再び手を挙げ、

「改めて、おはよう、千摩!」と言った。

「おはよう、吉原君」と千摩は少し恥ずかしがりながら言った。

 少し離れた所にいた一村が言った。

「やっぱりアレってさ、千摩が吉原を好きってことなんかね?」

 それに答えるように頷きながら

「そりゃそうなんだよ~。見ればわかるじゃんか~」と小田野が言う。

「だよなー、明らかだもんな」とため息をつきつつ孝樹は言った。

「あれー、もしかして雨河君って千摩さんの事好きなの?」

 いつの間にか隣にいた佐能が孝樹の耳元でささやいた。

「そんなんじゃねーよ」と赤面して言った。

「ごめん、ごめん」と佐能は手を振って友人の所へ行った。

 その時、扉を開けてものすごい剣幕で入ってきたのはこの2―3の担任でつい最近彼氏にフラれたばかりの阿波秦南であった。

「はーい、みなさん着席するよーにー」とかなり明るい声を出し、未だ中学生ではないのかと思える程の見た目で、その容姿とぴったり合う声で自分の生徒たちに言った。

 とても28歳とは思えぬ中学生のような行動をしながら…。


 なにやらくねくねしている先生に手を挙げ、発言を求めるものがいた。

 ガリオである。(ちなみに、ガリオとは「ガリ勉・少しガリガリ・寿司を食べに行くと必ずはじめにガリを食べる男」という意味である)

「今から何するんですか?」と先生が何をするのか話す前に発言した。

 その時、クラスにいたKYガリオ以外の全ての人間が心の中で、それを今から話すんじゃないか、と思ったのは言うまでもない。


 そして2分程の沈黙の後、担任の阿波が口を開く。

「とりあえず、今日はクラス役員と係を決めよう。まずは室長と副室長を決めたいと思いまーす」

 その時、担任が言い終える前に電光石火のごとく自席に直立不動。

 そして手をこれでもかという程挙げている生徒が1名いた。

 自ずと知れたKY野郎、吉原壮汰であった。

「どうかしたの?えーと、吉原くん?」

「オレに、オレに室長をやらせてくださあああぁぁぁいぃぃぃ!!」

 怒号のごとき叫び声をあげる。クラス中が驚くなか、なぜか冷静な担任は

「それじゃあ、他にやりたい人います?」と言った。だがクラスにあの気迫を負かせる程の人間はいない。

 親友の孝樹ですら呆然としているのだから…


「他にいないみたいだから、室長は吉原くんにケッテー(笑)」

 担任が子供全開で決定事項を言う。28歳だと言うのに…

「それでは、室長も決まったのでこの続きは室長さんにお任せしまーす」

 と担任が隅によけ、かわりに新室長こと吉原が教卓の所へ行く。そして教卓をドンッ!と力強く叩き、

「それでは次に、副室長を決めたいと思う。誰か立候補する者はいるか」と言い、誰かが手を挙げるのを待った。しかし手を挙げる者はいなかった

「えーと、いないならオレが指名しよう。雨河、副室長をやらないか?」

 まさかの指名に驚き、思わず立ち上がる。

「何でオレだよ!他のヤツでも良いだろ」

「いやー、お前ならそこそこしっかりしてるから良いんじゃないかなーと」

 すると周りからも、そうだそうだ的な意見が出始め、わかったよ、と折れた。

 役員が決まり、吉原は席に戻り、再び阿波が前に立つ。そして係を決めて、その日の授業を受けた。


 6限のチャイムが鳴り始めた時、放送が入った

「2年3組の雨河孝樹君、至急職員室に来てください」

「呼んでるぞ?至急だってよ」

 一村が言う。

「だな。ちょっと行ってくるわ」と言って職員室に向かう

 職員室に入ると担任の阿波秦南が急いでやってきた。顔は青ざめていた。

「どうしたんですか?」と尋ねると、

「ご両親が事故に遭われたの、病院まで送るわ」と言った。

 その時、彼は頭が真っ白になっていくのが分かった、そして周りの全てのものが自分から遠退き、一人で暗闇に立っているような感じがした。

 車に乗り、病院へ向かう中、彼はずっと黙っていた。自分でも何が起きているのか全く分からないのだ。

「きっと大丈夫よ」と秦南が励ましてはくれるものの、当の秦南自身、不安でいっぱいなのは明白だった。

 そしてまた沈黙が訪れたのであった。

 病院に着くと外で警官が立っていて、呼ぶので中に入っていった。


 その晩、彼は一人で家にいた。電気もつけず、暗闇の中、涙を流していた。心は空になり、全てを無くしたような感じになっているのだ。そして、これからどうしたら良いのかを少しずつ考えてもいるのだが、全く浮かばないのであった。

 そうしていつの間にか日は昇り、朝をむかえていた。

 その日は学校を休み、家にいたのだが、その時玄関のベルがなった。それは10分程続いても止まることはなかった。出る気にはなれなかった彼ではあったがあまりのしつこさにイライラしながら玄関の扉を開けた。

 そこには中年の男性が立っていた

「君が孝樹君かな?」とその男性が聞いた

「そうですけど、どちら様?」と尋ねると

「私の名前は千摩春助と言います。あなたのお父さんの友人です。というか、君のご両親と私と私の妻は中学・高校の友人同士でして、すごく仲がよかったんですよ。それでその当時あることを約束しまして、『お互いの身に何か起きたときは、その家族を助ける』というもので、そして起きてしまった」

 春助という男性は顔を背けた。孝樹には泣いているのだとわかった。少し間があき、彼は言った。

「そこでだが、どうだろう、私の家で一緒に暮らさないかな?」

 孝樹の頭には複数の疑問が浮かんでくる。

 とりあえず基本的な質問をしてみることにした

「どうしてあなたが信用できると言えるんですか?」

 彼は少し驚いた顔をしたがすぐにもとに戻り、

「すまなかった。そりゃ信用できないよな」と言うとポケットから手帳を取り出すと中を開いてかざした。そこには孝樹の両親、そして彼と見知らぬ女性が一人写っていた

「これは君の両親と私たち夫婦の写真なんだ」と言った

「どうやら信用しても良さそうですね」

「ありがとう」

 そして二人はしばらく話し合った。



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