表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

マイハウス沈没

作者: 谷 風汰
掲載日:2026/06/04

 風呂上がり、俺はアイスを食べようとキッチンに向かった。

 冷蔵庫の前に立ち、扉を開ける。

 

 そのとき、足の裏にひんやりするものを感じた。

 直感的に濡れているのだと分かった。

 下を向いた。

 

 心臓が波打ち、俺は足を跳び退けた。

 床が濡れている。

 どころではない。

 床が、水に浸されている。


 背後にあった机の角に激突した。

 腰に尖った角が突き刺さり、俺は低いうめき声を上げた。

 着地の衝撃で飛び散った水が膝上にかかった。

 痛みをこらえつつ、辺りを見渡した。

 

 全体が浸されていた。

 この部屋だけじゃない。

 開いた扉の奥に見える自室も、玄関に通じる廊下も、全てがぬらぬらと輝いている。

 一面に張られた水は、なんでもない顔で波打っているように見えた。


 意味がわからない。


 風呂から水が溢れ出した?

 んなわけない。

 じゃあ雨でも降ったか? 

 なんで中に入ってくる?

 津波か?

 地震なんてなかった。


 頭痛がした。

 頭が追いつかない。

 

 机の上に置いてあるペットボトルを取った。

 中には水が入っている。

 蓋を開ける。

 飲む。


 吐き気がした。

 床に張られた水が口腔内に入ってきた気分だった。

 蓋を開けたまま、ペットボトルを投げ捨てた。

 床にぶつかり、水が弾けた。


 どうしたらいい?

 とりあえず、外に出るしかない。


 俺は歩き出した。

 その瞬間気づいた。 

 

 くるぶしが、水に浸かっている。


 さっきは足の裏だった。

 足の裏までしか浸かっていなかった。

  

 鼓動が加速し始めた。

 体の隅々が発熱した。

 水は凍るように冷たかった。

 体の熱と、水の温度が拮抗していた。 


 俺は走った。

 再度机に体をぶつけつつ、立ちふさがる椅子を押しのけつつ、玄関に向かった。

 足を床に接地する度に水が弾けた。

 体中に飛沫を浴びた。

 巨大な水たまりを走っているみたいだった。


 玄関にたどりついた。

 水は膝まで来ていた。


 ドアノブを握る。

 力を込めて捻った。

 回らない。

 びくともしない。

 両手で握った。

 歯を食いしばり、全力でねじ込んだ。

 開かない。


 急激に水位は増し、腰に迫っていた。

 確実に速度を増していた。


 ガンガンとノブを揺らした。

 それでも開かない。


 肩まで水に浸かった。

 口までせり上がってくるのを想像した。

 全身の毛が逆立った。

 

 後ろを向いた。

 コレクションしていた靴が大量に浮いていた。

 キッチンにあった家具が玄関まで漂流してきていた。


 向き直った。 

 もう一度力を込める。

 動いた。

 少しだけだが、確実に動いた。


 下唇が水に触れた。

 口の中に入りこまないように顎を上げた。

 口を閉じた。


 ドアノブを捻る。

 少しだけ動く。

 水がせり上がる。

 口が覆われた。

 鼻が覆われた。

 息ができなくなった。

 頭がクラクラし、力が抜けていく。

 めまいがする。

 最後の力を振り絞った。


 ドアノブが回った。


 跳ねるようにドアが開いた。

 顔面に激突し、俺は吹き飛ばされた。

 激流が部屋に飛び込んだ。

 息ができなくなり、全身が圧縮される。

 体が引き裂かれる。

 

 意識は消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ