第3章1 シュシュと数珠
客室のシーツを外し、体を拭く布とまとめて廊下に出す。昼過ぎには洗濯屋が来て回収し、きれいに洗ったものを返してくれる。洗い方は、こどもの頃に読んだ昔話とさほど変わらない。
手で洗うのは大変だから、この宿でも外注に出していた。
「かおり、それなぁに?」
リサが洗濯物を集めている私の腕に目を留めた。水色とオレンジ色のシュシュが二つ重ねて巻かれている。
「ああ、これは髪留めよ。中にゴムが入っていて、縛れるの。服のアクセントにもなる」
言いながら腕から外し、髪をひとつにまとめてみせる。
「そんなアクセサリーがあるんだ! 私も使ってみたい」
「布とゴムがあればすぐ作れるわ。やってみる?」
「うん!」
そう言ってサラの部屋へ行き、裁縫箱とゴム紐、当て布用に取っておかれた服の切れ端を持ってくる。
私たちは洗濯物の山をまとめ、ひとけのなくなった食堂に移動した。
「大体このくらいかな」
長さが足りないので二枚の布を合わせ、裏返しでチクチクと縫ってからひっくり返す。中にゴム紐を入れて結んでから、端を縫い込んで完成だ。
「わぁい! 可愛い」
リサの髪の色に合った黄色と草色のシュシュが映えている。
「あっお兄ちゃん、見て見て! 可愛いでしょ」
何事かと様子を見に来たシドに、クルリと回って披露した。
「へぇいいじゃん。たくさん作ってお土産にしたら」
「市場で売れるかな」
二人のきょうだいは仲良く話を弾ませていた。
その時、私の左腕のシュシュが、何かに反応するようにビクリと動いた。
「ギャッ!」
リサが悲鳴を上げて私に飛びつく。
「ご、ゴキブリ……?!」
床の上を黒い影がサッと走った。嫌な記憶が蘇る。
「どいて!」
シドが私たちを押しのけて、雑巾代わりの布を手に取った。
勢いをつけて振り下ろす。
バシッという音とともに、何かが潰れる。
「だ、大丈夫?」
恐る恐る顔を上げると、シドはケロリとした表情をしていた。
「よくいる魔物さ。虫みたいなものかな。もうやっつけたよ」
さすが男の子だ、こんな時に頼りになる。
私はホッと胸をなで下ろし、それから――シュシュにカモフラージュした数珠にそっと触れた。
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