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第30話 混沌

新生活で遅くなりました。

すみませんでした。

 退屈じゃった。

 千年という永劫の時間。

 すべてがわしの手の中に。

 

 誰にも負けない力を手にいれた。

 それがわしの望みだと思っておった。

 女王と呼ばれ奉られた。

 それでわしは満たされるはずじゃ。

 共に戦うものを手に入れた。

 やつならわしの乾いた魂を。


 じゃが、わしを、わしのこころを満たすものはこの世に一つもなかった。

 生きる意味も死ぬ意味もとうに忘れてしもうた。

  

 そうしてあの夜死にかけた。

 じゃが、わしは死にたくなかった。

 生きたかった。

 そうしてこやつと出会った。

 こやつならば――

 わしのこの退屈な日々を終わらせてくれるやもしれぬ。

 

     ***

  

 「凪人くんっ!」

 

 静香、来ちゃだめだ。

 くそ、駄目だ。

 手が抜けない。俺の胸を貫いた、白く細い腕が。

 だったら切るまでだ。

 

 ズシャ

 

 やった。駄目だ、でも……出血が多すぎる。

 息もしずらい。

 

 ジュウ……

 

 穴がふさがっていく。

 

 「……流石わしの主人様じゃな。良い再生力じゃ」

 

 「日に日にわしの不死性を引き継いでおるの」

 

 そういうシオンの腕も一瞬で、俺を超える速度で再生した。

 

 「しずっ!」 

 

 俺が静香に声をかけようとしたと同時にシオンが声を上げた。

 

 「おい、そこの娘。そこで見ておくんじゃぞ、いまからわしと主人様の血闘を始める。邪魔をするなら、うぬから殺すぞ」

 

 「ふざけるな、シオン!」

 

 グシャ! グシャ! グチャ!

 

 叫んだのと同時に俺の身体は八つ裂きにされた。

 

 「その程度の力で、何かを護ろうじゃと? 自惚れるでないぞ。うぬはこの戦いだけに集中しろ」

 

 「一つ教えておいてやろう、わしの能力は森羅の錬成。先の戦いで見せたな。刀から、炎や電気、水。わしはほぼすべての物質を錬成することができる。まあわしの創造の範疇内だけじゃがな」

 

 「そろそろ回復したか? 我が主人様」

 

 痛い、全身が裂けても俺は死ねない。死なせてくれない。

 そういえば言っていたな、死ぬこと以上の苦しみだって。

 

 「なあ、シオン」

 

 「なんじゃ?」

 

 「……なんでお前はあの時俺たちを生かした?」

 

 「なんで、わざわざ俺を喰わずに主従関係なんて結んだんだよ。本当に回復のためか?」

 

 「どうなんじゃろうな、忘れたな。ただの気まぐれじゃ」

 

 「今、わしがうぬらを殺し、うぬたちを殺すだけ。さすれば、結果は何一つ変わらんじゃろ?」 


 「気まぐれだって? 俺はそのきまぐれのせいで!」 


 全力の一撃。それでもこいつには届かなかった。

 俺の攻撃をシオンは、氷の刃を置くだけでいなした。

 

 「全く無様じゃな我が主人様」

 

 つまらなそうな目で俺を見下ろした。

 

 「わしからも一つ聞いてやろう。なぜわしに抵抗する。あの時首を差し出した。それからも御前様に生きる意思など一つも感じんかった。ただ、あの娘に謝りたいだけじゃっただろう?」

 

 「だからって、俺はここで死ねねえよ」

 

 「そうか、そうじゃったな。我が主人様はそういうやつじゃった」

 

 ボンッ!

 

 小さな水蒸気爆発が複数起きた。

 シオンが俺の周りで気づかないように爆発させたんだろう。

 

 「まだまだ終わらんぞ、我が主人様」

 

 ザシュ!

 

 反撃をしようとすれば、シオンは俺の腕を斬る。

 

 避けようとすれば、俺の足を斬る。

 

 俺の行動はすべて無に帰される。

 

 「くそっ!」 

 

 何度も挑戦した。もう人間離れした再生力を使いながら。これで俺が人間をやめてでも、こいつを倒すために。それでもこいつに届くことは一度もなかった。

 

 「はあっ……はあっ……」

 

 駄目だ、もう動けないや。

 

 「哀れじゃな。あの日わしに首を差し出さなければ、あのままわしを倒そうと戦えば。こうも苦しむこともなく死ねたのにのう。どうせ今日、お前様が助けた娘も死ぬのにのう」

 

 「俺は助けるんだよ、今日も」

 

 「何をかっこつけておる。お前様はただの人間じゃ。好きな女のためだとか、守るべきものがいるから強くなるだとか。そんなウソのかっこつけだけの力など存在しないんじゃぞ」

 

 シオンが天に向かい手をかざす。

 

 倉庫の天井から凄まじい冷気が渦巻いた。

 無数の氷柱が落ちてくる。

 

 駄目だ、もう本当に動けない。

 

 ドドドドドドドドドドッ!!!!

 

 「――ぐ、あ、あああああああああっっ!!」

 

 両腕、両足、腰、腹部。

 そのすべて氷柱に貫かれ、まるで礎のように倉庫の床に縫い付けらた。

 

 痛い、血が舞った。もう死にたい。やめたい。終わりたい。心臓が無くなったのに。

 それでも、俺の身体は再生しようとする。

 一生死ぬことはできないのかもしれない。

 

 ドガァァン! 

 

 なんだこの音? 静香は大丈夫なのか?

 ダメだ体が動かせない。


 「凪人くん!!!」

 

 ……!

 この声は佳紬由さん? 出張じゃなかったのか?

 

 「……ほう?」

 

 俺を見下ろしていたシオンが、面白そうな玩具を見つけたように、ゆっくりと紅い瞳を入り口へと向けた。

 

 「久しいのう、黄色い娘。あの島での続きをやろうというのか? じゃがしばし待て。わしはうぬの大切なこやつを殺す。」

 

 「させるわけないでしょ。久しぶりに外に出れて喜んでるかもだけど、私はあなたを倒せるよ」

 

 「笑わせてくれるな、あの島であの状態で互角だったくせにか? まあ、ともかくこれは契約の血闘。この勝負を中断させる意味。うぬなら分かるじゃろう?」

 

 「分かってるわよ。それでも私がここに来た意味、あなたも分かるでしょ?」


 「ああ、そうじゃな。じゃがさすれば我が主人様がどうなるのかも分かっておるのじゃろ?」


 「分かってるわよ。だから最悪の時にしか出ない。それまでは好きにやってちょうだい。」


 「凪人くん、ごめんね。私はあなたたちの戦いに乱入できない。でも大丈夫だからね」


 「分かっているのならそれで良い」


 シオンの紅い瞳が、再びゆっくりと俺へ向いた。


 「じゃあお前様を殺して終わろうとしようか」

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