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第21話 白と銀

 宮島の山頂。フードを被った男が島を見渡している。

 

 「くっくっく……ついに出たね波導の女王。……また会えてよかったよ、レイナ」

 

 男は楽しそうに喉を鳴らした。

 

 男は自らの手で始末した女子大生の亡骸を一瞥し、興味を失ったように背を向けた。

 

 「君たち二人も、役立って良かったよ」

 

 その時、宮島の結界が破られた。

 女王の波導が結界内で満ちすぎたため、結界が消滅した。


 「あーあ、破れちゃった。もう少し見たかったけど、さすがにお暇させていただこうかな」

 

 そういうと、男は影に溶けるかのようにその場から姿を消した。

 

          ***

 

 島の商店街の近く。

 熊ならず者と凪人ならず者が対峙する処刑場と化していた。

 凪人の髪の毛が銀色へと変色していく。

 

 先手は熊からだった。

 学習した恐怖が、獣の本能を突き動かす。

 熊が額にビームを溜める。全身で出せるビームを一点に収束して放つ。

 

 ズキャアアアン!!

 

 「全くこんなものに、どうやって負けたんじゃ我が従僕は」

 「うぬを倒すなど、赤子の手をひねるようなもの」

 

 ビームが、その左掌に着弾した。

 だが、爆発は起きなかった。

 ビームは女王(凪人の身体)(以下女王)の掌で止められた。

 

 「グア……?」 

 

 「かっかっか!」

 

 女王は楽しそうに笑った。

 

 「なんと、弱き導魔なこと。この程度じゃわしを楽しませることなんてできんぞ」

 

 女王はその手のひらを熊に向けた。

 そこから、すもものカグツチのような赤き炎ではない、冷たい銀色の炎が放たれた。

 

 「グギャアア……!」

 

 熊は回避する間もなく銀の陽炎に包まれた。再生が間に合わない。

 

 「お? もう死ぬのか? 所詮は、島一つで王気取りの獣よな」

 

 熊が、断末魔と共に炎の塊となって特攻してくる。

 女王は一歩も動かない。

 

 グシャッ!

 

 女王の手刀が熊の首を貫いた。真でも貫けない核を女王はいとも簡単に破壊した。

 熊が消失していく。

 

 「もう、変形はしないのか? 最近の導魔は実につまらんのう」

 「お前も、1000年生きればここまでなれるんじゃぞ」


 女王は熊が消失する前に、核から捕食を始めた。

 

 「ふん、久しぶりに動けたと思えば、暇つぶしにもならんな」

 

 女王は熊を完食した。

 そうして、倒れている3人を冷たい瞳を向けた。

 

 「人間も落ちたものだな。あのような人間はもう現れんか」

 

 そうして、その手が新たな餌として最も近くに倒れていた、すももに向かってゆっくりと上げられる。

 

 「まあよい、わしは早う力を取り戻さないとならんからな。うぬらも食してやろう」

 

 銀色の炎が、再び女王の手に宿る。


 「では、喰ってやろう」


 その瞬間。

 

 キィン!

 

 空気を切り裂く音。白鞘の刀が、女王の手の軌道上に突き刺さり、攻撃を阻んだ。

 

 「……お?」 

 

 女王が刀の音がした方向を見上げる。

 

 「ーーやあ、凪人くん! 連絡もらったから来たけど、随分変わっちゃったね」

 

 そこには、いつもの笑顔に黄色の髪の毛の宮佳紬由が静かに立っていた。

 そして、その後ろで、佐々波と服部が3人の運搬を行っている。

 

 佳紬由は冷静な目で、この惨状を分析する。

 

 (連絡時間から、服部に連絡が行ったまでで、30分以上もラグがあった。そして、みんなのこの傷つき方)

 

 (これは、女王がやったの? いや違う、通信は結界が張られていたからか、多すぎる波導でジャミングされたかのどちらかかな?)


 (そしてみんなは、女王にやられたわけじゃない。ここに到着する直前、一つの導魔の消失反応があった)

 

 佳紬由は運ばれているすももを一瞬目配せして、目の前の少年を見る。

 

 (いや多分、何かがきっかけで女王が覚醒した。そして、導魔を倒したのかな?)


 (理由は? 凪人くんを助けるために? いやそんなわけないか。理由は今はいいや)

 

 佳紬由はふっと息を吐く。

 女王という強者を前にしても余裕を損なうことのない。

 

 「波導の女王、レイナでいいかしら?」

 

 「……」

 

 「せっかく、顕現したのだから、本気でやろうか」

 

 佳紬由は刀を構える。

 

 「ほう? いいのか? 後悔するぞ?」

 

 女王はその体に似合わなぬ王の風格で笑った。

 

 「大丈夫。私強いからさ」

 

 先に動いたのは、佳紬由だった。小手調べなどしない、強いとわかっているから最初から全力で行く。

 刀を握る手に汗がにじむ。

 佳紬由も目の前の最強の敵にどこか、緊張をしていた。

 

 「カマイタチ」

 

 佳紬由の振るった刃は、神速を超えていた。

 一瞬で数十撃。不可視の真空刃が、全方位から女王を襲う。

 

 女王は即座に反応する。だが、凪人の身体と女王の間隔はずれている。その為、数発の刃が身体を切り裂いた。 

 

 「かか、いいぞ。黄色い娘」

 

 「じゃが、その程度、術式無くともできるんじゃぞ」

 

 女王は、虚空から刀を錬成した。

 空間がねじれ、銀色の粒子が集束する。

 女王の手の中に錬成されたのは、波導そのものを物質化させた刀。 


 「消し飛べ!」 


 そしてその刀をその場で振りぬいた。

 そうすると、斬撃が佳紬由にまで届いた。

 

 そう、女王は術式無しでカマイタチのように斬撃を飛ばすことができるのだった。

 

 「人間は術式などとたいそうな名前をつけておるが、所詮烏合。わしにすればこの程度簡単にできるんじゃぞ」

 

 「まだまだ、それがどうしたのよ? 『カグラ』!」

 

 佳紬由の刀に絶対零度の冷気が纏われる。

 女王は刀に炎を纏わせて、カグツチのように技を出す。

 

 烈火の煉獄、絶対零度の氷が激突し凄まじい水蒸気爆発が発生する。

 海がゆれ、大気が雄たけびをあげる

 

 ((――もらった!))


 二人の思考は一致している。

 お互い、身体を焼きながら、刀を突きだす。

 

 グシャ!!

 

 肉を穿つ音が、二つ重なった。

 

 煙が晴れる。

 女王の刀が、佳紬由の左肩を貫いていた。

 佳紬由の刀もまた、女王の左肩を深々と貫通していた。

 肩口から、手先にかけてしびれが流れ込む。刀がお互いの神経を焼き殺す。

 

 「スサノオ」

 

 佳紬由は即座に刀に雷を流し込む。 

 

 バリバリバリバリッ!!!

 

 雷光が二人を包み込む。

 青白い雷が、お互いの髪の毛を激しく照らす。

  

 「ぐぅ……っ!?」

 

 女王が初めて苦悶の声を漏らす。

 至近距離からの雷撃。波導による防御も間に合わない。

 体が痺れ、動きが止まる。

 

 「イザナギ」

 

 防御不能の刀。即座に相手の波導を中和することにより、波導での身体強化の防御を貫通することができる。

 

 さらに佳紬由は自分の身体を再生する前に女王にさらなる追撃を行う。

 女王の右腕が吹き飛ぶ。

 

 シュゥゥゥッ……

 

 女王は右腕、そして先ほどの爆発の傷を再生する。

 佳紬由も同時に傷を癒す。

 お互い顔色一つ崩さず、痛みなどものにもしない。


 「……あーあ。いたた……」

 

 佳紬由は傷を癒しながら困ったようにため息をついた。痛みに顔をしかめることもない。まるで、指に針が刺さった程度の反応。

 

 (楽しいな……)


 ふと、佳紬由の脳裏に今まで思ったことがないような感情が浮かび上がる。


 (いつぶりなんだろう、ここまで戦えているの。案外私も円城寺と同じような感じだったんだ) 

 

 昔から、無駄な争いは嫌いだった。宮家の人間は口を開けば、誰よりも強いやら、俺はあいつに勝ったやら。そんな無駄な話ばっかりだった。

 だが、自分より格上の存在がいなくなった今、こうして命を削り合える相手との戦いに、魂が震えている。

 この高揚感は、何物にも代えがたい。


 「おい、人間よ。まだ本気じゃないじゃろう? さっさと出せ」

 

 女王が、再生した腕を振るい、楽しげに笑う。


 「わしは昔、人間が化身のような術を使っていたのを覚えている。うぬも使えるんじゃろ?」

  

 「知ってるんだ? さすが1000年の伝説か……」


 佳紬由が鞘に刀を戻す。

 カチンと、鍔鳴りの音が響く。

 

 世界の色が変わる。佳紬由の全身の波導が意気揚々と体中を循環しだす。


 「ーー心現しんげん」  

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