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第20話 誰も守れない拳

 自身の再生。現在の波導士でこの領域まで到達しているのは、宮家の白姫・宮佳紬由。波導最強・円城寺晃。

 この二名のみ。今、凪人はその領域にまで並んでいる。

 

 (俺が、みんなを助ける)

 

 杞憂の首に熊の爪が襲い掛かる。

 

 (アカン……! 真くん、すまんな)

 

 バゴォォン!!

 

 凄まじい衝撃音だった。だが、杞憂に痛みはない。

 目の前には、血を流しながらも、凪人が熊の攻撃を受け止めていた。

 

 「凪人くん……だよな?」

 

 「……ごめん! 助かったよ杞憂」

 

 まるで別人だった。胸の傷もふさがっている。波導もより洗練されている。

 

 「木場か、この短時間で何があったんだ?」

 

 真も目を見開いて驚愕している。


 凪人は、カウンターの一撃を熊へ押し付ける。

 熊がたたらを踏む。

 

 「二人とも、まだ動けるよな?」

  

 「……まだ多少は残っとる」

 

 「あいつの核はあの水晶体なのは確定だ。そして、あのビームにはクールタイムがある。大体クールタイムは18秒前後。一発撃たしたら、3人いれば倒せる。俺達ならな」

 

 「……無理だ。お前が死ぬのはどうだっていいが、それで全滅しましただ? あの女二人とも殺されちまうぞ」

 

 真が吐き捨てる。

 

 「ああ、だから俺がやるよ。絶対大丈夫。俺が死んだ後のクールタイムで、お前ら二人なら大丈夫だろ? 俺だって無理だと思われてお前に引き分けまで持っていったよな?」

 

 「凪人くん!」

 

 いつの間にか、すももが駆けてきていた。

 すもも満身創痍だった。左腕も貫かれ、出血が止まらない。

 

 「すももちゃん、大丈夫だった?」

 

 「うん、命は何とかね。そんなことより、凪人君が死ぬなんてダメだよ」

 

 「良いんだよ、俺は一度死んだ命だ。真が言っているように、俺は導魔成分が強い。再生できたのも女王のおかげだ。今更、まだ生きたいなんて思わないさ。それに、死ぬのも万が一だ」

 

 「凪人くん」

 

 「宮! 木場がこう言っているんだ、やるしかないだろ。今更結界を探して壊すこともできない」

 

 「じゃあ、私が死ぬ。私の術式で」

 

 「駄目だ! すももちゃんも死ぬのはダメだ」

 

 「しゃーない、やるしかないやろ。もうあっちも待ってくれへんで」

 

 「じゃあ、すももちゃんと杞憂でビームの後のあいつの動きを止めてくれ」

 

 凪人が前に出る。言葉ではああ言っていたものの死ぬ気など一切無い。

 

 (ビームを誘う。それでもビームが撃たれる前に核を破壊すればいい)

 

 凪人は熊の真正面にジャンプして出る。

 

 (来いよ! 得意なビームを)


  案の定、熊は最大の脅威である凪人を排除するため、予測通り額の「核」を輝かせビームのチャージを始めた。

 

 (来た! このまま、貫いてやる)

 

 空中で波導で空気を蹴る。核に向かって突撃する。チャージがたまるよりも速いスピードで。


 だが、熊はビームのチャージを止めた。凪人が熊の額に到達するよりも速く、すももに熊は向かった。

 

 熊はこの短い戦いで学習していた。この連携を読んでいた。今、正面にいる敵よりも、周りで波導を溜めていて、より傷ついている者を狙う。

 

 「しまっ……!」

 

 すももは、イザナミの構えをとっていたため、防御が間に合わない。

 

 そして額がまた、紅く光り輝いた。

 そう、熊はチャージをキャンセルしたのではない、中断を行っていた。

 

 すももはもう喰らえばもう意識は続かないだろう。

 ビームが発射される。

 真と杞憂も間に合わない。

 

 「……おい、逃げんじゃねえよ」

 

 凪人が超スピードで熊の前まで駆け上がっていた。

 

 「凪人くん!」

 

 「木場……!」

 

 凪人の右拳が熊の額を貫いた。

 

 「グギャアアアアァァッ!!」

 

 熊は思わぬ攻撃に叫ばざるを得なかった。

 

 凪人はそのまま、空中から落ちていく。

 

 「まだだ! 杞憂、すももちゃんこいつを縛り上げてくれ。真が攻撃してとどめを刺すんだ。核は、多分小さい熊のところ、どこかはわからない」

  

 凪人はなんとなく、まだ、倒せていない読んだ。倒した感触がない。

 この予想はあっている。熊の水晶体は弱点であるが、核ではない。

 

 「影楔」 

 

 「カムイ」

 

 二つの拘束技が熊を襲う。 

 

 真が脳みそあたりを貫いた。

 だが、核が見当たらない。

 

 「真! 首だ! うなじを刺せ」

 

 凪人はここで、波導の視認も格段とレベルが上がった。

 

 「よし、見つけた。このまま殺してやる」

 

 真が首を貫いた。

 

 キィィィィィンッ!!!!

 

 凄まじい金属音に近い音。

 

 (やった!)

 

 だが、熊の首の核はヒビが入っただけだった。

 

 (なんで? 固すぎる)

 

 そして、 熊の波導が、再び、その「質」を変えた。

 ヒビから、黒い瘴気のようなオーラが溢れ出す。

 

 その核から翼のような異形の肉が生えてくる。

 

 「杞憂、すももちゃん、真! 逃げてくれ、早く」

 

 熊の全身から、先ほどのビームが無指向に無数に放たれる。

 

 「ヤマト」

 

 「影の回廊」

 

 二人で3人を防御する。


 四人は、回避する間もなく、術式だよりの守りになってしまった。

 

 凪人の意識は、熱と光に包まれて、暗転した。

 

 (また、おれは誰も守れなかったのか?)

 

            ***

 

 だが、凪人はゆっくりと目を明けた。

 

 (まだ、俺は生きているのか?)

 (なんで? 生きているんだよ)

 

 凪人は再生を会得した影響か、意識は戻り立ち上がった。

 そして、 目の前の光景に、絶句した。

 真、杞憂、すもも。 三人は、ビームの直撃を受け、 戦闘服は焼け焦げ、 血を流し、 武舞台の、あちこちに、 意識を失い、倒れていた。

 

 「……」

 

 さらに異形となった熊は、生き残った凪人を冷たく見下ろした。

 凪人の脳裏に浮かぶのは、あの時の冷たいショッピングモール。非力で戦う意思もなかったあの時を。

 

 (俺は力をつけても、誰も守らずに自分だけ、導魔の力を持って生きてしまうだな……)

 

 凪人はこのまま、迫りくる死を覚悟した。

 

 「ーー待ちなさい!」

 

 甲高い、女性の声が響いた。声の方を向くとそこには、息を絶やし、片方の方を血にぬらした明美が立っている。

 

 「……明美さんなんで?」

 

 (船を動かせなかったのか? 免許ないもんな……)

 

 明美は、凪人の無事な姿を見て 一瞬、泣きそうに顔を歪めた。

 

 「……よかった。まだ生きていた……」

 

 『グルルル……』

 熊は、新たな餌の登場に その目標を、明美へと変えた。

 

 「明美さん! 来ちゃだめだ」

 

 この瓦礫の山の惨状。明美じゃ場違いだ。

 だが、明美は逃げなかった。

 彼女は自身のコートの前を開いた、そこには見慣れない機械と、赤い点滅するランプがびっしりと巻きつけられていた。

 

 (爆弾? 何を?)

 

 「凪人くん……」


 明美が泣きながら笑った。


 「……ごめんね、こんなバカな私を庇ってくれて本当にありがとう」

 

 「こんなことでしか、あなたに返すことができないけど。子どもの助けられて逃げれるわけないじゃない」

 

 「やめてくれ! 明美さん、お願いだ」

 

 「凪人くん! あなたは組織に狙わている、気を付けて!」

 

 「それと、もし私の妹にいつか会えたら、謝っておいて。ごめんねって……私からの身勝手なお願いだけど、生きて凪人くん!」

 

 (嫌だよ! もう誰も死なないでよ)

 

 明美は、凪人に最後の言葉を言い残し、そのボロボロの体で巨熊の導魔に向かって突っ込んでいった。

 彼女は、起爆スイッチを押した。

 

 「――さようなら」

 

 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!


 宮島の静かな夜空を、この日一番の爆炎が照らし出した。

 

         ***


 凄まじい轟音と爆風と熱。それを凪人はただ、見ていることしかできなかった。

 

 (また、死んだ……彼女とみんなを犠牲に導魔を倒せた)

 

 (なんで誰も守れないんだよ。誰も守れない、この力を持っていても)

 

 凪人の怒りが、絶望が自らをたたき割る。

 

 煙が晴れていく。そこに立っていたのは爆散した明美の肉片とその中央で右半身を吹き飛ばされながらも、平然と再生を始めている悪魔だった。

 

 (……全部無駄だった)

 

 明美の自爆ですら、この化け物には届かなかった。

 

 凪人の中で、何かがプツリと切れた。

 

 「……あああ……」

 

 「……あああああああああああああっ!!」

 

 凪人の身体から彼自身のものではない、冷たく禍々しい、そして、絶対的な力が溢れ出していく。

 

 凪人の胸の傷も、爆風で追ったやけども瞬時に癒えていく。

 凪人はゆっくりと立ち上がった。

 その瞳はすべてを冷たく見下ろす紅光へと変わっていた。

 

 「怒りに身を任せ、己を忘れるとはな」

 

 少年――『女王』は、再生中の巨熊を一瞥する。  

 そこには、敵意すら存在しない。あるのは、道端のゴミを見るような無関心だけ。


 「まあよい……そこの下級導魔よ。わしが今から、波導というものを見せてやろう」


 「せいぜい、本気で来るんじゃぞ」

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