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第19話 泥濘に咲く花

 そして、舞台は凪人達、大学生との3人に戻る。

 暗い山道の中。凪人は大学生二人に頭を石で打ち付けられていた。

 

 「ねえ、明美。殺しちゃいけないんだよね?でも万が一目覚めたとき、逃げないように足も潰しておこうよ」

 

 「そうね、そうしましょう」

 

 二人は少し怪訝な顔をしながら、凪人の右足の骨を同じ石で粉々に砕いた。

 

 「さあ、急ぐわよ。早く、あの男の人に引き渡さないと」

 

 凪人は今、何者かの重要な供物だった。

 

 その時、先を行く明美が安どの声を上げた。

 

 「あ! よかった! 約束通り……」


 木の間を抜けた先に、あの巨大な熊がこちらへやってきた。

 

 「じゃあ、あの熊に凪人くんを運んでもらおう」

 

 「そうね。じゃあ早速、この子どもを港まで運んで」

 

 だが、巨大な熊は動かなかった。

 ただ、再生したばかりの首で二人を見下ろしているだけ。

 

 「何してるの早く!」


 明美が苛立ちながら、謎の石を導魔に向けながら叫ぶ。

 

 「グルル……」


 導魔ののどから低いうなり声が漏れた。

 

 その目は、明美たちを仲間だとは思っている目ではない。

 

 「グアアア!!!」


 「キャァァァッ!!」

 

 明美と美奈子が、理解を超えた事態に悲鳴を上げる。

 巨熊は、命令を無視し、二人に向かって、その巨腕を振り上げた。


 バンッッ!!

 

 二人は間一髪攻撃をよけた。

 先ほどの再生で動きが鈍っている。

 

 だが、その拍子に凪人の身体を放り投げてしまった。

 

 ドンッ!

 

 凪人の身体は、山道の脇にある岩に、強くたたきつけられた。

 

 「ーーぐっ!!」

 

 背中を打った痛みで凪人の意識が強引に覚醒し。

 

 (……い、いってええ)

 

 頭が割れそうだ。足も痛い。

 後頭部に手をやると血は止まっているが、確かな傷跡が少しある。

 足も痛みは残るが、足の骨折も治っている。

 

 (そうだ、俺はあの女二人にやられたんだ)

 

 凪人はもうろうとした意識で目の前の光景を捉える。

 

 「なんで、なんで私たちを襲うのよ!?」

 

 「嫌よ! 話が違うじゃない。なんで? 誰か助けて」

 

 巨熊が、逃げ惑う二人を、まるで虫でも弄ぶかのように、追い詰めている。

 

「言うこと聞くって、『あの人』が言ってたのに!」


 明美が、半狂乱で叫ぶ。

 

「この前は、ちゃんと言うことを聞いて、島のみんなを血も流さずに飲み込んだじゃない。なんでよ!」

 

 (……!)

 

 凪人はその言葉を聞いた。

 

 (こいつたちのせいで。今ここに熊がいるということは皆も……)


 凪人の中で大きな憎悪が膨れ上がる。


 「グラアアアッッ!」

 

 巨熊がついに美奈子の足を掴み、宙づりにした。

 

 「いやああああっ!」

 

 「美奈子!!」


 熊が大きく口を開ける。


 (……死ぬ)


 凪人は、冷たい目で、それを見ていた。

 

 (自業自得だ。俺を殺そうとしたんだ。助ける義理は、ない)


 (……)

 (…………)

 (……くそっ!)


 凪人の脳裏に、あのショッピングモールで血を流して倒れていた静香の姿が浮かんだ。


 (この人たちは俺を裏切った人たちだ。それでも、今目の前で、人が死にかけている。俺は今こんな、体なんだ。いいのかよこのままで。また守らないのか?)


 「ーーやめろおおおおおおっっ!」

 

 凪人は無我夢中に地面を蹴った。

 

 だが、熊がもう片方の腕を明美に向かって振り下ろす。

 

 グシャッ!

 

 「ぐ……っ」

 

 凪人の右腕に爪が刺さる。

 

 「……え?」

 

 明美は、尻餅をついたまま呆然としていた。

 

 「なんで? 私たちははあなたを殺そうとしたのよ?」

 

 「うるさい!」

 

 凪人は熊をはじき返しながら叫んだ。

 

 「そんなの、俺にもわかんないよ! でも、もう2度と、何もせずに誰かが死ぬのは嫌なんだよ」


 「走れ! 行けよ速く。港まで走って逃げてくれよ」

 

 「……!」


 「早くいけよ!!」

 

 明美と美奈子は互いの顔を見合わせ走り出した。

 

 「ごめんなさ……」

 

 と小さくつぶやき、港へ駆け出した。


 

         ***

 

 数分後。

 

 港にたどり着いた明美と美奈子は、桟橋の暗がりに人影を見つけた。

 深くフードをかぶった、謎の男。

 

 「あ……!」

 

 明美が男に駆け寄る。

  

 「あの! 言ってたことと、違うじゃないですか! あの化け物、私たちを……!」


 「……」

 

 フードの男は何も答えない。

 

 「……聞いているんですか!?」

 

 「……別に僕は、あの導魔が君たちを襲わないとは言ってないよ。何か勘違いしていないかい? 僕が欲しいのは女王の器だって言ったよね? そのために君たちの死が必要だっていうことなんだよ」

 

 「そんなこと! おかしいじゃないですか!!」

 

 「何がおかしいの? 状況は刻一刻と変わるんだ。後悔するなら、女王の器と出会ったのが早すぎたことだね。最初から、敵として会っていればよかったかもね」

 

 フードの男はそう言い放ち、フードの胸から銃を取り出した。

 

 「まあ、今僕が殺そうかな。波導で君たちを殺してもいいけど、こういうのでもいいかな」

 

 男が明美に銃口を向けた。

 

 パンッ!

 

 乾いた銃声が港中に響きわたる。

 だが、明美は無傷だった。

 

 「美奈子!?」

 

 美奈子が明美を突き飛ばし、庇っていた。

 美奈子の背中に赤い花が咲いた。

 

 「明美、逃げて!」

 

 明美は無我夢中に逃げた。

 戦闘の音が聞こえる方向へ走っていった。

 

 だが、フードの男は明美を追わなかった。

 

 (なんで? 追ってこないの?)

 (そうだ、なんで私たちみたいな、一般人をこの任務に使ったの? 波導も使えないのに)

 

 (あいつは凪人君と接触できないんだ)


 パンッ!


 背後でもう一発銃声がした。

 だが、明美は振り返らない。涙をこらえ、友のために助けを求めに行く。そんな身勝手な願いを自身の妹と同じぐらいの少年に託すために。

 

          ***


 山の中腹。

 凪人は、意識を失った女子大生二人を逃がした後、単身、あの巨熊と対峙していた。

 後頭部からの出血は止まり、骨もなぜか再生しているが、じくじくと、殴られているような鈍痛が続く。


 「グルルルル……」

 

 熊は、やっと本命を見つけたように凪人をにらみつける。


 (お願いだ! 誰か結界を壊してくれ! 電波があれば、連絡が届く)

 

 (俺がやるしかない。こいつが生きてて、あいつらがいないということはもう……)

 

 「行くぞ! 熊野郎!」

 

 凪人が床を蹴ったその瞬間、熊からビームが放たれる。

 

 ズドドドドドォォォォォン!!!!


 とっさに回避したが、その爆風で、山の下の商店街まで吹き飛ばされた。

 

 「なんだよ、あれ?」

 

 (真の気弾とは、レベルが違う、波導の放出)

 (当たれば一撃死)

 

 『グルルル……』


 熊は獲物がまだ生きているのを確認すると、ゆっくりと凪人が吹き飛ばされた商店街へとその巨体を進めてきた。


 (だめだ、あのノータイムのビームがある限り、近接戦闘ができない。佳紬由さんが昔言ってた、強い技にはどこか、デメリットがあると。でもあいつの場合、ビームのスピードも威力も発射速度も全部高水準)

 

 凪人は攻めあぐねる。おそらく、3人もこのビームでやられたと予測すれば、凪人はより一層警戒する。

 

 熊が商店街の中央で仁王立ちのまま何もしてこない。

 

 (撃ってこないのか? 遠距離なのに?)

 

 凪人はさらに熊と距離をとった。

 商店街の端まで行った。

 熊は一直線に走ってきた。

 だが、凪人はそのまま、熊の顎にカウンターアッパーを喰らわせた。

 

 「よし!」

 

 (そうか、こいつは遠距離ではビームを撃てないのか?)

 

 だが、その憶測はすぐに打ち破られる。

 

 ドドドドドォォォン!!!!

 

 先ほどとおなじくらい距離をとった熊がビームを放った。

 

 (距離じゃないのか? じゃあリキャスト時間か? そうだ、チャージタイムがあるんだ。だからさっきは遠距離にいたのに突っ込んできた。じゃあ、今が攻めるチャンス)

 

 凪人は進む。まだ、波導は残っている。

 

 (ビームが回復するまでにあの水晶体を破壊する)

 

 熊は近距離も強い。腕を振りかぶる。

 だが、凪人は精一杯にその攻撃をよける。

 

 「もらった!」

 

 水晶体に向けて、蹴りを喰らわせる。

 

 強い波導を一点に集中させれば、格上にもワンチャンの勝負ができる。

 

 だが、熊は腕を振りかぶったのではない。爪で凪人の胸を串刺しにした。

 

 「……あ」

 

 口から大量の血があふれ出る。熊は、どんどん強くなる。攻撃を学習し、戦い方を変えてくる。

 凪人は串刺しのまま宙に持ち上げられた。

 

 (やっぱり、俺は強い相手には勝てないんだ。ごめん皆)


 凪人が喰われる。

 

 ドォンッ!!

 

 熊の頭で橙色の弾丸が爆ぜる。

 真の気弾だった。

 

 熊は凪人を手放してしまった。

 

 熊が凪人をもう一度補足しようとした。

 だが、自身の影が地面に縫い付けられていた。


 凪人の血だらけ目でその光景を見た。

 

 商店街のアーケードの上で、右腕が骨折している真と全身から血が噴き出ている、杞憂が立っている。

 二人が寄ってくる。

 

 「凪人くん、すまんなあっちで寝よったわ」

 

 「ごめんね、凪人くん痛かったでしょ?」

 

 二人は生きていた。ボロボロになっていても。

 真は今は本来の人格へとなっている。

 

 「もう少しで倒すから、それまで死なないで」

 

 「真くん! アカン! 避けな!」

 

 熊がまたビームを撃とうとした。

 

 杞憂が影で凪人を遠くへ飛ばす。

 

 「杞憂君、波導を渡すから、影の回廊使える?」

 

 「ああ、任してや」

 

 また、ビームが二人を襲った。

 だが、今回は真が波導を供給し続けたため、守りきれた。

 

 だが、杞憂は波導を使いすぎたため、座り込む。

 熊が詰めてきており、右腕が杞憂の前までやってきていた。

 

         ***


 (ああ……俺は死ぬのかこのまま)

 

 凪人の意識はもう深く冷たい奥の底まで沈んでいた。

 胸に空いた穴から血液と波導が漏れ出ていく。

 肺に血がたまり呼吸ができない。

 凪人は、死ぬ直前に走馬灯が駆ける。

 

         ***

 

 武道大会前、訓練場にて。

 

 「佳紬由さん、なんで佳紬由さんの傷はすぐ治るのですか? 術式?」

 

 「波導での体の再生? うーんそうだね。凪人くんにはまだ早いかな。再生は私レベルの波導士でも高難易度。私ともう一人の波導士しか、今の波導士でできる人はいないんだよ」

 

 「そうなんですか?」

 

 「うんそう、波導は身体の強化をするのは簡単だけど、波導で何かを生成するのは難しいの。波導は精神エネルギー、精神から肉体を生成することは、多くの波導を消費する高難易度の技」

 

         ***


 (そうか、俺はこのまま死んでしまうのか。今身体を再生しなければ、俺は)

 

 (集中しろ。血の流れを想像するんだ。精神から肉体を生成する)

 (やるしかない……!)

 

 凪人は途切れかけの意識の糸を手繰り寄せる。

 想像する。自分自身の身体の隅々を。体全体に張り巡らされている血管を。心臓から血が流れ、全身まで酸素が送られる。その酸素を細胞が消化して、生命は活動を行う。食べたものは栄養に。飲んだものを生命エネルギーに。


(イメージしろ、俺の波導よ、血となって肉となれ)

 

 だが、血は止まらない。イメージが追い付かない。

 

 (……ダメなのか?)

 

 『ーーわしの波導が流れておるのじゃぞ、その程度で死ぬでないぞ』

 

 (……!)

 

 心の奥底から、冷たい女の声が流れてくる。

 

 だが、それは好機だった、凪人の稚拙な再生のイメージが女王の莫大な波導を触媒として強引に後押しした。

 

 ブシュュー……

 

 胸の傷口がふさがり始める。肉が盛り上がり、血管が伸び、神経が戻る。折れた骨も再生していく。


 「――ガハッ!!!!」

 

 凪人は、肺に溜まった血を全て吐き出し、 凄まじい勢いで息を吸い込んだ。


 「できた……生き延びれた。死んでないんだ」

 

 体はボロボロで、突貫工事の再生だ。それでも動ける。動くしかない。

 感覚もあり得ないほどに研ぎ澄まされた。

 

 (なんだこれ? 全部見える)

 

 世界がまるで違うように見える。熊の動き、真の苦しそうな呼吸、そしてもう波導がなく、死にかけの杞憂を。

 

 凪人は今、完全にゾーン状態となっている。これがこの状況を打破できる、最後の手段だ。

 

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