第18話 守るべき友
第17話の裏の戦闘の話
ズガアアアアァァン!!!
旅館の壁が衝撃波で吹き飛んだ。
杞憂の回廊も吹き飛ばされ、二人は、石畳に打ち付けられる。
「ガハッ……!」
杞憂が血反吐を吐き、真も壁にめり込みながら呻いた。
「ぐ……っ!」
「なんや、この力。衝撃波だけでこれかよ」
二人は目の前にいる強さに理解ができない。
新人波導士に任せられるほどの任務難易度ではない力だからだ。
「グルルルルル……」
4メートルの巨熊は、獲物がまだ生きていることを確認し、ゆっくりと瓦礫の中から立ち上がった。
(アカン)
杞憂は、即座に頭脳を回転させる。
(武道大会の時の凪人くんみたいや。一つ一つの攻撃が致命傷)
「真くん!」
「まだ、変身を残してるかもしれへん、さっさと核をつぶさないかんわ」
「……指図してんじゃねえって言ってんだろ」
「佐々波さんが来るまでの辛抱や。死ぬんじゃないぞ」
「……」
「ほな! 行くか!」
杞憂が走り出る。
真正面からでは勝負にならない。彼は、残った瓦礫の「影」から「影」へと、瞬時に飛び移る。
「熊さんこちら!」
「『影の刃』」
影が大きな爪のようになって熊へ攻撃する。
熊は、正面から受け止める。
「ちっ……! 結構波導込めたつもりなんやけど」
「おりゃあ!!」
真もまた、杞憂が作った隙を突き、気弾を撃ち放った。
だが、その巨体に傷一つ付けられない。
(スピードはない、遠距離でちまちま打っていればいずれは勝機も見える。そんでも、真くんも波導は限界はある。じゃあやることは最初と同じ)
「真くん! 奴はスピードはあらへん、やから隙見つけて影に閉じ込める。それまでに奴の核を貫く波導溜めてくれ」
「……わかった。だけど、手助けはしねえぞ」
「承知」
「影分身」
杞憂が複数の影から、8体の分身を出す。
「影弾」
杞憂が影で作った弾を放つ。
波導放出は術式を絡ませることで簡単になる。だが、同時に術式を使用するため、脳へのダメージもあり、さらに波導の消耗も激しい。だから、放出系の術式があっても、波導放出は習得するべき力(杞憂は術式ごしでしか使えない)。
さすがの熊もダメージとは言わずとも、多方面からの攻撃には怯む。
そして8体の影が右足に攻撃する。
影の針が足を貫通する。
「このまま引きずり込むで」
熊の足元に杞憂の影が伸びた。そして熊が沈んでいく。
「いけ! 真くん」
「……オーケー! 核は変わらず頭。行くぞ」
真が駆け出した。同期で一番の波導の操作精度。全力の威力は凪人をも上回る。
「これで終わりだ!!!」
だが、その瞬間、この二人の予想もできないことが起きる。
「……」
熊の額が縦に割れる。
そこから、第3の目のような黒い水晶体が現れる。
「そこが、核か! やっぱり導魔はクソでバカだな! なあ! 真よ!」
真の兄の人格が叫ぶ。
(違う! 兄さん、行っちゃだめだ)
真が心の底で叫ぶ。
だが、気づいたときには遅かった。
額の水晶体から熱線が放たれた。
高密度の波導のビーム。本体の杞憂にもくらってしまった。
ズドドドドドドォォォォォン!!!!
島を揺るがす轟音。
宮島の森を焼き払い、空を赤く染め上げる破滅の光。
それが、二人の意識を断ち切った最後の光景だった。
***
空が、燃えていた。
山道を駆け下りていた宮すももは、その「紅い閃光」を目撃し、息を呑んだ。 肌を焼くような熱波が、遅れて頬を撫でる。
「……嘘、でしょ」
嫌な予感に心臓が早鐘を打つ。
すももが転がるように山を駆け抜けた。
そして、旅館前に着いた。
だが、すももの目に映ったのは、先ほど見た景色とは違う。絶望の色だった。
焦げ臭いにおい、散乱する瓦礫と残骸。そして、見当たらない真と杞憂の姿と波導。
「グルァァァァァ……」
二人の傍らに立つ、巨大な影。
先ほどのかわいい熊とは違い自分の身長の倍以上もありそうな、映画のラスボスみたいな大きな化け物がそこへたたずんでいた。
(何よ! あの導魔。あんな変身を。良かった、凪人君を逃がしていて。これで、助けが来るまで耐えれる)
(それでも、真くんと杞憂くんは?)
すももの脳裏に最悪の事態が思い浮かぶ。
導魔は人間を食べ成長する。そして目の前の導魔の大きさと二人とも姿を見せない。
(食べられた……?)
(最悪を想定しても仕方ない、私がここで倒すしかないんだ)
(私が死んだとしても、凪人君たちが死なないように)
すももは覚悟を決めた。命を懸ける。それは初めてだったのかもしれない。宮家という名家に生まれ、今まで凪人とは違う理由で他人のために生きてこなかった。そんな彼女が、たった一人の少年のために、自らの命を燃やす覚悟を。
熊の巨腕がすももに振り落ちる。
「ヤマト」
術式で攻撃を弾く。
(まだ、最初から全力で行く)
「ツクヨミ」
ツクヨミ・・・波導十景の術式の一つ。一度斬りつけた相手の行動を2分間、未来視できる。
2撃目をすももは、予知した。
前回転をして、回避する。そして、熊の腕の上を駆け上がり、熊の核があると予想した首に向かい、防御不能の刃を喰らわせる。
「イザナギ」
ツクヨミとイザナギのコンボ。必殺のコンボにより、熊の太い首が血しぶきをあげて宙に舞いあがった。
(……やった)
すももは勝利を確信し、座り込んだ。
(真くんと杞憂くんを探さないと……)
その瞬間。
首を失ったはずの胴体が動き出した。そして、額があった場所から大きなエネルギー反応が起きる。
(まずっ……!)
熊は、無慈悲な閃光をすももに放った。
すももはなんとか、命だけは助かったが、閃光は左腕を貫いた。
激痛だ。さらに波導も尽きた。波導十景の上位4つの型は波導の消費が激しすぎる。
すももはもう刀を握る力ももうない
(……負けた。ごめんなさい佳紬由さん。逃げて凪人くん)
導魔はゆっくりと首のない体のまま立ち上がる。
すもも橋を覚悟する。
だが、導魔はすももを喰おうとはしなかった。
一切の興味なども示さずに、凪人がいる山へと向かった。
(……なんで?)
(なんで? 私を襲わないの? 私を食べれば再生も早まるのに。凪人くん、お願い逃げて)




