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第14話 正義

 木場凪人は今、ゾーンに入っている。

 真が撃った気弾が自身に直撃するまでの間は、0.5秒にも満たない。

 だが、凪人はその短い時間で思考を張り巡らせる。

 防御は間に合わない。なら受けるべきか? 答えはNOだ。今の凪人の波導量じゃ受けた時点で致命傷は避けれないだろう。

 それならどうするべきか? 

 答えはただ一つ。


 (波導の放出。最難関の超技術。それでも、すももちゃんも佳紬由さんも、刀に波導を込めて術式として飛ばしていた。)

 (同じだ。こいつは、それを素手でやっているだけ。藤原は強い。それでも、佳紬由さんより強いわけがない。俺にもやれるはずだ。やらないといけない。)


 凪人はとっさに右拳に溜めていた波導を手のひらだけに集束させる。

 

 「それは、無理な賭けやないの? 凪人くん」

 

 杞憂が言う。 

 いや、杞憂だけじゃない、観客席のみんなは出来るわけがないと思っている。

 

 (凪人くん、そのまま行け)

 

 だが、その中でも、佳紬由と円城寺だけは凪人に可能性を疑っていなかった。

 

 (イメージするんだ。佳紬由さんの波導操作、藤原の動きを。手のひらで圧縮させる)

  

 真の気弾が凪人の目の前に迫る。

 それとほぼ同時だ。凪人の手のひらに、黒く渦巻く波導の塊が完成した。

 

 「ーーうおおりゃあああ!!」

 

 凪人はそれを撃った。

 

ドガァァン!!

 

 白い閃光が武舞台に立ち込めた。


 凪人の荒削りな気弾。だが、真の気弾をはじき飛ばし、真の右腕を掠め抉り取っていた。


 「ーーぐっ!!」

 

 真の顔が初めて歪む。

 血が武舞台に滴る。

 凪人はその隙を逃さない。

 だが、凪人の波導はもう、尽き掛けていた。

 

 (走れ! まだ足は動くだろ)

 

 凪人は地力の体力だけで床を蹴って走り出す。

 真との距離を強引に詰める。

 

 だが真も負けじと反撃に転じる。


 「なんで、俺がてめえみたいなクソに負けないといけないんだよ」

 

 お互いの拳が互いの顔面にぶつかり合う。

 残り少ない波導。ダメージを護ることもダメージを上げることも難しい。

 ほとんど自力同士の戦い。

 真が殴り合いを続けながら、凪人に問いかける。

 

 「なんで! なんで! お前はそうやってのうのうと生きていけるんだよ。てめえは導魔を勘違いしているよ。導魔は人を喰うんだぞ。お前はそれを知らないのか? なあ!」

 

 「知ってるよ! そんなの俺が一番知ってるよ」


 凪人は叫び返し、真の頬を殴り抜く。

 

 「じゃあなんで? なんで導魔と生き続ける。俺の家族は殺されたんだよ。導魔に!!!」

 

 「だからなんなんだよ!!」


 凪人の拳が、真のみぞおちにめり込む。


 「導魔に殺されたから、導魔を恨むのかよ? 導魔だってただ、生きるために人間を喰ってるだけだ。じゃあお前は、ほかの動物を食べて生きてないのか? 生き物の命を奪ったことはないのか? いや、なんなら人間だって導魔を殺しまくってるだろ。導魔だけが悪なわけないだろ。」

 

 「当たり前だ! 導魔は人間を殺すんだぞ。それが生きるためだって家族を殺された悲しみを、弟を傷つけられて誰が許せる。誰がそんなきれいごとを聞くことができる?」

 

 真が凪人に頭突きをする。

 

 「きれいごとはお前のほうがだろ! なんで自分の悲しみを分かち合おうと思うくせに、ほかの者の悲しみを想像できない? 簡単なことだろ、お前たちが、動物を殺そうが、虫を殺そうが何も思わないのと一緒だよ。なんで、人間が標的になった瞬間、被害者面ができる」

 

 互いの拳が交差する。

 お互いは武舞台の反対側に転がり込んだ。

 

 観客席の空気が変わり始めた。

 今まで真一色だった観客席もぽつぽつと変わり始める。

 

 「おい……まじかよ」

 

 「あの女王の眷属、藤原のせがれと互角にやっているぞ」

 

 「行け! 木場!」

 

 「ジャイアントキリングだ! 行けー!!」

 

 その声にも別の声が重なる。

 

 「ふざけんな! 導魔の力を借りたやつなんてやっつけてしまえ」

 

 「やっちまえ、藤原真!!!」

 

 応援と罵声。

 会場の空気は凪人へ向けられていた。

 

 

     *** 


 真はその異様な空気を感じ取る。

 

 (俺が負ける? ふざけるな、俺は最強にならないといけないんだ。俺が、俺が! あいつは導魔と手を組んだ、くそ野郎だ。俺が殺すしかないんだ)

 

 (真の脳裏に初めて、敗北という二文字が浮かび上がった)

 

         ***


 凪人の視界が流れる血と汗で霞む。

 波導はもう、ない。

 だが、ここで二人のボルテージが限界を超えて、最高潮に達した。

 

 シュゥゥゥ!1

 

 波導がここで流れ出てくる。

 

 「「これで、最後だぁ!!」」


 お互いの声が重なる。

 

ドゴォォォンッ!!!!


 「ーーがはっ……!」

 

 だが、真の速度は凪人を上回った。

 凪人の身体が、まるで道端に飛んでいる紙切れのように、宙に飛ばされた。

 

 肋骨が砕ける。内臓が肺が悲鳴をあげる。

 

 (……ああ、そうか、俺が勝てるわけないか。ごめん、佳紬由さん、すももちゃん、杞憂。これが俺の限界だった。静香……)

 (それでも、こんな俺が準優勝まで行ったんだ、すごいだろ。負けたってほめてくれよみんな)


 (それでも……負けるのなんて、負けるのなんて嫌だ!!)

 

 (まだだ!!!!)

 

 どれだけ、波導を使えるようにした波導士とは言え、全ての波導が無くなると生命維持ができなくなるため、無意識下で少しだけ残している。

 だが、凪人は空中で魂の奥底にある、残りの波導をかすめ取り、爆発させ、真に向かって全身を使って突撃する。

 

 (これが俺の波導のすべてだ!!)

 

 「――うおおおおおおおおおっ!!!!」


 閃光のようにまっすぐと真に向かって自らの命を推進力に変え突撃する。

 

 真もまた立ち上がる。

 

 「やってやるよ! 来い! 木場凪人」

 

 右腕にすべての波導を込める。

 

 「――おおおおおおおおおっ!!!!」

 

 「――消えろォォォォォォッ!!!!」

 

 二人の、全てをかけた拳が武舞台の中央で激突する。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!

 

 武舞台全体が白い光に包まれた。

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