第13話 極限の
「ねえ円城寺、真くん明らかに雰囲気変わったわよね? 術式?」
「いや、真はね術式を使えないよ。僕と同じでね」
「真はね、みんな知ってると思うけどさ、藤原家の子なんだよね」
円城寺は周りにいる人たち全員に語りかけるように話し始めた。
すもも、杞憂、伊織、伊音。この大会の参加者も円城寺の周りで見ている。
「でも、今は真は僕が預かっている」
「真の家族は真が8歳のころに昔導魔に殺されていてね。その現場に駆け付けたのが僕だったわけ」
その言葉に、皆は息をのむ。
導魔による一家惨殺。それは波導士にとって、最も忌まわしい記憶の一つだ。
「まあ……酷いもんだったよ。幼い子が、目の前で家族を喰われたんだ。心が壊れても不思議じゃない」
「僕が預かり始めてからも、精神的に不安定だった。それでも、あの子は家族の敵のためや家柄もあって波導士になることを決めた。僕もそこからいっぱしの波導士になるように鍛え上げた。」
円城寺は過去のことを一つ一つ思い出すように話を続ける
「でも、唯一欠点があった。あの子が波導に近づくとね、今みたいに彼の兄貴の人格が出てきてしまうんだ」
円城寺が、リング上の豹変した真を指差す。
「ああいう風にね、多分僕が預かる前から一緒に修行していたんだろうね。彼の中にある、二人で一つという考えが強すぎるのかな? 兄貴が代わりに戦闘を始める」
「じゃあ、一回戦も二回戦も……?」
「そう。僕たちが見ていた『冷徹な強さ』は、全てお兄ちゃんのものさ。もちろん真もきちんと強い。それでも、実践となってしまうと出てきてしまうんだよね」
「彼にとってそれがいいことなのか悪いことなのかそれは僕にもわからない。いろんな意味から凪人くんと真二人とも似たような運命かもね」
***
武舞台に移そう。
凪人の目の前にいるのは、先ほどの笑顔の影など見えない冷徹な波導士の姿だった。
凪人と真の間には、到底追いつけないような差ができている。
「じゃあ、俺からも行ってやるよ!」
ゴアアアァァァァッ!!!!
莫大な波導が凪人からあふれ出す。
そして、凪人が床を蹴り真へ迫る。
その右拳に波導を溜め続ける。
「おりゃああ!!」
凪人の全力の一撃。
だが、真は凪人の重い拳を片手で受け止めていた。
「……こんなものか」
真が、冷たく呟いた。
「お前の波導量は多いよ。でもよ、俺だってバレバレの攻撃を止めるぐらいやわじゃないんだよ」
真は、凪人の拳を掴んだまま、逆に凪人の体勢を崩し、波導を集中させた右の肘を、凪人の腹部に叩き込んだ。
「う……!」
「痛かったか? 攻撃っていうのはこうやるんだよ。導魔に教わらなかったのか?」
凪人はまた立ち上がり、再び突進する。
今度は先ほどの攻撃とは違う、素早い連打。
右腕、左腕、右下腹部、回し蹴り。
スピードとパワーの両方を乗せた連撃。
だが、真はそれをすべて、最小限の動きで受け流し、回避する。
凪人の攻撃が、一切、当たらない。
(当たらない?なんでだよ……俺のスピードは足りないのかよ?)
最後の一撃。真はまた凪人をとらえる。
「これで終わらせてやるよ」
真は、掴んだ凪人の腕を引き寄せ、凪人の急所や関節を攻め続ける。
「がっ……!」
「ごふっ!」
「あぐっ!」
そこから、真の一方的なターンが始まった。
凪人の攻撃をかわし、膝の裏、肘の内側、首筋、脇腹。
真はすもも戦と杞憂戦から、凪人の弱点である波導の燃費に気づきそれを確実に削りきる。
一撃では削り切れないから確実に削る。
的確に凪人を傷つけるための攻撃。
こんな実力差で優勝をしたいと、言っていた自分がバカみたいに見える。
(駄目だ、こんままじゃ俺はあいつに一撃も入れられない。でも、小細工なんか通じる前にやらしてくれるような相手ではない)
(じゃあ、どうすれば?)
凪人は一時的に波導での防御を薄めた。
真はそれに気づかず凪人を弾き飛ばしてしまう。
(チャンスだ!)
凪人は地面を蹴り飛ばす。
ヒュン……!!
佳紬由もすももも見たことがないほどの速度だ。
足以外の波導をすべて捨て、全波導を速度にだけ込めた。
凪人の姿が消える。
いや、凪人は真の予測のその先へと走りこんだ。
「なに……?」
真の目が開かれる。
だが、真は凪人が防御の波導を捨てていることに気づきカウンターを狙う。
そして凪人も真に近づき腕にも波導を溜めた。
ドガアアァァァン!!!!
凄まじい衝撃音。
凪人の顔面から大量の血が流れだす。
だが、それは真もまた同じだった。
凪人のスピードが一瞬だけ、真を上回った。
観客席が、震えた。
たかが波導3か月のルーキーが、期待のスーパールーキーに大きな一撃を食らわせる。
「はあっ……はっ……!」
凪人はそれでも立つのが今精一杯だった。
「……」
真がゆっくりと立ち上がる。
「いい速度だ。でもその程度か?」
(来る!)
凪人の全てが、真に集中する。
真が真正面から殴りに来る。
二つの影が同時に足場を蹴る。
武舞台の中央で激しい肉弾戦が繰り広げられる。
お互いの拳が重なる度に大きな火花が散る。
真は凪人の成長速度に驚きの表情を隠せない。
凪人はここにきても成長していった。真に追いついていくように凄まじい成長速度。
それを可能にしたのは、女王とのつながり。
互いの渾身の拳が、真正面から激突した。
凄まじい衝撃波が、武舞台を揺らし、二人の体を、大きく後方へと弾き飛ばした。
「……はぁっ……はぁっ……!」
「……っ……」
二人は、武舞台の端で荒い息を繰り返す。
(あと、一撃だ。一撃食らわせる)
凪人の波導が切れ始める。
最後の波導を足に込める。
次の突進で、全てを終わらせる。
「……」
真もまた凪人の波導が切れ始めていることに気づく。
凪人は真に突撃する。
だが、
「……ふん」
真は笑い、構えを解いて右の手のひらを、凪人に向けた。
(なんだあれ……?_)
真の右の手のひらから高密度の波導の球体が形成される。
「……!!!」
観客席が大きくどよめく。
「気弾だと!?」
「まだ15だろ?」
観客が驚くのも当然だ。
佳紬由さんに昔聞いたこと、波導の放出は波導の操作の最後の極致。
それを、目の前の同級生がやってのける。すもももできていなかった。
「じゃあ、これで終わりだ。さよなら、犯罪者」
真が橙色の閃光を凪人に向けて投げ飛ばす。




