↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/47

第10話 僕たちが僕たちであるために

『――続きまして、二回戦、第二試合!』


『木場 凪人 対 宮 すもも!』


 アナウンスが、無情に響く。

 同じ師を持つ二人。凪人にとって確かに師匠は佳紬由だ。

 だが、今までの波導士としての道標にはいつも、目の前に立つ亜麻色の髪の少女がいた。


 共に切磋琢磨し、修行以外の時間にはゲームをしたり、他愛のない話をしたり。

 この地獄のような三ヶ月の中で、唯一日常を感じることができたのは、すももと過ごしていた時だけだ。彼女は、凪人にとっての光だった。


 そんな二人が、今から殴り斬り合う。


 凪人は半壊した武舞台の土を踏みしめた。

 さっきまでの杞憂との戦いで消耗した波導は、穂波の治療で「回復」はしたが、魂そのものにこびりついた「疲労」は、鉛のように重い。


 対するすももは同じ学生服ベースの戦闘服だが、彼女の胸には、宮家の紋が誇らしげに刺繍されている。そしてその手には、訓練用の木刀ではなく、白銀に輝く真剣が握られていた。


 円城寺たちの前で、「一勝」という課題は、もう果たしたのかもしれない。

 だが、凪人の胸には、勝利の高揚感など微塵もなかった。


(あれは、俺の力じゃない)


 凪人の中に潜む「異物」が、勝手に振るった力。


(あんなもので「一勝」と認められて、静香のいる日常に帰ったとして、胸を張れるのか)


(違う)


 凪人は、目の前に立つ、旧知の少女を見据えた。

 お互いがお互い何を賭けてここに立つのかを、言葉にしなくても伝わってくる。


(すももちゃん)


 凪人は、拳を握りしめた。


(俺は、お前に勝ちたい。女王の力なんかじゃない。俺自身の足で、俺自身の波導で)

(天才の君に勝って、佳紬由さんに一撃入れたあの時のように、胸を張って『一勝』を掴み取る!)


        ***


 対する、宮すもももまた、刀の柄に手をかけ、静かに呼吸を整えていた。

 目の前にいるのは、大好きな友達だ。

 一緒にいると楽しい。守ってあげたいとも思う。


(凪人くん……)


 けれど――波導士としては、負けられない。


(私は、この大会で勝たなきゃいけない)


(私には十景を使える才能がある。それでも佳紬由さんみたいに認められない。ここで勝たないといけない。そうじゃ無いと、私が居場所を作らないと)


(宮家の「十景」は、血を残すための道具じゃない。私が、最強だって、証明するために!)


(だから、凪人くん。……あなたでも、容赦は、しない)


           ***


 視線が交差する。

 殺意ではない。

 互いの強さを魅せる、純粋な闘志。


「…………」


「…………」


 二人は、言葉を交わさない。

 だが、その視線だけで、全てが伝わっていた。


『――はじめ!』


(俺が/私が、勝つ!)


 その瞬間、すももが即座に地面を蹴る。

 ブザービート。

 すももの姿が掻き消える。


(――っ!?)


 凪人の思考が、一瞬フリーズする。


 そして、すももの切っ先が、凪人の右肩へと迫る。

 当たれば腕の機能を奪われ、勝負が決まる一撃。


 凪人は無我夢中で、全身の波導を右半身に集中させ、防御の壁を展開した。


 ギィンッ!!


 硬質な音が響き、火花が散る。

 衝撃で凪人の体が後方へたたらを踏む。

 防御がコンマ一秒でも遅れていれば、開始一秒で「一本」を取られていた。

 冷や汗が、頬を伝う。

 弾かれたすももは、くるりと軽やかに着地し、振り返った。

 そして、ニカっと笑った。


「凪人くん、やっぱりすごいね! 今の防げるんだ!」


 それは、獲物を仕損じた悔しさよりも、好敵手(ライバル)の成長を喜ぶ、純粋な賞賛の笑顔だった。


「……ははっ、危ねえだろ! いきなり!」


 凪人は、抗議しながらも、釣られて笑ってしまった。

 さっきまでの、胸を押しつぶすような「罪悪感」や「重圧」が、すももの笑顔で吹き飛んでいく。


「まだまだ! 凪人くん本気で楽しんで戦おうよ」


 その言葉に、凪人はハッとなる。

 彼女は誘ってくれているのだ。この、一瞬で命が燃え尽きるような、ヒリヒリする領域へ。

 凪人の口元が、自然と緩んだ。

 腹の底から、熱い高揚感がこみ上げてくる。


「……ああ! 望むところだ、すももちゃん!」


 凪人もまた、重心を落として構えた。

 二人の間に、これ以上ないほど濃密で、清々しい闘志の火花が散った。


 だが、ここから両者その場から一歩も動くことができない。


 観客席が、「どうした」「始めないのか」とざわめき始める。

 だが、佳紬由と円城寺、そして真だけは、その異常なまでの静寂の意味を理解していた。


「まあ、こうなるか」


 円城寺が、面白そうに顎をさする。


「そうね、初心者の凪人くんでも、あれだけ毎日拳を交えた仲だものね」


 佳紬由もまた、二人の「見えない攻防」を見守っていた。


「あの子たちはお互いの『手札』と『癖』を知り尽くしてる。すももが斬り込もうとすれば、凪人はその予備動作を感じ取って、先に防御の壁を作る。凪人がカウンターを合わせようとすれば、すももはそれを察知して踏み止まる。3か月間の修行の成果ね」


「千日手(せんにちて)か……」


 円城寺が目を細める。


(さあ、凪人くんどうする?)


       ***


(……動けない)


 対峙するすももの額に、汗が滲(にじ)む。


(すももにはコスパよくダメージを与えられるカマイタチがある。下手に動けばその餌食になる)


 先に動いたのは、すももだった。


「――『カマイタチ』!」


 だが、それは一発ではなかった。

 5連撃。


 同時に、彼女自身も、凪人の死角へと踏み込んでくる!


(くそっ!)


 想定外からの攻撃、凪人は上体をそらし、バックステップで回避する。

 だが、その回避こそ、すももの狙いだった。


「そこ!」


 回避した凪人の目の前に、すでにすももが回り込み、刀の切っ先が、凪人の喉元に突きつけられていた。


(速い……!)

(組手の時と、全然違う!)


 ここで凪人の全身に黒い波導が纏わりつく。

 今の凪人に首だけに波導を集中させるのは、この一瞬ではリスクが高すぎる。

 だから、燃費を無視してでも扱いなれた全身での纏いを行う。


 ガキィィン!!!


 刃が黒い波導に弾かれる。

 凪人はその僅かな後隙(あとすき)を見逃さない。


 地面に足をつけた瞬間、すももに向かって加速する。

 全身に纏っていたため、ノータイムで反撃を行うことができた。

 すももは防御が間に合わない。


 ドゴッ!!


 すももの下腹部に、重たい一撃が入る。


「がっ……ぁ……!」


 すももの口から、苦悶の声が漏れる。

 華奢な体が、砲弾のように後方へと弾き飛ばされた。


 ズザザザザッ!!


 すももは地面を転がることはなく、足裏で土を削りながら、十メートル以上滑って止まった。

 その顔は苦痛に歪んでいるが、瞳の光は消えていない。


「……さすが、だね。凪人くん」


 すももが、腹部を押さえながらニッと笑う。

 その腹部には、いつの間にか分厚い「波導の層」が展開されていた。

 直撃の瞬間、彼女はとっさに全ての波導を腹部に集中させ、致命傷を防いでいたのだ。


(あの一瞬で、防御を間に合わせたのか……!)

(すももちゃんもやっぱり強いね)


    ***


(やっぱり、私みたいな貧弱な波導じゃ、凪人くんの防御は崩せないか……)


 すももが自身の刀を見つめながら、波導を込めなおす。


(ここからは確実に十景を使って仕留める。凪人くんの波導は燃費が悪い。そこを突く)

(凪人くんとは、多分波導学校のみんなよりも多くの時間一緒に組み手を行った)

(だから、凪人くんごめん。私は容赦しない)

(行くよ。凪人くん)


 すももが構え直す。


   ***


(後、10分もつかどうかか……! この全力状態で、決める!)


 凪人は、重力そのものを纏ったかのような威圧感で、すももに向かって突進する。

 凪人にとって駆け引きなどの次元ではない、すももの術式ごと、その自身の波導で粉砕する。


「――『カグツチ』!」


 すももが牽制のために放つ。

 波導十景(はどうじゅっけい)。

 宮家に伝わる、古の神の名を冠した十の型。


 カマイタチ、カグツチ、スサノオ、アマテラス……。


 森羅万象を操るその秘儀の中から、すももが選んだのは、全てを焼き尽くす「火」の型、第三景『カグツチ』。


 ボオオオォォォッ!!


 すももの刀身から、真紅の炎が爆ぜた。


「無駄よ!」


 だが、凪人はそれを避けない。

 炎の刃を、真正面から殴りつけ、掻き消す。


(馬鹿な!?  術式を、ただの「強化」で!?)


 すももの動揺は、一瞬。

 だが、凪人はその一瞬を見逃さない。

 懐に潜り込み、渾身の右ストレートを放つ。


「『カグラ』!」


 キンッ!

 刀から氷晶(ひょうしょう)が舞った。


「速い。あの術式変化の速度、並みの15歳じゃできないよ」


 観客席から円城寺が感心する。


 凪人の右腕が凍りつく。

 凪人は、焦っていた。


(手の内を知っているはずなのに、速い! 鋭い!)

(これが、宮家の「天才」……!)


 凪人が、再度、最短距離で突進する。

 今度こそ、逃がさない。右手に波導を集中させた全力の一撃がすももをとらえる。


 隙だらけの正面からの一撃。凪人は避けられてから追撃しようと考えていた。

 だが、すももは回避しなかった。

 それどころか、彼女もまた、踏み込み、刀を正眼に構えた。


(受ける気か!?)


「凪人くん、甘いよ。――『ヤマト』!」


 ガギィィィィィンッ!!!!


 凪人の最大の一撃がすももに襲い掛かる。

 だが、すももの薄い刀身に完璧に受けられた。

 すももの右腕が凪人の顔面をはじく。


『ヤマト』。絶対防御の術式。さらに防御で受けた波導をカウンターとしてオートで返す、必中の返し技。


(いってえ……)


 凪人の鼻の骨が折れた。

 さらにすももが追撃をする。


「『カムイ』」


 すももが凪人に刀を振るう。

 術式が発動する。


(――!?)


 凪人の身体が、突如として見えない何かに押しつぶされた。

 すさまじい「重力」。凪人は立てない。


「ぐ……っ!」


 膝が、折れそうだ。

 体が、鉛のように重い。


(すももちゃんの術式は何度も見たけど、やっぱり対処は難しいな)

(これが、俺と、あんたの「経験値の差」か……!)

(俺が宮家で「基礎」をやってた間、あんたは、とっくにこの「術式」を磨いてたんだ!)


「(まずいわね)」


 佳紬由の心境は、複雑だった。


(凪人くん、あの馬鹿……重力に、真正面から力で抗おうとしてる! それこそ、すももの『罠』よ!)

(『カムイ』に力で抗えば、波導の消耗は倍になる。すももは、凪人くんの「ガス欠」を誘ってる!)


       ***


(ダメだ、このままじゃ、俺の波導が持たない!)


 凪人は、重力に押し潰されそうになりながら、必死に思考する。


(この戦いの中で、成長しなきゃ! 杞憂の時みたいに!)


 視界が霞む。

 黒い波導の出力が落ちていく。

 すももの勝ち誇ったような、しかしどこか悲しげな切っ先が迫る。


(どうする!?  どうすれば、この「術式」を……!)

(ここで終わるか……!?)


 その時、極限の圧力の中で、凪人の脳裏に閃光が走った。


(――待てよ?)

(重力は、上から押さえつけているんじゃない。俺を「引っ張って」いるんだ)


 凪人は、自分の足元を見た。

 そして、ニヤリと血に濡れた歯を見せて笑った。


(なら、引かれるがままに……堕ちてやるよ!)

波導十景は、これからも技出していくよー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。