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公爵令嬢は親友の為に悪役令嬢を演じますっ!  作者: 濃厚圧縮珈琲
第二章 10歳の王子と公爵令嬢
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閑話 春を待つ灯り

 冬の夜はとっくに更け、街からも灯りが消え、人々は眠りについていた。

 

 しかし大通りから外れた、小さな通りの一角にあるパン屋の二階には、まだ仄かな明かりが灯っていた。 

 

 そこはミリアの部屋。

 小さな机の上に置かれたランプだけが、チラチラと静かに部屋を照らしている。


 室内には時折、ページをめくる音とペンが紙上を滑るだけが、控えめに響いていた。


 もう何度目かも分からない復習。

 それでも手を止める気にはなれなかった。


 ――王立学園の入学試験まで、あとわずか。


 胸の奥が……期待と不安で、じんわりと熱を持っている。


 「んん……っ!」


 凝り固まってしまった肩や腰を伸ばすように大きく伸びをして、ふと視線が横へ逸れた。


 壁に下げられた二つのドライフラワーの花束。

 ――六年前にもらった、大切な友達からの贈り物。


 乾燥し色褪せてしまっても、その形と籠められた想い。そして思い出はあの日と変わらぬままだった。



 そっと壊さぬように指先で触れると、かさりと乾いた音と乾いた紙に触れるような感触が手を伝う。

 

 「……ふふ」

 

 この花束は、約束の証だった。

 

 時々ひょっこり訪れるクラリスとアレクシスと過ごせた特別な一年の冬、雪の日に交わした言葉。

 

 ――学園で、また会おう。


 あの言葉に、私の毎日は変わっていった。

 懐かしさに小さく息を吐き、今度は机の引き出しを開けた。


 中には何度も読み返した手紙がぎっしり。しっかり丁寧に重ねてしまってある。

 

 三人の誕生日。

 年の始まりの挨拶。

 一年に二度届く手紙たち。


 それを眺めるだけで……どんなに辛くても、苦しくても……不思議と前を向けた。

 今もそうだ。


 「……もう少し、頑張ろう」


 小さく呟き、引き出しを閉めて再び本へ視線を落とす。


 ――その時、扉が静かに叩かれた。


 「ミリア、起きているかい?」


 お父さんの声だった。


 「うん、まだ勉強してる」


 扉が開き、背後から温かな湯気と一緒にやさしい匂いが広がった。


 コーンスープの香り……。


 「夜は冷えるからな」


 父は照れくさそうに笑い、机の端へ器を置いた。


 少し遅れて、お母さんもそっと部屋へ入ってくる。


 そして何も言わず、肩へ毛布をかけてくれた。


 その温もりに、胸に温かなものがじんわりと広がっていった。


 「……ありがとう、お父さん、お母さん!」


 笑顔と共に小さく言うと、二人はただ優しく頷いた。


 交わす言葉は少ない。

 けれど、これだけでも十分だった。


 ここまで来られたのは、きっと……両親からの温かさがあったから。


 スープを一口飲む。

 やさしい甘さが、冷えかけていた身体の奥へゆっくりと広がった。


 ――大丈夫。まだ、頑張れる。


 器をそっと置き、私はもう一度机へ向き直った。




 私が目指すのは、ただの合格じゃない。

 ……首席合格ただ一つだけ。


 胸を張って、私自身の力であの日の約束の場所へ立つ為に。

 ……特待生になって、両親へ学費の負担を掛けさせない為に。


 


 ――クララちゃんから、私の入学金を始め、全ての学費をエルフォード公爵家で払うと手紙で言ってくれたけど、私はそれを断った。


 だってそれは……ズルだから。

 



 ランプの灯りが、静かに揺れている。


 長い夜の先には、きっと清々しい光に満ちた朝日がやって来る。

 だから私は、頑張るんだ。


 静かな部屋に、ペン先の音が戻る。

 春は、もうすぐそこまで来ている。

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